もしもトリップ先が四国だったら「どうだ!すげえだろ!」「うーわー......」 奈月は目の前のものを見て顔を引き攣らせた。 奈月が長曾我部軍に拾われて早3ヵ月。どっからどうやって四国にやって来たのかは省略するとして、奈月は長曾我部軍の懐事情に頭を抱えていた。 別に自分に被害がなければどうでもいい。高い着物もいらない。化粧道具もいらない。しかし、日に日に質素になっていく食事には目を瞑っているわけにはいかなかった。 腹が減れば戦はできぬとはよく言うが腹を空かせた状態で攻め込まれたらどうするんだ。私のためにも皆ちゃんと食べてくれ、と奈月はイライラしていた。 「元親さん、また作ったんですか...」 「おうよ!これがあれば毛利の野郎だって...」 「はあ、また毛利さんですか。そんな事より野郎共さんたちと民の生活を優先してください」 「そ、そんな事より...?」 元親は大きく肩を落とした。以前奈月に「貴方の軍のお財布は空っぽなんですか?貴方の頭が空っぽだからですか?」と言われて少し泣いたことを思い出した。 それからは言い方をだいぶ優しくしてくれてはいるが、元親がどんな絡繰りを作っても彼女は喜ばない。言うのは「節約しろ」とだけ。 いつしか元親は奈月の喜ぶ顔が見たいがために動くようになった。何が彼をそうさせるのかは分からない。ただそう望むようになったのだ。 「はー...奈月の野郎はどうやったら喜ぶんだー?」 夜、甲板で元親は項垂れていた。着物も化粧道具も色々試したが、奈月は要らないと首を振るだけ。 「金を注ぎ込んだって喜ぶ子じゃないよ、あの子は」 傾国の美女じゃないんだから。 不意に足元の影が歪む。そこから一人の男が現れた。 「猿飛、お前......アイツの事知ってんのか!?」 「まあ、ね......旦那も呑まれちゃいけないよ」 猿飛は密書を元親に渡し背を向ける。 「旦那、も......?」 「そ。アレは俺様のだからさ」 どういうことだ、と元親は眉を顰める。奈月とこの男にどんな接点があるのか彼は知らない。奈月は彼が拾った時から一緒にいるが、猿飛と繋がっているような素振りは見せなかったが。 「そういうことだから旦那、」 盗らないでね。 猿飛はそう言って消えた。甲板には混乱する元親だけが残されていた。 |