拾仇

「君の知ってることを全部話してもらうよ」


ここに来て、何日経ったのか分からない。私は手足を縛られた状態で暗い地下牢に閉じ込められていた。蝋燭が一本だけ置かれている。食事は朝晩の2回。ご飯は与えられない。干した芋と水だけ。お腹は空くし、栄養は足りない。女中さんが何回か現れ、私のトイレの世話や着替えをさせてくれる。もう、限界だった。これならあの離れで生活していた時のほうがマシだ。

竹中という人は、私の、正確には私の時代の情報をとにかく聞きたがった。それは武田の事ではなく、未来の事。何を食べ、どんな風に生活し、どのような政策がされていたか。私は分かる範囲で話した。彼は私の話を紙にメモしていた。

(帰りたい、早く...)

お館様の温かい手が懐かしい。幸村とまた縁側でお団子を食べたい。あの忍と......。

(帰りたいって、何処に?)

(私の居るべき場所は?)

考えれば考えるほど、あの夕焼け色の忍の顔が浮かぶ。あんなに嫌いだったのに、何故。

(助けに、来てくれるかな...)

体が動かない。お腹も空いた。喉も乾いた。何だかとても眠い。

(ごめんなさい、って言いたかったな...)

今まで意地を張っていた事を謝りたかった。本心じゃないって言いたかった。

(私、死ぬのかな…)

瞼が重い。目を閉じても、もう涙も出ない。

「佐助、さん......」

ごめんなさい。

「奈月!」

さようなら。


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