い瞳



びくりと、大げさに跳ねる肩が恨めしかった。手すりに手をかけて空を見上げていた僕に、背後からかけられた声は紛れもなく陸のもので。

「稜、どうした、・・・の?」
「り、陸・・・っ、なんでもないよ、昨日寝不足だったからちょっと眠いだけで」
「・・・でも、・・・」

夜風に晒されて冷えたはずの頬に、それよりも冷たい指が伸ばされる。

「涙・・・泣いてた・・・?」
「え、・・・!?」

やばい、涙流してたんだっけ。混乱しきった僕は、意味を持たない言葉を呟き続ける。あ、とか、う、とか。だから、陸の表情が少しだけ曇ったことに気付かなかった。

「・・・、稜は」
「え?」
「俺と兄弟になるの・・・いや?」

大切なものを触るような手つきで、頬を撫でる陸の指が。
悲しそうに垂れる眉が。
なによりも、その青い瞳が。

「・・・すき」
「・・・っ?」
「すき、スキなんだ、陸のことが。スキ、好き好き好き・・・。」

一度零れた思いは、止まることはなかった。目を見開く陸に、僕は壊れたみたいに愛を叫び続ける。好き、愛してる、陸のことをっ

・・・え?

時が止まる、錯覚。見開いた僕の視界には、目を伏せた陸の顔だけしか映ってなかった。背中に回された腕の感触。・・・唇に感じるそれは・・・。

「稜、」

き、キス・・・された?もしかして陸も・・・僕と

「陸・・・」

ぎゅ、と陸の服を握り締めて、陸を見上げる。目と目が合った瞬間、暖かくなっていた心が凍てた。

青い瞳が滲ませる感情は、・・・・・・どう、じょう?

「っ、」

気付いたときには僕は陸の手を振り払って駆け出していた。幸いなことに、僕がいたのは一階のオープンテラス。無駄に広い家、とくれば庭もとんでもない規模で。陸が僕を呼ぶ声が聞こえたけど、それよりも僕は逃げることに精一杯だった。


同情でキスをした陸が嫌だったんじゃない、・・・同情させてキスをさせた僕自身が、酷く汚いものに見えて怖くなったのだ。


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2010/03/21/

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