口づけは甘く
3話
「……起きたか?」
「……ん……」
夢現な、だからこそ妙に艶めいている声。
比較的時間にゆとりのある開業医の一護とは違って、大病院勤めの雨竜は勤務時間がかなりタイトで、肌を合わせたのは、考えてみれば久しぶりだった。
我知らず、くすぶっていた欲望をぶつけてしまったからだろうか、散々に鳴かせた喉は、まだ幾分か掠れているような感じで、下手をすれば、うっかり欲を再燃させられそうな色を含んでいた。
だが、よもやまさか朝っぱらからそんな不埒な行為に勤しんで、雨竜の機嫌を損ねてしまうのは、一護の本意ではなかった。
だから、今はまだキス程度にとどめておかないと、色々な意味で非常に不味いのだった。
(でも、まァ、目が覚めるまでは……いいよな?)
まだ浅い眠りの淵を漂っている雨竜に、チュッ…と音を立ててモーニング・キスを繰り返した。
小さな頭の両脇に肘を付き、そこに出来た狭い空間に恋人を囲いながら、サラサラと指に馴染む髪を邪魔にならない程度に掻き上げる。
それは自分だけの、朝の密やかな楽しみでもあった。
「……石田?」
うっすらと震えている眦。
まだ瞼は上がらないが、囁いている相手が誰なのかは認識しているのだろう、擦り寄るように、ごく自然な動作で彼の白い腕が伸ばされた。
そうして驚く間もなく、裸の背を確かめるみたいに、繊細な指先がゆっくりとさ迷い出す。
抱いている時なら当たり前の、けれど日常生活では滅多に有り得ない、行為。
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