めて、お願い



「京夜さん、こっちは息子の稜よ」
「・・・稜、です。はじめまして」

その男の人は、陸と同じ濡れたような黒髪をもつ美しい男性だった。
京夜、というらしいその男性の家に、母からの告白を受けた次の日に早速招待を受けた僕ら。
無駄に広いその家に、そうえいば桂木って有名な会社があるな、なんてぼんやり思い出していた。

精悍な顔立ちに温和な笑みを浮かべて、僕に話しかける京夜さん。その後ろには、

「こっちはわたしの息子の陸だよ。兄弟になる同士、仲良くしてくれると嬉しいな」
「稜、・・・」
「・・・やっぱり、陸」

「あら、知り合い?」
「そうだったのか?」

きょとんとする母さんと京夜さん。悪戯に成功した子供のような、キラキラとした目でこちらを見つめる陸にいたたまれなくなって俯く。

「稜?」
だめ。いやだなんていえない。心配そうに僕を見る母さんと京夜さんと・・・陸の目が痛かった。

「だ、いじょうぶです。ちょっと昨日、興奮しすぎてあんまり寝れなくて」
「まあ、稜ったら」
「嬉しいことを言ってくれるね。でも本当に大丈夫かい?顔色が優れないようだけれど」
「ちょっと、外の風に当たってきます」

ぺこりと一礼して、席を立つ。


ああ、。

暗闇に浮かぶ無数の星。月光が柔らかく降り注ぐ中、重苦しい溜息を吐いた。


今まで苦労をかけてきた母さんが掴もうとした幸せを、僕のせいで失ってしまって欲しくなかった。・・・陸と兄弟になってしまえば、ほんの僅かでもあるかもしれない可能性が、たとえゼロになってしまうんだとしても。

陸、陸陸陸・・・りく

頬を雫が伝う。なんで・・・なんで陸なの?再婚相手の息子が陸じゃないようにと、昨日のベッドの中でどれだけ願ったことか。自覚した次の日に失恋だなんて、今時少女漫画にさえ使われないような陳腐な話だ。

なんて自嘲して。

・・・蓋を、。・・・蓋を・・・しなきゃいけない。僕のこの気持ちは、これから新しく出来る家族のカタチを歪めてしまうものだから。綺麗に蓋をして、一欠けらもそれが零れないように・・・しなきゃいけないん、・・・だ。

だから、

「 稜 」

そんなに優しい声で、僕の名前を呼ばない、・・・で


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2010/03/21/

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