Es ist Showtime!(後編)



「漸く抜いたか末の弟よ、待ち草臥れたぞ……まぁいい、中々面白くなってきたじゃないか」

空から皆の様子を観覧していたメフィストは、燐が鞘を抜いたのを見て楽しそうにニヤリと笑みを浮かべる。


「Es ist Showtime!!
(さぁ、楽しいショーの始まりだ!)」





「来い、相手は俺だッ!!」

鞘を抜き悪魔化した燐を見てアマイモンは目を見開き、まるで欲しかった玩具を与えてもらった子供の様に喜ぶ。

「アハハッ!!わーいッ!!」
「へ……ッ!?ちょ、アマイモn……」

アマイモンはセレネのことをお構い無しに燐へ向かって行き、その速さについていけずにアマイモンの肩から落下するセレネ。
落ちる痛みに耐えるべくギュッと目を瞑ったセレネだが……ボフンッ☆という音が聞こえ、まさかと思いそろりと目を開けると……その犯人は案の定メフィストで、自分はソファに座るメフィストの膝上に乗せられていた。

「大丈夫ですか主、お怪我は?」
「メフィスト!!」
「すみません私の愚弟が……予想通り理性が保ちませんでしたね」

メフィストは宙に浮いたティーポットから注がれた、紅茶の入ったティーカップを主人に渡す。
因みに今回の紅茶の茶葉はレディグレイ、柑橘系の華やかな香りのする紅茶だ。

「うん、分かってはいたことだけど……」

紅茶を一口飲み、その言葉の続きを言う前にふぅと溜め息をついた後、セレネの雰囲気がガラリと変わり、風も無いのにセレネの髪がユラリと揺れる。

「皆まで傷つけたのは許せないよね」

真剣な表情でそう言ったセレネは、誰からどう見ても怒っていることが窺えた。セレネは自分の大切なものを壊されることを酷く嫌う。現にサタンと共にいることを選んだ今でも、父親を殺したことは許していない。

「クックック、主がここまで本気で怒るとは珍しい……流石に今回の件は応えましたか。」
「だってアマイモンってば、皆に変なことしないでねってこないだ忠告したのに、全然聞いてないんだもん。お菓子まであげたのに」
「奴に忠告しても無駄ですよ。兄である私の話ですら聞かずに、我意に関せずといった感じですからねぇ……ハァ、困ったものですよ」

メフィストは地上で暴れている弟を見て、呆れて溜め息をつく。アマイモンに尻尾を掴まれて「うぎゃぁあッ!!」と声をあげる燐に、「あっ」と声を出し冷や汗を垂らす主人を見下ろした。セレネは「痛そう」だと思っているのだろう、顔にそう書いてある。自分の尻尾のある位置を服越しにキュッと握っているのだから、あまりに分かりやす過ぎてメフィストは思わずクスリと笑った。

「……“悪魔の尻尾”は悪魔の急所の一つ、紳士ならちゃんと隠しておくものだ。これからちゃんと覚えさせなくてはな」

そう言ってメフィストは主人の頬を撫で、キョトンとした表情で自身を見上げる主人の額にキスを落とした。それに擽ったそうに笑う主人の髪を弄る。

「奴には知るべき事が山程ある……まずは己の欲求を知るべきだ、悪魔達(我々)の様にな。そうだろう?我が小さき主よ」
「へ……?何が?」
「………………貴女のことですよ、何故我々家族は一人の生娘に執着するのか……未だに謎だ」

メフィストは困った様にそう言いチラリと下を見れば、森を覆うように大きく燃え盛る青い炎。

「悪魔は常に否定する快楽の求道者であるのに対して、人の営みは中道にして病みやすい」

人間は「生きること」「何かを為すこと」を良しとし、又それを欲するが、悪魔はそういったことを否定し、常に己の欲求に従って行動する。
一方人は常に何かを生み、何事かを為すことを欲するかといえば決してそうではなく、道半ばにして志を無くして、何も為さずに終わることを選びがちだ。

「さぁて、どちらへ進もうか」

半悪魔の少年は、一体どちらを望むのだろう。
「悪魔として倦むことなく力を奮う」のか、それとも「人間として悪魔の力のみに頼らず生きる」のか……未来は誰にも分からない。
人間と悪魔の性質を併せ持ち、どちらに転んでも可能性を持つと共に、並の人間以上に行き詰りやすい奥村燐をどちらの道に導けば、最も利用価値を発揮させることが出来るだろうか。メフィストはそう思いながら楽しそうに嗤う。

「どうする主、このまま此処に残って観覧しているか?それとも私と共に下へ降りるか?」
「決まってるでしょ?アマイモンを止める。僕も連れてって……サマエル」
「クックック……承知した。お前が望むならどんなことでも叶えてやろう、私の小さな主よ」

