憂愁の恋
7話
口調の中に、譲らないという強固な意志が見え隠れしている。
実際、ここまで一護が足を運んだ、という事の意味を考えれば、彼が簡単に引いてくれるとは思えなかった。
「………………」
雨竜は言葉を無くして唇を引き結んだ。
この他人には不可解な行動が何に起因しているかなんて、雨竜自身が痛いほど理解していた。
笑ってしまうしかない単純な答え。
非常に論理的ではなく……ただ感情ばかりが先走った結果。
―――――嫉妬と独占欲。
この感情に支配された己の取った態度が、一護に対してフェアじゃかったのは理解しているし、罪悪感も多少ある。
だが一方で、周囲の全てを……仲間の人生をも背負い、護ろうとする一護に反発する気持ちも、彼の中にはあった。
ルキアを救うために尸魂界に乗り込み、織姫を取り戻す為に虚圏に向かった一護。
彼はいつでも己だけを見ているわけじゃない。
誰からも必要とされる男。
差し伸ばされる腕に、無条件に応えようとする男。
自分を抱き締めようと伸ばされる腕は、同じように救いを求める仲間へと伸ばされる。
決して己一人のものではないのだ。
理不尽な言い掛かりだと頭で理解していても、心は鈍い痛みを訴える。
胸の奥のざわつき。
嵐のように心に吹き荒れる醜いエゴは、きっと告白された時から感じていたものだった。
決して表に出すつもりのなかったその滑稽な感情を、けれど雨竜はこの時、自分で抑える事ができなかった。
「……どうせ……僕、だけじゃないくせに……」
ぽつりとした呟きが、二人の間に零れる。
7/11ページ
[ 前 へ ][ 次 へ ]
[ 目 次 へ ][TOPへ]