拾上田城に戻ってから数日後、いつものように幸村と離れでお団子を食べていると、突然幸村が食べかけの団子を皿に戻した。「む、誰か侵入したようでござるな」 生憎幸村は今槍を持っていない。てっきり見張りの忍が知らせに来るかと思ったが、誰も来ない。 「......そういえば、前田殿が遊びに来ると聞いておりました。まさか...」 「慶次さんが?」 丁度そのとき、先日と同じように草むらから慶次さんが飛び出してきた。胸元には夢吉もいる。 「おっ、いたいた!」 「前田殿!何故城ではなくこちらに?」 「いやあ、奈月ちゃんに会いに...」 慶次さんがそう言った途端、空からクナイが降ってきて慶次さんの足元に刺さった。 「なっ、もう止めろよ!」 「アンタがこっから出て行ったら止めるよ」 音もなく幸村の隣に立ったのはあの忍。面倒くさそうに首を回している。 「いいじゃんか。奈月ちゃんだってこんなとこにずっと一人でいたら寂しいだろ?」 空気がピンと張りつめたような気がした。幸村は顔を曇らせ、忍は慶次さんを睨み付けている。 「奈月ちゃんだってほんとはそう思ってんだろ?」 (私は...どうなんだろう...) 正直、此処では幸村だけが頼りだ。それでもやっぱり城主である以上、仕事も沢山あるみたいだし、遊びに来てくれることはそう多くない。 幸村より接触が多いのは忍の方だが、相変わらず嫌味ばっかり言ってくる。最近下に降りてくることが多くなったし、孤独感は感じなくなってきた、ように思えるが。 そんな事を考えて慌てて頭を振った。 (いやいやそんな訳ないからっ...!) 「私は...」 「はいはい。風来坊は城に案内するから。旦那も戻ってきなよ?」 私が言葉を発する前に、忍は慶次さんを連れて城へと向かった。 「奈月殿、やはり一人で此処にいるのは......」 幸村の心配そうな声色に、何とか笑みを作って首を振った。 客室に風来坊を連れて旦那の帰りを待っていると、何故かじっと見つめられていた。 「野郎に見つめられても気持ち悪いだけなんだけど」 「......そんなにあの子が大事?」 「は?」 睨み付けると、風来坊は笑っていた。 「奈月ちゃんだよ。あの子、ほんとに何者なんだ?何かこう、違う世界から来た姫さんみたいな雰囲気してるし」 「...あの子は姫様なんて柄じゃないよ」 そう言ったら風来坊はもっと笑った。 「そうなのか?でも美人だし……あんなとこに閉じ込められて囚われの姫さんみたいだな」 「...何が言いたいの」 「...大事にしてんだな、忍の兄さんは。誰にも見つからないように、誰にも触れられないように......だから籠に閉じ込めてんだろ?」 思わず目を見開く。まさか、そんな。 「何言ってんの?」 笑え。 「あの子は大将の、遠縁の子で、上田で預かって...」 笑え。 「ただの箱入り娘だよ。まったく、米の炊き方も知らないなんて...」 笑えよ! 忍だろ、旦那や大将の他に大切なモノなんて要らないだろ! 「それに、俺様は仕事をしてるだけで、」 「好きなんだろ、奈月ちゃんが」 手に汗がじんわりと滲む。 「ほんとは大事にしたいんだろ。あの子が幸村と同じように自分に笑顔を見せてくれないから拗ねてるんじゃないのか」 「......」 大きく一息、溜め息を吐く。 「はあ、くだらない。アンタの話には付き合ってらんないよ」 そうだ、俺様は忍だ。感情は要らない。 俺様はにっこりと笑って部屋を後にした。 |