逆転懲戒



「父さん……こうなるのを分かっていて僕を外したんだね。兄さんの剣を見ると言っていたじゃないかッ!!その顛末がこれかッ!!」
「………藤本さん、私達に分かるように説明して頂けますね?」

まるで計算されていたかのように現れた地の王、そして奥村燐の暴走。どう考えても計画的に行われたとしか思えないその内容に、雪男とレイは藤本に問いかける。

「まぁ慌てんな二人共、今回は…「いやぁ、青いな。まるであの夜の様じゃないか」…漸く御出座しか」

藤本が話そうとした瞬間別の男の声が聞こえ、その場にいた全員が声のした方へ振り向く。森の青い炎をバックに現れたのは……長い金髪を靡かせて、白い團服を身に纏った男だった。

「ブルギニョンはそこの候補生の子供達を拘束し事情聴取、医療班に診せるのも忘れるな。それと消防隊が着いたら、消火には聖水を使わせろ。此処はA濃度の貯聖水槽がある筈だ、急げッ!!」
「はッ!!」

男は引き連れていた部下達に指示を出し、此方へと向かってくる。

「おはよう、諸君!俺はアーサー・A・エンジェル、ヴァチカン本部勤務の上一級祓魔師だ」
「……因みにコイツ、俺の次に任命された現聖騎士な」
「「「ハァアッ!?」」」






「藤本、やはりお前達は何か隠していたな。この森一帯に広がる青い炎が何よりの証拠だ」
「まぁまぁ落ち着けって、お前は真面目過ぎてギャグが通じねぇって前から思ってたぞ」
「今はそんな話をしているんじゃないッ!!大体藤本!!俺は貴様とは合わないとずっと昔から思って…」

エンジェルが言いかけたその瞬間、ポン☆という軽快な音とピンクの煙と共に現れたのは……気を失ったセレネを横抱きにしているメフィストと、燐の降魔剣を持つ右手を掴み拘束しているサタンだった。

「グオ゙ル゛ル゛ア゛ア゙あ゙ア゙ッ!!」
『煩ェなァ、マトモに制御出来ねェなら少し寝てろ』

そう言ってサタンは、燐の手に握られている降魔剣を自身が持っている鞘に収めると、燐はガクリと意識を失いサタンに引き摺られる形になる。

「おや、お久しぶりですねエンジェル。この度は聖騎士の称号を賜ったとか……深くお喜び申し上げる。すみませんねぇ藤本がヘマをしたせいで☆」
「おいそれを言うなよ仕方ねぇだろッ!!って何(元凶のクセに)ニヤニヤしてんだよお前はッ!!」ベシッ
『痛ってッ!テメェこの野郎!』

藤本とサタンがギャーギャー言い始めたのを見て、メフィストは溜め息をつく。この二人は本当に仲が悪い、似た者同士だからだろうか。犬猿の仲という言葉がしっくりとくるが、下ネタになるとやけに気が合う二人……やはり似た者同士だから(ry
なんてことをメフィストが思っていると、「ん…」と小さな声が聞こえた。どうやら二人の罵声で起きてしまったようだ、主は目を擦り辺りを見回している。

「貴様ら、到頭尻尾を出したな。“サタンに纏わるものであると判断できた場合、即・排除を容認する”………三賢者からそう許可が下りていたが、この青い炎を噴く獣は“サタンに纏わる”ものであると思わないか?そうだろうメフィスト、藤本」

セレネはエンジェルのその声で漸く意識がハッキリしてきて、エンジェルの名前を呼ぼうとするが度忘れしてしまったようだ。エンジェルの方を見て必死に「えーとうーんと」と思い出そうとしている。

「えーっと、トリプルAだったよね?」
「ははは、確かに俺の頭文字は其々Aがつくぞ?」
「あ、そうだ!エンゼルパイッ!!」

エンゼルパイという妙に名前に似ているあだ名を聞き、周りの者も思わず吹き出す。サタンなんてツボって肩を震わせている。

「ハッハッハ!相変わらず面白いことを言うなセレネは!俺の名前は国民的お菓子じゃないぞ?」

そう言ってセレネの頭をポンポンと撫でるエンジェルに、メフィストは主に触るなオーラを出しているが、エンジェルは全く気づいていないようだ。
というより、あだ名をつけられても怒らずに、寧ろ誉めているエンジェルは大物だと思う。色んな意味で。

「エンゼルパイじゃなくてえーと……あ、思い出したッ!!天使君だッ!!」

………シリアスな雰囲気台無しである。
本当のあだ名も然程変わらないことに、誰もが心の中でツッコミを入れた。思い出せたことが嬉しかったのか、「だ だ ん だ♪團服なーら〜♪て て ん て♪天使のはーね〜♪」と替え歌を歌って、「ちょ、これ以上笑わせんといて!」と志摩辺りから言われている。

