拾陸

部屋が離れから城内に移動しました。

そして切り替えが早いというか、何というか。とにかく、

「奈月ちゃん、おはよ」

猿飛佐助が気持ち悪くなりました。


まず、笑顔を見せるようになった。今までは睨むというか、メンチ切ってるというか、とにかく不快感を前面に出していたのだ。それが今では目尻がだらしなく下がり、口元は緩んでいる。忍とは思えぬその表情に、思わず顔を引きつらせる毎日。

それから、私に触れるようになった。それは頭を撫でたり肩を叩いたりする程度で、べたべた触ってくるわけでもないしされるがままにしている。しかし、一度正面から手を伸ばされたとき、あの首を絞められた事を思いだし体が震えたことがあった。そのとき、彼は少し悲しそうな顔をして一言、ごめんとだけ言った。それ以来は私に許可をとってから触れるようになった。

そんな彼を見て、幸村は何だか嬉しそうだ。

「佐助はよく笑うようになりましたな」

今日も幸村と八つ時に団子を頬張る。今日の団子も忍が作ったものだ。最近では機嫌が良いときは幸村の分はそのままで、何故か私の団子の量が多くなる。もちろん、そんなに食べられないし、幸村の視線が痛いので彼がいなくなったあとにお裾分けしているが。今日も3本ほど上乗せされていたので、全部幸村にあげてしまった。

「それって忍にとって良いことなの?」

「...忍にとって感情とは必要ない物にござる。しかし、今まで感情を失っていた彼奴がやっと人らしくなったことは、某には嬉しい事でござるよ」

そう言った幸村は本当に嬉しそうに、安心したように笑った。忍としての彼が良いのか、人としての彼が良いのか、私には分からないけど、

(お団子おいし…)

今の彼は悪くないと思えるようになった。私も少しだけ歩み寄ってみようかな、と思うくらいに。


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