「はぁ......」

何回目の溜め息だろうか。もう数えきれないほど吐いてるかもしれない。

何故なら、初日に連れて来られたこの部屋からほとんど出られないからだ。

一歩でも出ようとすると、天井から猿飛佐助が降りてくる。そして嫌そうに理由を聞いてくるのだ。嫌なら聞かなければいいのに。

いちいち聞かれるのも面倒くさいので、天井に向かってお風呂やトイレに行くことを伝えてから部屋を出るようにしている。どうせ天井裏から追ってくるだろうし。

でも、やっぱり四六時中監視されてるのは気味が悪い。

(もう、疲れたな......)

ただ、食べて寝る毎日。幸村...はたまに来ては一緒にお団子を食べたりお喋りするくらい。私を監視する忍とは天井越しの一方的な会話だけ。

(あれ、私、いつから笑ってないんだろう)

縁側から見える狭い世界を眺めながら、膝を抱える。早く帰りたいという気持ちだけが私を生かしていた。


「ねえ、」

久しぶりに声をかけられた。部屋の隅にうずくまる私の前にひらりと降りた影。

「アンタの荷物どうなんってんの?開かないんだけど」

猿飛佐助が持っていたのは私のバッグだ。渡されたそれを開けて中身をひっくり返すと、筆箱、ファイル、化粧ポーチなど、あの日の荷物が出てきた。

(見当たらないと思っていたら、こいつが持ってたのか......)

「ねえ、これは?」

「携帯電話と言って、遠くの人と会話したり文を交換したりするものです。同じ物を持っていないとできませんが。」

「え、何それ!忍いらないじゃん!あ、これは?」

「財布です。これがお札で、こっちが硬貨。これは学生証と言って大学という教育機関で学問を学んでいる生徒であることを証明するものです」

「ふーん、未来は誰でも学を学べるの?」

「お金さえ払えば。その人の学力によって行く場所は変わりますが」

へーと感嘆の声をもらしながら彼は一通り荷物の説明をさせた後、武器になりそうな物はない、と全部返してきた。

「真田の旦那にも報告しとく」

そう言い残し、すっと消えて行った。私は散らかった荷物を眺めて、また溜め息を吐いた。


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