「貴様らの背信行為は三賢者まで筒抜けだ、この一件が決定的な証拠となった」
「……私は尻尾など出していませんよ、紳士に向かって失敬な」
「いや確かにそういう意味にもとれるけど、てかそれだと俺も悪魔になっちまうじゃねぇかよ」

三人が話している最中に、サタンは燐に『いい加減起きろ馬鹿』と言って叩いて起こす。燐は「痛ってッ!!」と頭を擦りサタンの方を睨み付けるが、サタンはそれを気にも止めずにメフィストの傍へ向かう。

「カリバーン、“我に力を”
〈キャッ!アーサー喜んでVv〉

エンジェルは魔剣にそう囁くとオカマ声で了承の返事が聞こえ、エンジェルは素早く動き燐のすぐ傍まで追い詰め、喉元に魔剣を突きつける。

「正十字騎士團最高顧問、三賢者の命において……サタンの胤裔は誅滅する」
「なッ……」
「あっ燐兄ッ!!」

燐は自身の喉が斬られると思った瞬間、聞き覚えのある声が聞こえてきた。

「霧隠流魔剣技…」
「「「!!」」」
「蛇腹化……蛇牙ッ!!」
「シュラ姉ッ!?」

何処からか突然シュラが現れ、エンジェルに魔剣で風の刃を放つ。しかしエンジェルが燐の元を離れたことで外れシュラは舌打ちし、今度は自身の喉元に魔剣を突きつけているエンジェルを睨む。

「シュラ、何故このサタンの仔を守る。メフィスト側に寝返ったのか?」
「なワケねーだろ」
「そういえば、お前藤本からこの仔に魔剣を教えるよう頼まれたと言っていたな。“冗談じゃない、あのクソ!ハゲ!!”と息巻いていたのに…」
「シュラ、お前俺のことハゲとか言ってたのかよッ!!俺は一生ハゲねぇぞ、どっかのお坊さんと違ってなッ!!」
「先生俺そのこと気にしてはるんで言わんといて下さいッ!!」
「…………まさか、師の意志に添おうとでも思ったのか?こんな歴代聖騎士の中で不適格な男の為に」

エンジェルは相変わらずの図太さで、藤本達の発言をスルーして言葉を続ける。エンジェルがいると脱線しないので、管理人的にもありがた(ry

「違ぇよクソ馬鹿ハゲッ!!純粋培養には一生理解出来ねぇからすっこんでろッ!!」
「??俺はハゲてないぞ?アッハッハッ!!面白い冗談だ!」
「〜〜ッ!!こっコイツ……ッ!!」
「どうどうシュラ姉落ち着いて、そういうの天使君には通じないって」
「しかし、三賢者の命は絶対だ。たとえお前であっても…」

言葉を続けようとしたが、エンジェルの無線に連絡が入ったので続きを聞けることはなかった。

「はい、畏まりました。………………三賢者からの命だ、これより日本支部長メフィスト・フェレスと前聖騎士藤本獅朗の、懲戒尋問を行うと決まった。当然、そこのサタンの仔も証拠物件として連れていく」
「ほう!それは楽しみです☆」
「へいへい着いてきゃ良いんだろ着いてきゃあ」

メフィストはウキウキしながら、軽く指を鳴らして祓魔師の制服に早着替えし、藤本は面倒くさそうに頭を掻く。

「ブルギニョン、候補生を連れて行けッ!!」
「はッ!!」
「あの、僕引率します。一年生の薬学の副担任です」
「分かった。さぁ諸君先生について行くんだ、まず医務室へ。シュラとレイは参考人として加わってもらう、セレネは……「あのさ、その前に良い?」どうした?」

エンジェルが皆を仕切る中、セレネは遠慮がちに挙手して一言告げる。

「僕、そろそろ降りたいんだけど」
「「「……あ」」」

………………セレネが未だに姫抱きされていたことに、漸く気づいた皆であった。


††††††††

―オペラ座法廷―


ギィィイイ………


「う……ッ!!」

扉を潜ると、そこにはフランスの歌劇場である、ガルニエ宮をモデルに造られた豪華な法廷があり、燐の姿を見るなり傍聴席にいた周りの者はザワザワと騒ぎ出す。
メフィストは傍聴席に胡散臭い笑みでわざとらしくお辞儀をし、藤本は法廷の嫌な空気にチッと舌打ちをうつ。因みにサタンは、結局同行することになったセレネの肩に乗っている。魔神が敵地であるこの法廷にいると知ったら、周りの者はどんな反応をするのだろうか。

