憂愁の恋
3話
「今日ぐらい、二人きりで祝ってくれんだろ?メシでいいぜ。おごれよ」
「…………」
昼間の教室の騒めきに紛れて、ふいに自分に向けられた声。
返事をしなくても、沈黙は肯定。
愛想の無い雨竜の態度は毎度の事で、一護は当然約束を了承したものと思い込んでいるだろう。
だからこれは、自分にとってのチャンスだった。
彼に黙って姿をくらます。
一護は怒るかもしれない、勝手に約束を破ってと。
それとも、たいして引きづりもせずに諦めるだろうか。
どちらにしろ、年に一度の大切な日に平気で約束を破るような、そんな身勝手な人間と、これ以上関係を深めたいなどとは思わないだろう。
ただでさえ融通の聞かない、頑なな恋人なのだから。
そうまでして………こんな稚拙な手を使ってまで一護から離れようとする己が、滑稽だった。
自分から目を逸らしてしまえば、一番楽だと分かっているのに。
どうしても目を逸らせない。
惹かれる心を止められない。
ならば、無理やりにでも引き剥がすしかないのだ。
胸の奥に突き刺さるような、苦い痛みには目をつぶって。
他人と関わって傷を負うぐらいなら、始めから独りでいればいい。
雨竜は席を立った。
おめでとう、と囃し立てられてでもいるのか、クラスメイトに囲まれ少し照れ臭そうに笑っている一護に、背を向けて。
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