口づけは甘く
5話
「……ふ……ぅ…」
差し出した舌で、うっすら出来た隙間を右から左へなぞる。
閉ざされた唇を解す動きで、何度も執拗に舐め上げてしとどに肌を濡らせば、喘ぎともつかない短い吐息が微かに漏れた。
どうやっても飲み下せず、溢れた二人分の唾液が、淡い喉元に淫らな線を描き出す。
「……あ……ぁ……」
もうそろそろ、流石に目覚めてしまう頃だろうか。
これだけ好き勝手貪っているのだから、それも時間の問題だろう。
そう思いながら、一度頭をもたげた情欲を抑制するのは難しく、一護は侵入させた舌先で彼の咥内をじっくり弄くっていく。
次第に逸る呼吸が、なお一層艶やかしい。
甘く鼓膜を擽る声にも笑みを深くした一護は、呼吸が苦しいのだろうか、背に立てられていた爪に強い力が籠もったのを、口付けの最中に知った。
ピリ、と引きつるように皮膚を走る痛み。
どうやら、シャワーを浴びたら覿面に染みる程度には、背中を引っ掻かれたようだ。
だが、だからといって、そこであっさりキスを止める気にはならない。
むしろ相手の覚醒を促すよう、与える口付けをより情熱的なものへと変えていく。
そうして力のない相手の舌を、きつく口腔に吸い上げたのとほぼ前後して、男の思惑通りパチリと綺麗な黒い瞳が大きく見開かれたのだった。
「ーーーーーんんっ!」
驚いているのか、それとも怒っているのか。
とはいえ、自分の置かれている現状を把握するのに雨竜が凍りついていたのは、ほんの一瞬だけだった。
すぐさま我に返った雨竜は、どん、と遠慮のない力で一護の右肩を叩いた。
氷点下まで下がっていた血液が一気に沸点を超えたように、真っ白な項までが鮮やかな薔薇色に染まる。
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