弐拾

「奈月!」

自分の名を呼ぶその声に、ふっと意識が戻る。二度と聞けぬと思った声が聞こえる。二度と会えぬと思っていた姿が見える。思わず声が漏れた。

「佐助、さん...」

手足の縄を解かれて顔を僅かに上げると、彼は安心したように笑って私を抱きしめた。

「迎えに来たよ」

そう言われ彼の腕に抱かれた身体が震えた。見捨てられなかった、帰る場所があった。そのことが嬉しくて嬉しくて、じわりと涙が滲む。背中を撫でるその手が優しくて彼の肩に顔を埋めた。

「...あんまり可愛い事されると襲いたくなっちゃうんだけど」

照れたような声に少しだけ笑うと、彼は私を抱きしめたまま立ち上がった。その直後、音もなく金髪の際どい衣装を着た女性が現れた。

「用は済んだか」

「ああ」

「そろそろ気付かれる頃だ。出るぞ」

「はいはいっと。じゃあ奈月ちゃん、目瞑っててくれる?」

言われるがままに目を瞑ると、冷たいような感覚が全身を襲う。思わず恐くなって彼にしがみ付くとぎゅっと抱きしめて返してくれる感覚に安堵した。

「はい、目開けていいよ」

恐る恐る目を開けると城の屋根に登っているようだ。風が心地よい。久しぶりに見た外の景色に泣きそうになった。

「かすが、竹中半兵衛は動いてる?」

「それが体調が悪いようでな。部屋から出て来ない」

「ふーん...まっ、追手はいないほうがいいしね。帰ろうか」

「はい......!」

彼は、佐助さんは私を抱きかかえ地面を蹴った。ありがとう、ありがとう、と心の中で呟きながら。


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