「そこに跪け、早く」
「は?なんで…」ドカッ

エンジェルは燐の背中を蹴って無理矢理膝を着かせ、右足を大剣でブチリと切断する。レイはその前に、素早く自身の妹であるセレネを引き寄せ、その惨状を見せないようにした。

「ギャア゛ア゛あ゛ア゛ア゛ッ!!」
「燐…ッ!!テメェなんつーことを…ッ!!」
「お姉ちゃ…「セレネは見ちゃ駄目」」
「またあの様に暴れられては困るからな、どうせすぐ治癒する」
『……………』
「……相変わらず、聖人面して鬼ですね」

すぐに治癒するからといっても、痛いものは痛い。悪魔にだって、人間と同じ様に痛覚はあるのだ。やはりエンジェルはどこか一般人と違い、何かが欠けている気がする……特に慈悲が。

「静粛に!被告人二人は陳述台へッ!!」
「被告人?…って私か!」ウキウキ
「……ウキウキ出来るのはお前くらいだぞ」
「セレネも一緒に…「セレネを連れていくのは駄目だぞメフィスト、お前達だけで陳述台に登れ。セレネは私が預かる」チッ……私のセレネに触らないで下さいエンジェル、貴方に預けるくらいならレイに任せます」

エンジェルを見て眉を寄せそう言ったメフィストに、「私の妹はフェレス卿のものではありませんけどね」と言うレイを見ながら、被告人二人は陳述台へ登る。

「これより被告人、メフィスト・フェレス日本支部長と、藤本獅朗前聖騎士の懲戒尋問を開廷する!!尋問官は私、ティモテ・ティモワン騎士團法執行部長と、現聖騎士アーサー・A・エンジェル上一級祓魔師。そして三賢者、最高顧問が執り行う!」

開廷したところで漸く傍聴席が静かになり、再び執行部長が話し出す。

「今しがた、日本支部正十字学園にて起こった事の映像を、此処にお集まりの方々に見て頂いたところだ。フェレス卿、ここに映っているのは……今そこにいる悪魔で間違いないかね」

先程の燐の悪魔化した姿は、傍聴席にも其々ついているビジョンに映し出されていたらしい。執行部長の問いかけに肯定したメフィストは全く焦っておらず、寧ろ笑みを浮かべている。

「では率直に尋ねる、その悪魔は……サタンの仔かね?」
「左様でございます、今更申し開きもありません」

そう言った途端一気に周りが騒がしくなり、三賢者の一人が藤本に質問する。

「つまり十五年前、ユリ・エギン下二級祓魔師が宿したサタンの仔を、藤本獅朗……貴方が降魔剣にて調伏したという、その報告事態が虚偽であったというのか?」
「あぁそうだ。生まれたのは男子の二卵性双生児、片方はサタンの炎を継がなかった。継いだのはコッチの片方、あのままじゃ悪魔と化していただろう燐の炎の源……悪魔の心臓を、メフィストが降魔剣に封印した」
「……そして、藤本の元で秘密裏に育てていたのです。仔が炎を受け入れる準備が整うその時まで」
「何の為に…?何が目的だッ!!」

二人は三賢者のその問いを聞いて、待ってましたとばかりにニンマリと笑みを浮かべ、声を揃えてこう言った。


「「サタンと戦う武器
にする為だ/とする為に」」



ザワザワと騒ぐ傍聴席の声が一層大きくなり、驚きの声を上げる周りの反応を見て、二人は悪戯に成功した子供の様な、楽しそうな笑みを浮かべる。
『面白くなってきた』とサタンもニヤリと笑い、右足に大剣を刺されたままの燐を見つめた。メフィストは拍車を掛ける様に、大声で更に話を進める。

「此処にお集まりの皆々様ッ!!我々と賭けをなさいませんか!?このサタンの仔が虚無界の大魔王となるか、はたまた騎士團の……いや、物質界の救世主となるかを賭けるのですッ!!」

「勿論賭けの間は、最後まで見届けるのが条件ですがね」とメフィストはそう付け足し、不敵な笑みを浮かべた。周りの者が賭けにのるか迷っていると、エンジェルが否定の声を上げる。

「この詐欺師に騙されてはいけませんッ!!皆様、まさかお忘れではあるまい……此奴の“身の上”を!これは“奴ら”お得意の甘言ですッ!!此奴は藤本獅朗と共謀し、サタンの仔を育てた!これは紛れもない事実ッ!!騎士團を欺き、内側から転覆せしめるつもりだったに違いない!欺いていたのは期を待っていたからですッ!!」