そう言ってメフィストは主人の手の甲にキスし、地上へと降り立って主人をソッと地面へと立たせる。

「ハイハイ僕達、そこまでです☆これ以上は私の学園が消し炭になる。今日のお遊戯はこれにて終了☆」

燐とアマイモンの間に入ったメフィストは二人の腕を掴み、笑みを浮かべてウインクした。


††††††††††

セレネside


「空が白んできたな……さぁ二人共、そろそろお家へ帰る時間だ」
「兄上ッ!!今回は兄上の筋書きに従えば、好きに遊んでいいと約束して下さったではないですかッ!!」
「学園を壊すなと言った筈だぞ。それにお前、もう分かったのではないか?この末の弟との……圧倒的な力量差をブングルッ!?」
「メフィストォオオオオッ!?」

さっきまで紳士ぶってカッコつけてたのに、アマイモンにグーパンで吹っ飛ばされた。カッコ悪ッ!!←おい
アマイモンに言い聞かせるというより、事実を突き付けるという様な感じで話すメフィストだったが、アマイモンはその言葉にムキになって自身の兄を殴り飛ばす。

「僕はまだ負けてないッ!!!」


駄 々 っ 子 か よ ッ ! !


まったくもうアマイモンてば、悪魔の王なら我慢とかそういう理性を持とうよ。地の眷属達の頂点に立つんだから、少しは冷静でいないと駄目だと思う。

「アッハッハッハッ!!うーん、聞き分けのない弟だ」
『ギャッハハハハハッ!!お前アマイモンに殴られてやんのッ!!ヒィー腹痛ェーーッ!!』

暴走している二人を傍観していたさっちゃんは、メフィストの飛ばされたシルクハットを渡しながら、腹を抱えて大笑いしている。

「ちょ、笑わないで下さいよ父上ッ!!今からあの愚弟を私が止めてみせま…「待ってメフィスト」……主?」

僕は此方へ戻って来ようとしたメフィストに静止の声をかけ「僕がアマイモンを止める」と言うと、メフィストは目を見開いた。

「は?なっ何を言って……」
「今回も無理矢理止めただけじゃ、同じ事の繰り返しだよ。このままだと、次もまた暴走するでしょ?だったら………僕がアマイモンと契約して使い魔にする」
「なッ……本気ですかッ!?私以外の悪魔を使い魔にすると!?しかもあの愚弟をッ!!」
「うん、そうすればアマイモンが暴れそうになっても、命令すれば強制的に止められるでしょ?」
「危険ですッ!!いくら主の体は仮不老不死状態だとしても、悪魔の王を無理矢理使い魔にすれば必ず体に負担がかかりm「サマエル」ッ…!!」

本当の名を呼んだことでピクリと反応したメフィストを見て、僕は安心させるようにふわりと微笑む。

「大丈夫だよ、僕を誰だと思ってるの?あのさっちゃんと初めて契約を交わした、唯一の人間だよ?」
「……………ハァ、分かりましたよ。自慢の主を信じて、此処で待ちます。その変わり………絶対に死なないで下さいよ」
「うん……行ってきます!」

そう言って僕はニッと笑いメフィストに敬礼のポーズをし、アマイモンの方へ向かおうとすると……僕の前にさっちゃんが通せんぼするように立った。

『お前……本当にやるのか?』
「やるよ、当たり前でしょ?」
『あのアマイモンは、人間の下に即く事を嫌う。たとえお前でも全力で抵抗すると思うぜ?それでもやるのか?』
「うん、トモダチを止めるのがトモダチの役目だし。それに僕さっちゃんの器作れるくらいなんだから、悪魔の王一人使い魔に増えたって平気だよ」
『…………………』
「あれ?おーい、さっちゃん?」
『クックック……ギャーッハッハッハッ!!』

僕が平然と返答すると、さっちゃんは肩を震わせ始め大声で笑いだした。失礼な、腹抱えて笑わないでよ。涙出てくるとか半端ないよ、さっきから笑いすぎて『腹痛ェッ!!』とか言ってるよ……あれ、お酒入ってるからとかじゃないよね?笑い上戸とかじゃないよね?
僕の肩をバンバン叩きながら、未だに笑っているさっちゃんをジト目で見つめる。

『あぁもうお前ホント最高ッ!!普通んなこと言える人間いねェってッ!!お前程面白れェ人間見たことねェよッ!!キヒヒッあー腹痛ェお前のせいでツボったわッ!!腹痛すぎて死にそうッ!!』
「それで本当に死んだら呆気なさ過ぎるよ。誰が挑んでもピンピンしてた魔神が、笑いすぎて腹痛で死ぬとか皆浮かばれないよ。ていうか死因がカッコ悪過ぎる」

さっちゃんは一頻り笑った後、僕の頭に手を置いて、ガシガシと力強く撫でた。

『よーしじゃあ俺は末の息子を止めてくらァ』
「うん、燐兄の方は任せたよさっちゃん」
『おう、お前もあの馬鹿息子頼むぜェ』

そう言って僕らはニッと笑ってハイタッチし、其々目的の人物へ向かっていった。


††††††††††

「おぉ雪男、やっと見つけたぜッ!!」
「二人共何処へ行ってたんですッ!!」
「アマイモンのペットの相手をしていたんですよ、途中で消えたので戻って来ました」

その頃、藤本とレイを探していた雪男は、漸く二人に合流した。虫豸の幼虫を取り除いてもらったしえみや、他の候補生達も一緒だ。

「それよりこの森から離れた方がいい、すぐ脱出だ」
「でっでもセレネちゃんが…」
「安心して下さい、妹は無事です」
「え…?一体何処へ……」
「兎に角脱出しますよッ!!」

幼いセレネの事を心配する候補生達だったが、一刻を争う事態なので三人は急いで候補生達を連れて避難する。振り向いて見えるのは、森一帯を覆う程の大きな青い炎。

「…………あんな手のつけられない子供の面倒をみるというのですか?藤本さん」
「あぁ、これからが楽しみだろ?」

そう言った藤本の方へレイが振り向くと、藤本は冷や汗を垂らしながらも、悪戯を企む子供の様な笑みを浮かべていた。


††††††††††

セレネside

「やっほーアマイモン、さっきぶり」
「セレネ……さっきから言ってるじゃないか、僕の邪魔をするなって…」
「あのね、アマイモンはそう言ってるけど……もうお開きだってメフィストから言われたでしょ?兄の命令は絶対じゃなかった?今皆の邪魔をしているのは……君なんだよ。」
「煩いッ!!それ以上言うなら食べるぞッ!?」

だから駄々っ子かよッ!!
ていうかキレた勢いで捕食ってどうなの!?
やっぱり説得なんて出来るわけないか。

「仕様がないなぁ……本当はトモダチでいたかったんだけど、止める為なら仕方無いよね。捕食対象にするほど僕と繋がりが欲しいんでしょ?だったら……僕の使い魔にしてあげるよッ!!」

そう言った僕は、ポケットから正式な魔法円の図を取り出して親指を犬歯で噛み、そこから垂れてきた血を図に擦り付けてパァンッ!!と図を勢い良く両手で挟み、呪文を唱え始める。

“地の王“アマイモン”よ
我、汝との契約を望む者なり”
ッ!!」

呪文を唱え始めると、お互いの地面にブゥウン…と魔方陣が現れる。

「ギギッ…!!この僕を使い魔にする…だと?冗談じゃないッ!!たとえセレネでもッ……人間の下になんて即くものかッ!!!」

アマイモンが抵抗して暴れだすと、僕の頬に風も吹いてないのにピッと切り傷が出来た。僕はそれを気にも止めずに続ける。

“我が名はセレネ、汝との契約の対価に我は汝と生涯心友(しんゆう)であることを誓う!”
「ッ……!!使い魔としてじゃなくッ…?」

僕の契約の条件に出した対価に反応し、アマイモンは急に暴れることをやめ大人しくなった。

「うん、使い魔の契約したとしてもトモダチなのは変わらないよ!そもそもコキ使う気無いし」
「………悪魔との契約は、人間の婚約より重いですよ?それでもいいんですか?」
「当たり前だよ、トモダチの証でもあるんだからッ!!」

そう言うと、納得してくれたのか黙り混んでジッと僕を見つめ続けるアマイモン。僕はその隙に最後の行を唱えた。

“汝、使い魔になりて我に従え!
“契約縛符(フェアトラーク シャルム)””
ッ!!」
「ギァアアアアアッ!!」

僕の地面にある魔方陣が移動し、アマイモンの方にある魔方陣と重なりパァアと光が溢れだし、光の柱がアマイモンを包む。
魔方陣と共にアマイモンは消え、図の魔法円をよく見ると、植物をあしらわれた魔法円に変わっていた。

「は、はは……本当に成功したよ…良かっ……」
「主ッ!!」

セレネは意識を失い倒れそうになったがメフィストが支えてくれ、なんとか地べたにつかずに済んだ。

「疲労で気を失ったか……しかしよくアマイモン相手に切り傷一つで済んだものだ」

メフィストは主が契約を行っている時、正式な使い魔が自分以外に増えるということに嫉妬していた。しかしそれよりも、主の計り知れない手騎士としての力に、ゾクリと背筋に寒気が走るのを感じていた。
折角主を独り占めしていたのにという嫉妬心よりも、その化け物染みた魔力のあまりの高さに自分が興奮しているのを感じ、メフィストは悪魔の本性を剥き出したままの表情で嗤う。

「クックック………流石私が認めた小娘だ。その力は悪魔の様に化け物染みているにも関わらず、本人はただの小さな子供……キヒヒ………さぁ、もっと私を楽しませてくれ小さな主よ」

そう言ってメフィストは、自身の契約印のある主の心臓の位置にキスを落とし、横抱きにして塾生達が避難しているであろう方向へ向かっていった。


To be continued…
*H27.4/19 執筆。

因みに↓
契約縛符成功する確率を上げる条件
・自身の手騎士としての能力の高さ
・悪魔が自身へ向けている好意の重さ
・対価が相手の納得するものか否か



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