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 聖母の抱擁


まるで子を抱く母のようだ。
僕は彼女の肩に顔を埋め、ふとそう思った。
あたたかな陽のにおいと、柔らかく包む彼女の細腕。

決して力はなく、頼りない彼女の腕が、指先が、肌がぬくもりを孕んだ時、僕は当然彼女の存在には敵わないと思い知らされる。


「どうしたの?」
「何も」
「そう、」


彼女はいつも、それ以上踏み込むことはしない。
ただ、僕の心がくすみ、不健康なとき、何も言わずにふわりと抱き締める。
子をあやすような、指先で。

あたたかい。
何もかも忘れて彼女の存在に身を委ねる。

華奢な身体で、けれどしっかりと受け止める絶対的な安心感。
僕は彼女の存在に沈み込んでいく。
深く、深く、羊水に抱かれた赤子のように。


「だいじょうぶ、」


優しい旋律が染み渡る。
緒から紡がれる血液の声。
羊水に溶け込む、彼女の子守唄。

君がいて僕がいて、剥き出しの心で愛し合う。
確かな、繋がり。

僕が君を愛するように
君が僕を包み込むように

日常は安らかな休息を求め、静かに眠る。







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