燐は現在の状況を見て、先程自分が降魔剣を抜いたことに「早まったか」と、頭の中でモヤモヤしたものが渦巻いていた。

(セレネ、お前が“覚悟は良いか”と聞いてきたのは……こういうことも含めてだったんだな。雪男もレイもこれまで色々注意してくれてたのに……畜生)

此処に来る前の皆のことを思い出した燐は悔しくて、拳に力が入り掌に爪が食い込んで出血する。しかし今の燐にはそれに意識を向ける余裕がない。


《皆無事かッ!?》
―なんでサタンの息子が此処に在るんやッ!!―
《こんなんじゃ説得力ねぇよな、ハハハ》
―なんにも可笑しくなんかないッ!!―



(畜生……)
「そうだよ」
「狂気の沙汰だ!メフィストを罷免しろッ!!」
(畜生ッ!!)
「前聖騎士も同罪だッ!!」
「しかし藤本にはこれまでの優秀な功績がある」
「煩えッ!!」

燐は声を荒げ、法廷にいる全員を黙らせる。

「テメェらさっきからゴチャゴチャ煩せぇんだよッ!!人のこと好き勝手言いやがって……俺は武器でも魔王でも救世主でもねぇッ!!奥村燐だッ!!」

怒りに任せて炎を溢れさせ、更に火力が増していく燐を見て、周りは驚きと悲鳴に包まれる。

「いずれ最強の祓魔師になってやる!!此処にいる全員覚えておけッ!!」

その言葉にエンジェルは嘲笑い、大剣を燐の首へ持っていく。

「最強の祓魔師だと?ハッ、つまり聖騎士になるということか?忌まわしいサタンの仔が笑わせる」
『………おい、本当に今の聖騎士がお前なのか?』
「……何?」

エンジェルはピタリと手を止め、眉間に皺を寄せてサタンの方を向いた。

『いや?お前みてェな弱っちィ奴が今の聖騎士なんて、あり得ねェと思ってよォ……お前なんかより断然藤本の方が聖騎士に相応しいと、俺は思うぜ』
「……ッ!!何を言うかと思えば……お前といいサタンの仔といい…貴様ら……ッ!!」
「やめなさいエンジェル!皆も静粛にッ!!」

三賢者の一人が静止の声をかけると、その場で騒いでいた者は全員シン…と静まりかえる。

「確かに悪魔は事実上、我々物質界の敵。が、しかし……古から騎士團が悪魔から知恵を学び、その対抗策を得てきたのもまた事実。しかし事は前例のない大問題だ、フェレス卿と藤本の背信の嫌疑も晴れてはおらぬ。ですがフェレス卿には二百年に渡り、騎士團に協力して頂いている信用があり、藤本も聖騎士としてこれまでに優秀な形跡を遺している。
……皆さん、ここは二人の“賭”に乗るか乗らぬか、多数決を取りませんか」


†††††††††††


ギィィ……パタンッ

燐は懲戒尋問後シュラに弟子入りをし、寮へと帰宅した。シンとした廊下を重い足取りで歩いていると、食堂に灯りがついている。

(誰だ…?こんな時間に)

そう思って入ってみるとそこには……

「お帰り、燐」
「レイッ!?」

一足先に帰っていたレイが、エプロン姿で椅子に腰かけていた。よく見るとテーブルには、作り置きしておいたものをレンジでチンしたサクサクコロッケにソースをかけ、冷ご飯の上に敢えてのせ、沢庵を添えた子丼が用意されていた。
コロッケの具は、ジャガイモと牛肉がちょっとだけ。シンプルこの上ないのに深みがあり、中身はしっかり詰まっているのにふかふかの舌触りでとても繊細、そして蕩ける様な甘み……所謂夜食テロ(ry


「え、レイ?なんで……」
「今日は色んなことが起こりすぎて疲れたでしょう?夜食に作ったから食べなさい」

言われるままにレイの隣に腰かけ、コロッケ丼を食べ始める。最初は黙々とゆっくり食べていた燐だが、段々と食べるスピードか上がりかっ込み始めた。すると、燐の目からボロボロと涙が零れ出す。

「あ…れ?なんで俺、涙が……」

震える声でそう呟いた燐にレイは優しく頭を抱き締め、ポンポンと背中を優しく叩いてやる。

「今日はよく頑張ったね、辛かったでしょ?泣きたかったら思いっきり泣きなさい。今なら誰も……見てないから」
「………………ふっ…うぅ……ひっく………」

肩を震わせ静かに泣く燐に、レイはただポンポンと優しく背中を叩き続け、泣き止むまでずっと傍にいてあげた。

「お疲れさま……燐」


To be continued…
*H27.4/26 執筆。
レイはお母さん的ポジションです。
「お母さんより姉と呼んでほしい」byレイ



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