兄弟と姉妹(後編)



セレネside


「えーっと、ひーふーみーよー……僕らを入れて9人だね」
「は!?少なッ!!」
「祓魔師は万年人員不足でしてね、これでも多い方です」
『……そんなんで大丈夫か?祓魔師』

魔神にまで心配される祓魔師って一体……。
そうこう話してる間にガチャリと扉が開き、手ぶらな獅朗ちゃんと雪兄が入ってくる。

「お前ら席に着けー授業始めるぞー」
「ッ!?」
「うわっ!!ちょっと燐兄唾飛ばさないでッ!!」

燐兄は自分の家族が入ってきたことに驚き、唾を噴出する。僕はそれが当たらないように少し横にずれて座った。

「おっおおお親父ッ!?ゆゆ雪男もッ!!……せ、先生だったのかッ!?」
「よぉ燐、今朝ぶりだな!お前らも今の会話で分かるだろうが、俺は対・悪魔薬学を教える講師の藤本獅朗だ!んで俺の隣にいる眼鏡が副講師の奥村雪男だ、宜しくな!」
「ちょっとやめて下さいよ、その説明だと眼鏡が本体みたいじゃないですか!」
「ニャハハハハッ!!細けぇことは気にすんなッ!!」
「えー、ゴホン!僕が副講師の奥村雪男で、お察しの通り僕は皆さんと同い年の新任副講師です。ですが、悪魔祓いに関しては僕が二年先輩ですから、塾では便宜上“先生”と呼んで下さいね。」

眼鏡が本体という発言がツボにハマったのか、フードの人は俯いて肩を震わせていた。
雪兄は気を取り直して、にこりと営業スマイルを浮かべる。……女の子達が少し頬を赤らめてるよ、恐るべし雪兄の営業スマイル。今度女の子キラーって呼んでみようそうしよう。
うんうんと一人頷いていると、突然扉がバァンッ!!と開きお姉ちゃんが入ってきた。そしてそのまま分厚い教科書を獅朗ちゃんの顔面に向かってスパァァアンッ!!

「痛ってぇぇええッ!!!」
「訓練生の初授業に教科書を忘れないで下さいよ藤本さん。今日の授業が魔障の儀式のみだとしても、教師たるもの基本中の基本である教科書を持っていかないなど言語道断です」
「すみません時渉さん、一応忠告はしたんですけど別に良いだろと聞かなくて…」
「いえ、貴方が謝ることはありませんよ奥村先生。悪いのはその忠告も無視した本人なんですから」

お姉ちゃんはスタスタとしゃがみこんだ獅朗ちゃんの元へ行き、手を掴んで立ち上がらせる。「こんなことで私の手を煩わせないで下さい」と言いながら獅朗ちゃんの耳を摘まみ、獅朗ちゃんは「痛てててて分かったから離せッ!!」と言って漸く解放されてからゴホンと咳をし、塾生達の方を見る。

「えー、まだ魔障を受けてない奴もいるだろうから、今日は“魔障の儀式”をするぞ。まだ魔障にかかったことのない奴は手ぇ挙げろー」
「ましょう…って、何だ?魔性の女は好きだけど」
「奇遇ですな、私もです」
「右に同じく」
「お前ら分かってんじゃねぇか」
「悪魔だろうが人だろうが、虫だろうがオシベだろうが……“漢(オス)”の行き着く先は皆同じです」

「じゃあ僕はどうなるの?」と聞くと、メッフィーが聞こえていないフリをしたので、可愛い耳を摘まんでやった。
確かに僕はギャルゲーもやったことあるし可愛い子好きだけど、歴とした女の子なんだからね!ただメッフィーの趣味と似ただけだよ!

「悪魔から受ける傷や病の事を、魔障と言うのですよ。一度でも魔障を受けると、悪魔を視ることが出来るようになるんです。」
「へー……俺てっきり霊感みたいに個人差があるんだと思ってた」
「だから僕と燐兄は魔障を受けなくても平気だよ、悪魔だから。まぁ僕は人間寄りのハーフだけど」

燐兄に説明していると、メッフィーが小声で話しかけてきた。所謂ナイショ話というやつだね!燐兄には聞こえないように僕も小声で話す。

「セレネ、貴女に頼みがあります」
「何々、どしたの?」
「実は、今回の授業では奥村君に炎を出してもらおうと思っているんです、悪魔に炎が有効かどうかを調べる為に。そこで貴女に、奥村君が炎を出すように誘導してほしいんです」
「………その作戦を態々話して僕に頼むということは、悪魔を喚び出してほしいってことだね?」
「話が早くて助かります、適当な下級悪魔…小鬼辺りで結構ですので宜しくお願いしますね。……すみません、主人に頼むのは使い魔としてどうかと思ったのですが…」
「使い魔とかそういうの関係無いよ、メッフィーに頼られて嬉しいよ僕!」

そう言ってにっこりと笑って頭を撫でると、メッフィーは僕の手に擦り寄ってきた。まぁ身近な下級悪魔なら地の眷属がお約束だし、時の王であるメッフィーより僕の方がなつかれてるしねぇ。実際僕は悪魔達限定で顔が広いし、皆にお願いしたら大抵の事は聞いてくれる。
………サタン僕達の話を聞いてワクワクしてるよ、ホントこういう悪戯みたいなの好きだよね。まぁ僕も好きだけどさ。

「獅朗ちゃんには伝えてあるんだよね?」
「ええ、藤本だけには伝えてありますよ。彼も了承してくれました」
「オッケー、じゃあ問題ないね!いっくよー……“おーにさーんこっちら♪手ーのなーるほーうへ♪”

