short | ナノ

 きみは七色を感じていますか(2)


「ここわかんない」
「どこ?」


久々の質問に何故だか嬉しさを感じ、彼女の肩に身を寄せた。
ここ、とシャープペンが指した問題に視線を移す。

彼女とは頻繁に、額を合わせて会話したり、こうして身を寄せたりする。
先程のように彼女の黒髪で遊ぶこともよくあることだし、弁当のおかずの交換もまたよくあることだ。
校庭の隅の芝生の上で昼寝したり、その際腕枕をしてやったり。

まるで恋人同士のようだけど、あくまで僕たちは『幼馴染み』であり、その関係は揺らがない。
彼女は可愛らしいし、クラスで人気者だ。
いい娘だと思う。
でも、僕は彼女のことを恋愛視することはない。なんだか、違うのだ。
好きな人にこそならないが、大切な人。
彼女もまたそう思っているはずだ。
以前、私たちが恋人同士なんておかしいね、と笑っていたから。

だけどそんな僕たちを見て付き合っている、などと吹聴する輩が絶えない。
何度も僕たちはただの幼馴染みだと言ってもどうにも伝わらない。

幼馴染みならスキンシップだって、弁当のおかずの交換だって当たり前じゃないか?
昼寝だってするだろ。

そう言うと、必ずと言っていい程、「は?」と言われる。
こっちが「は?」だ。
普通に幼馴染みをしていると思っている僕たちにとっては実に意外なことだ。

そんな解説を何処の誰にしているのだろうか。
と疑問に思ったところで、僕の手は完成した三つ編みを解き編み込みに移っていた。


「さっき、ちっちゃい時のこと、思い出してた?」


彼女が不意に言い、僕の頬をつついた。
僕は彼女が『わかんない』と言った問題を適当に暗算して、彼女に解き方を教えようと口を開いたところだった。
暫くの沈黙の後、問題集を他所に僕は途中だった編み込みを完成させて彼女の額を撫でてやる。
またこういう仕草が付き合ってるとか言われる原因になるのだろうか。


「ああ、ちょっとだけな」
「泣き虫だったよね」
「今はちがう」
「でも泣き虫だった」
「……悪かったな」


僕は幼い頃に、いつも泣きたいときに訪れる場所があった。
町外れにある小さな祠の傍の銀杏の木の下。
古ぼけている小さなそこにはだあれもいなくて、管理する人もいないようで、僕が声をあげて泣くにはうってつけの場所だった。
祠に祀られている神様には申し訳なかったけど、僕はただ悔しくて涙した。

おじいちゃんの優しさを知らないくせに。
おばあちゃんのおはぎの美味しさを知らないくせに!

僕は両親がいないことをからかわれたのが悔しかったんじゃない。
祖父、祖母に育てられて可哀想に、と思われることが一番悔しかった。
偽善や同情の表情がとてつもなく醜悪なものに見えて、虫酸が走った。

だけど当時の僕は語彙が少なく、言い返すことが出来なくて、それがまた悔しくて。
でも、溢れ出る涙を、祖父や祖母に見せてはいけないと思っていたから、僕はいつも一人きりで泣いていた。

そうして、一頻り泣いた後だった。





prevnext

home

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -