拾伍目を開けると、見慣れた木目の天井が見えた。ゆっくりと瞬きをして、布団を捲り起き上る。しかしそこは自分が長らく使っていた部屋ではなく、もう少し広い別の部屋だった。多分、あの離れから違う部屋に移されたのだろう。(...ということは政宗さんに置いて行かれたのか) 舌打ちをして部屋をきょろきょろ見回しながら考えていると、襖がすっと開きなんだか気まずそうな忍が入ってきた。 「具合はどう?」 「......最悪です」 恐らく気絶した原因は過呼吸だろう。極度の興奮に身体がパニックを起こしたのかもしれない。 忍を一瞥してから布団に視線を落とす。 『失いたくないんだ、この子を。今度はちゃんと、大事にしてあげたい』 「あの、さ...さっき言ってたこと、本当だから...」 「大事にしたいってことですか?」 忍が恐る恐る話しかけてくるが、視線は落としたまま。彼が言っていた事を復唱すると、忍はぐっと息を詰めた。 「今まで散々酷い仕打ち受けて、はいそうですかなんて言えるわけないでしょう」 「うん、」 「私は貴方に大事にされなくても結構です。それに、」 私はここから出ようとした、それは武田に対する裏切りも同然。そんな私には此処にいる理由がない。元の世界に帰るにもずっと引きこもっていたため、何も手がかりもない。帰る場所も、この世界での居場所も失ってしまった。 「もう此処には...」 「それなんだけどね、お館様にも報告したけど、俺様が追い詰めちゃったせいもあるから不問にするって」 思わず視線を向けると忍は照れくさそうに頬を掻いていた。その顔は何だか嬉しそうでもあり、急に人間臭くなったなと何処か他人事のようにそれを眺めていた。 「お館様がね、また顔見せに来いって。また会いたくて仕方ないみたいだよ」 嬉しさがじわじわと込み上げてまた俯いた。お館様の温かい笑みが思い浮かばれる。嬉しい気持ちと申し訳ない気持ちが相まって、それは涙となって頬を流れ落ちた。 「…今までのことは任務でやったことだから謝らない。一生恨んでくれてもいい。でも、奈月ちゃんを護りたかったってことだけは覚えていて...」 涙が止まらない。言いたいことは色々あったけど、言葉が詰まって中々声が出せない。 そんな私の背中を彼はゆっくりと擦った。彼が初めて、優しく触れた。 「...そんなのっ、ずるい」 「うん」 「嫌い、です」 「...うん」 「まだ、此処に居てもいいんですか...」 静かな部屋に鼻を啜る音。布団の上で握りしめられた両手をそっと握られ、手の甲を撫でられる。黒い手袋のような物を外し傷だらけのその手は、ほんのり温かみを帯びていた。 「此処に居てよ、奈月ちゃん...」 |