短編ログ | ナノ
またねパウワウ

これの続き

それから数日して、今度はパパに連れられて120番道路までやってきた。どうやらパパは、ジグザグマだけでは心配だったみたいだ。自分のポケモンであるヘルガーをわたしに持たせようとしたくらいだった。(もちろん、丁重にお断りした)

そして今回、ここまで連れてきたのも、わたしにもう一匹ポケモンを捕まえさせようということだったのだ。わたしは心配性だな、と思いつつも、受け取ったスーパーボールをカバンに入れてジグザグマと一緒に背の高い草むらへ向かった。
パパは自分のヘルガーやグラエナのようなちょっと強面なポケモンを探しなさいと言っていたけれど(どうせ捕まえるなら、わたしはマリルやアメタマのようなかわいい子がいいな)それはつまり、番犬のような役目が務まるポケモンをわたしに付けたいという意思表明ということなのだろう。道路の方からパパの声が聞こえる。(よぉし、こうなったら、一番初めに出てきたポケモンを捕まえよう)わざとガサガサと音が鳴るように、草むらを掻き分けて歩いていくと、斜め前からポケモンが飛び出してきた。
アブソルだった。
わたしは初めて見る野生のアブソルに、思わず感嘆の声を漏らしていた。わたしの足元にいたジグザグマはわたしとアブソルの前に勇み出て、わたしの指示を今か今かと待っていた。
アブソルは、自分の目の前に出てきたジグザグマを見て、それからその奥にいるわたしを見ると攻撃姿勢をとった。すばやさはアブソルの方が高くて、ちょうはつをうけたジグザグマは走り出してずつきを喰らわせた。アブソルは次のジグザグマのずつきをかげぶんしんをして避けると、ジグザグマにかみつこうとした。
ジグザグマはわたしの指示で後方に退いて回避すると、練習をしたミサイルばりをアブソルに向けて発射した。初めは避けていたアブソルにも、徐々にジグザグマの飛ばす針が当たってダメージを与えていた。あくタイプのアブソルには、むしタイプの攻撃技であるミサイルばりは効果抜群だったのだ。
ちょうはつの効果が切れたジグザグマは、よろけたアブソルを嗅ぎ分けてずつきを命中させると、わたしの方へ顔を向けた。今がチャンスだ、ということだろう。しかしわたしは、コントロールが悪くボールを投げるのがへたくそだった。そのため、不思議そうな顔で見上げてくるジグザグマにつぶらなひとみを命令すると、その子を従えて倒れているアブソルに近付いた。

もともと疲れていたのか、アブソルは観念したようにそこでじっとしていた。しかし、わたしがポケットからモンスターボールを取り出すと、グッと頭を上げてわたしとわたしの手の上のスーバーボールを見つめた。
ごめんね、どうかあなたもわたしの我が儘に付き合ってくれないかな、と思いつつアブソルの前にしゃがむと、ジグザグマが後ろ足で立ち上がってわたしにじゃれてきた。どうやら、何かを拾ってきたみたいだ。紫色に透き通った珠だった。
わたしがそれを受け取ろうとすると、アブソルが唸るように鳴いてわたしの手からその珠を弾き落とした。ジグザグマは怒っていたが、じっとアブソルの紅い目を見つめると、少し悲しそうな色が見えた。
わたしはそっと、アブソルのからだに手を伸ばした。意外にも、アブソルはわたしが触れるのを許した。そして、地面に転がった紫色の珠を摘まみ上げると、右手にそれを乗せた。美しいものだけれど、なんだか禍々しさがある。わたしは左手にスーパーボール、逆の手に紫色の宝珠を乗せて、アブソルの前に差し出して問うた。アブソルは、きょとんとしながらわたしを見上げた。パパの声が後ろからわたしを呼んでいた。
アブソルは、わたしとのにらめっこのあと、小さく突き出た鼻をコツンとスーパーボールに当てた。そうしてアブソルは、わたしの二番目のポケモンになった。

アブソルはすぐに我が家へ迎え入れられ(パパが厚く歓迎していた)先輩にあたるヘルガーやグラエナと一緒にいる様子が見られた。
そして、例の紫色の宝珠がいのちのたまであることが、調べて分かった。だからたぶん、へなちょこトレーナーのわたしにゲットされるくらいに弱っていたのだと思う。加えて、まだまだ幼いジグザグマの攻撃が通ったのも、そのせいだろう。

そして出発の日。
この日だけは、ママもパパも休みを取って見送りに来てくれた。そして友だちも、元気にやんなよ、と色々な道具をどれも少しずつドッサリ渡してくれた。そのせいでわたしのリュックはもうパンパンになった。
ママのパウワウとは、昨日の夜にお別れをしていたから、ここにはいない。わたしのジグザグマはわたしの腰についているモンスターボールの中で大人しくしていた。アブソルもその隣りのスーパーボールの中で眠っているみたい。
ねえ、パウワウ。
わたし、これからね、遠く離れた外国の島へ行っちゃうよ。そこはきっと、ここよりもずっと暑いところだから、もしかしたら長袖なんていらないかもね。それに、まだあなたも見たことがない素敵で不思議なポケモンたちがいっぱいいるんだよ。
ね、パウワウ。
わたしが帰ってきたら、あなたはまだ、遊んでくれるかしら?

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20170403

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