僕がそう言うと、小鬼達がわらわらと集まってきた。メッフィーは「悪魔を召喚するのにそれで良いんですか…」と言っているがそこはスルー。だってこれが僕だもん。
皆に気づかれないよう注意を払いながら後ろから来てもらい、僕は指示を出す。

「というわけで、死なない程度にやっちゃってね皆!特に燐兄と雪兄を集中的に!」

皆はコクコクと頷き、張り切って教卓の方へ向かった。

「グルルルルァアッ!!」
「うわッ!!悪魔ッ!?」
「えっ何処ッ!?」
「そこ!教卓の方ッ!!」
「小鬼だッ!!」

雪兄は小鬼達の前に立ち銃を抜くと、すぐさま襲い掛かる小鬼達を撃ち落とす。

「皆さん教室の外へ避難して下さいッ!!早くッ!!」
「雪男、俺とレイは生徒を廊下に避難させとくから始末頼むわ!」
「分かりました!兄さんも早く…「俺も手伝う!!」え……ッ!?」

お姉ちゃん達が生徒を避難させて廊下に出た直後に、燐兄はそう言って降魔剣を抜いた。
燐兄は周りにいる小鬼達を次々と斬っていく。

「何やって……!?炎が…効いてる……?」
「雪男後ろだぁああッ!!」

雪兄が燐兄の炎に気を取られている内に背後に周っていた、通常より一回り大きい小鬼。雪兄が振り返る前に燐兄が素早く反応し、小鬼を真っ二つにする。真っ二つにされた小鬼は、そのまま青い炎に燃やされていった。

「………さっちゃんと会った時も思ってたんだけどさ、やっぱり綺麗だね…青い炎」
『………………んなこと言う人間はお前くらいだぜ』

燐が降魔剣を鞘に納めた所を見届け、僕は呆然としている雪兄に話しかける。

「雪兄、倒したんなら他の生徒達入れた方が良いんじゃない?」
「あっそうだった!早くしないと……………その前に一ついい?兄さん」
「な、なんだよ?」
「寮に帰ったら、覚悟しておいてね?」

わぁー雪兄の笑顔が怖ーい……まぁ勝手に降魔剣抜いちゃったもんね、帰ったらお説教タイムが待ってるよってことだね。
他の生徒達もお姉ちゃん達に連れられて、ぞろぞろと教室に入ってくる。
…………とは言っても、小鬼達のせいで教室が滅茶苦茶……皆に教室壊さないでねって言えば良かったなぁ。

「すみませんでした皆さん、別の教室で授業再開します。奥村くんも!」
「はーい先生……」

先程の雪兄の笑みを見た燐兄の返事はやけに元気がなく、そのことに僕とメッフィー達は顔を見合わせて笑った。


††††††††


「どうだった?お、旨いなこれ」
「まぁ奥村先生はカタかったですが、初授業にしては上出来でしたよ☆」
「いやソッチじゃねぇよメフィスト」
「メフィストー僕も桜餅ー」
「はいどうぞ☆美味しいですか?」
「んーおいひいおー!」
「………取り合えずお前ら爆発しろ、俺の前でイチャイチャすんなッ!!」

その日の夜、僕と獅朗ちゃんはメフィストと共に理事長室にいた。因みにさっちゃんは僕の部屋で漫画を読んでいるので此処にはいない。
まさかジ〇ジョにハマるとは……。
僕はメフィストの膝上に座っており、桜餅を食べさせてもらっている。膝の上って食べにくいから降ろしてって言ったんだけどさ、嫌がられたから仕方なくね。桜餅うまし。

「あの炎は悪魔に有効でした、使えます。不安定でまだ感情に振り回されているようですが、センスはいいようだ。自在に扱えるようになれば、我々正十字騎士團にとって、最高にユニークで最強の兵器になるでしょう」

そう言ってメフィストは煎茶を飲み、僕を支える為にお腹に回している片手で、僕を抱え直す。

「但し、監視は必要です。使いものになる前に騎士團上層にバレたくないですからね。まぁ、時間の問題でしょうが」
「俺達はバレないようにフォローしていくしかねぇな。……この桜餅何処のだ?」
「鶴屋〇信のですよ、やっぱり桜餅は道明寺に限りますねぇ☆」
「メフィストもう一つちょうだーい!」
「はい、あーんして下さ ガチャッ ………あ」
「セレネ、夕飯出来たからそろそろ帰………………」

扉から入ってきたのは、お玉を持ってエプロンを着けたお姉ちゃんだった。僕は現在メフィストの膝の上で、桜餅を食べさせてもらっている最中である。

「……………うちの妹に変なことをするなと……昔から口酸っぱくして忠告してたよね?ねぇメフィスト?
「やっべ巻き込まれる前に早く逃げ…「傍観していた藤本さんも同罪ですッ!!」ぎゃぁぁあああッ!!」

獅朗ちゃんはお姉ちゃんのお玉が頭にクリーンヒットして一発KOされた。……うわぁ、あんなに大きなたんこぶが。

「ちょっ待って下さいよこれくらいでッ……!!「何がこれくらいだ滅びろこのロリコンがッ!!」ぎゃぁぁあああッ!!」
「さ、帰ろうかセレネ」
「今日のご飯なぁに?」
「今日はジャガイモが安かったから肉じゃが」
「やったー肉じゃが大好きッ!!」

僕はKOされたメフィストの膝上からお姉ちゃんに救出され、お姉ちゃんが入ってきた扉を潜る。……………うん、帰ってから食べた肉じゃが美味しかったよ。燐兄達も加わって賑やかになったし。
え?メフィスト達はどうしたかって?……世の中には知らなくていいことがあるんだよ、うん。


「…………兄上、お可哀想に」
「棒読みで言うなアマイモンッ!!傍観してるくらいなら助けろッ!!」


To be continued…
*H26.12/26 執筆。



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