憂愁の恋
4話

◇◇◇◇◇



鬱蒼とした森の樹々に囲まれた、山の奥深く。


他の物音は全くせず、ひっそりと沈黙した世界の中に響く水音。


それだけが存在を誇示するがごとく、蕩々と流れ落ちる滝。


水は新緑を映して澄み、降り注ぐ光を弾いて煌めいていた。


佇む雨竜の元にも、陽光を反射し淡い橙色に滲む飛沫が降り掛かる。


雨竜が逃げ込んだ場所は、亡き師匠と修行を重ねた場所だった。


遥か昔に、師匠より更に遡った時代から滅却師の修行の場となっているこの滝の在処を、知っている人間はそう多くない。


だから、雨竜がここにいるという事を他人が探り出すのは、ほぼ不可能な事だと思われた。


思われた、のだが――――――


「……石田!!」


がさりと茂みを掻き分け、いきなり姿を現した人影に、その聞き慣れた声に、雨竜はびくりと肩を震わせた。


ゆっくりと背後を振り返る。


「………っ」


そこに不機嫌に瞬く琥珀の瞳を見つけて、瞬間息を詰まらせた。


心音が急に速度を増して、頭の中が混乱する。


決して知られるはずのなかった場所。


来るはずの無い彼。


「…く………」


こくりと、喘ぐように息継ぎをする。


なのに……次の言葉が出てこない。


さんざん捜し回って来たのだろう、一護は流れ落ちる汗を乱暴に袖で拭いながら、じっと探るように雨竜を見つめた。

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