目を開けると、木目の天井が見えた。どうやら私は布団に寝かされていたらしい。ゆっくりと体を起こして辺りを見回すと、小さな机と小さな箪笥、それから押し入れと床の間にかけられている古びた掛け軸が目に入った。

部屋の中を観察していると、誰かの足音が聞こえてきた。

「入るよ」

障子が開けられると、私を殺そうとした男と真田幸村が入ってきた。

(足音はひとつだったのに......気のせいかな?)

「目が覚めたようでござるな」

「あ、はい......えと、ここは?」

「ここは上田城にござる。それで、貴殿の名前を聞いても宜しいか」

「......雨宮、奈月です」

そう名乗ると、真田幸村もペイント男も目を見開いた。

「姓があるのか.......アンタほんとに何者?」

「何者と言われましても.......」

ペイント男の疑うような視線が突き刺さる。視線を逸らすと、真田幸村が少しだけ前のめりになる。

「雨宮殿、改めて、某真田源二郎幸村と申す。この者は猿飛佐助。真田忍隊の長にござる」

「旦那ー、名乗らなくてもいいでしょうが」

「この者は上田で預かることになったのだ。文句を言うな、佐助」

「はァ!?誰が決めたのそんなこと!」

「俺だ」

猿飛佐助は額に手を当て項垂れた。猿飛佐助、架空の人物だと思っていたが。ここはやはり過去なのか、それとも平行世界の過去なのか。

(頭痛くなってきたな......)

「雨宮殿、某、貴殿が光と共に現れたのをしかと見ておりまする。忍ではないようだが......何者にござるか」

もやもやと考えていると、真田幸村が真剣な顔で問い詰めてきた。言うべきなのか。彼には私が突如現れたところを見られている。少しでも可能性があるのならば。

「私は、多分、ここよりずっと遠い未来から来たのかもしれません」

二人が息を呑んだ。頭がおかしいと思われるかもしれない。でも生きるためには正直に話すしかないと思った。

「真田幸村という名前の武将は、私の時代から数えて約400年前に活躍した武将です。それから武田信玄も。景色も土地の名前も、私の知っているものとは違います。信じてもらえないかもしれないけど、これが事実です」

二人は黙っていた。もしかしたら知識を求めて拷問されるかもしれない。異端だと殺されるかもしれない。私は震える両手をぎゅっと握った。

「雨宮殿、某は信じまする」

「旦那!」

「雨宮殿の目は嘘をついてない。それに、俺はこの目で見たのだ。だから俺は信じる」

真田幸村はこちらを見ながらニコリと笑った。

「何か困ったことがあったら遠慮なく言ってくだされ」

そう言って私と猿飛佐助を置いて部屋をあとにした。

「.........」

「.........」

「信じないから」

「え?」

猿飛佐助がポツリと呟く。

「アンタの事、信じないから。監視もする。変な真似したらすぐ殺すから」

ぞっとするようなことを言い残して彼は一瞬のうちに消えた。言われた内容はどうでもいい。別にこの城で暴れるつもりは全くない。

そんなことより、早く元の世界へ帰らねばと、改めて決心したのだ。


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