拾参政宗さんが帰る朝。「...出発だ」 「世話になったな、真田」 「いえ、こちらこそ数々の土産を頂き感謝致す」 互いに握手する幸村と政宗さん。それぞれの主の後ろに着く従者たち。 「また来るぜ」 「御待ちしております」 政宗さんがこちらを見る。 「幸村、」 「奈月殿...?」 「短い間でしたが、お世話になりました」 幸村と忍が目を見開いた。 「な、何を言って...異世界から来たことを話したのでござるか!?」 「なるほどな、それで閉じ込めてたのか」 政宗さんが鼻で笑う。 「あーもう旦那!」 「す、すまぬっ...しかし、何故...」 「何故じゃないよ、妥当でしょう」 両手を強く握る。そうしないと、泣いてしまいそうだった。 「ずっと我慢してたけどもう無理。軟禁されて、外の世界との交流を絶たれて、毎日食べて寝るだけの生活は嫌だ」 「向こうの世界の雨宮奈月はもう死んだの。私はこの世界で生きるって決めた...もっと色んなことをしたい、もっと色んな物を見たい」 「もう、限界なの...」 政宗さんの提案は女中として城に迎え入れること。それは私にとってとても魅力的な提案だった。お館様や幸村を裏切ることになるが、何処か遠くへ行きたかっただけなのだ。 「ごめん、幸村。お館様は此処が私の故郷になるって言ってくれたけど...耐えられなかった...」 目から零れる涙が止まらない。幸村は唇を噛んで俯いた。 「許さないよ...」 忍がポツリと呟く。 「許さない!!!」 忍が斬りかかったのは私ではなく、政宗さんだった。 「止めろ佐助!」 「Ha!お前、随分と奈月に執着してるみてぇじゃねぇか」 刀で受け止めた政宗さんがニヤリと笑う。 「くっ…そんな訳ないで、しょっ」 「政宗様!」 「No problem!こんな迷いのある刃じゃ俺は斬れねぇよ!」 忍の腕が斬りつけられた。 「何迷ってんだよ、猿!言いたい事全部言っちまえばいいだろうが!」 「二人ともお止めてくだされ!」 「てめぇは何故奈月を閉じ込める!」 (政宗さんは、何を言ってるの...?) 「てめぇは奈月をどうしたかったんだ!」 (何で、あの人は攻撃しないの...?) 急に攻撃の手が緩んだ忍は、政宗さんに斬りつけられていた。 「さ、佐助ぇ!!!」 地面に膝を着く忍に政宗さんが刀を向ける。 「"許さない"のは何故だ」 忍が顔を上げ、私も、幸村も息を呑んだ。 「俺がしたかったのはこんなことじゃなかった...」 泣きそうに、歯を食いしばっていたのだった。 そこにいたのはあの冷徹な忍ではなく、ただの人であった。 |