『奈月ー、起きなさい!朝よ!』

『奈月、大学合格おめでとう。父さんも嬉しいよ』

『奈月、』

『奈月...』


「っ...」

はっと目が覚めると天井の木目が見える。

(ああ、夢か......)

久しぶりに父と母の声を聞いた。ふと目元を擦ると指が濡れる感覚に違和感を感じた。涙で濡れている。

私は天井裏の忍に気づかれないようにと俯いて身支度を整えたあと、部屋を後にする。

その直後、天井裏から降りてきた佐助は、閉められた障子を見つめ眉を潜めた。


目覚めが悪かったようだが、彼女はその後いつのものように自室で大人しく過ごしていた。八つ時に現れた幸村と団子を食べ、庭に忍び込んだ猫と戯れ、普通に飯を食い、湯を浴びて床についた。

しかし今朝の彼女が気になったために、当番の忍と交代して天井裏に潜んだ。

皆が寝静まった頃、彼女の様子が変わった。部屋へ降りると、彼女の目から静かに涙が零れ落ちた。

(どんな夢を見てるんだろう......)

目尻に伸ばそうとした手を一瞬止める。

自分が触っても良いのか。人を殺し血で染めてきたこの手で、戦を知らず穢れのない彼女を。忍である自分が、触れても良いのか。

(この子は、俺を、否定するだろうか......)

そもそも、何故自分はこんなにもごちゃごちゃ考えているのか。結局、伸ばされた手を握りしめ、そっと布団を掛け直す。

「お母さん、」

暗い部屋の中に響く小さな声。それを聞いた佐助はぐっと唇を噛み、天井裏へと戻った。

「お父さん...」

彼女の涙がきらりと光った気がした。


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