MEDIUM | ナノ



Exist to want to touch



ダイニングの前に立ち、ドアノブを握りしめそのまま回すと私は扉を開けた。

「サンジ、居る...?」
「おお、名無しちゃん。どうかしたか?」
「...今、ちょっと良い?」
「もちろん。丁度デザートが出来上がった所だ。座って待ってて。」

うん、と返事をしながらテーブルに腰掛ける私の手は震えていた。サンジの事を見つめると鼓動はどんどん早くなる。

「はい、どうぞ。」

静かに置かれたフルーツの盛り合わせ。美味しそうなそれよりも、私の目線はサンジの大きくて綺麗な手に行ってしまう。

「ありがとう。あ、サンジ...あの、」
「ん?」
「っ、あ、ナミとロビンにも持っていくんだよね?これ。...その後でいいよ。」

いつもの彼の行動を邪魔してはいけないと思い行ってらっしゃい、と軽く手を振るとサンジはそのまま私の向かいの椅子に座った。

「サンジ...?」
「そんな顔した名無しちゃんを1人にさせられねえよ。」

どうして貴方はそうやって歯止めが効かなくなるくらい、私の心を掻っ攫っていくの。

私は静かに立ち上がるとテーブルを回り、サンジの隣の席に体を彼の方へと向かせる様に腰掛けた。

「名無しちゃん?」
「サンジ、私、サンジが好き。」
「っ、え、ああ...俺も名無しちゃんのこと、」
「好きだから、サンジに触れたい。」

サンジの言葉を遮ると見開かれた彼の目をじっ、と見つめる。
数秒間見つめあった後サンジはえーと、と短くなった煙草を灰皿に押し込んだ。

「俺に、触れたい...?」
「うん。」
「また何でそんな急に...」
「急じゃないよ、ずっと思ってた。サンジと手繋ぎたいし、抱き締めたいし、それ以上の事も、」
「っ!?名無しちゃん、ちょっと落ち着かねえか?」

今にも立ち上がりそうな私の両肩にサンジは手を置いた。その左手を私は自分の両手で掴むとそのまま握りしめた。

「っ、名無しちゃん、」
「私だけ?触れたいと思ってるのは。サンジは、私に触れたいとこれっぽっちも思ってないの...?」

視線を再びサンジの瞳へと移すと焦っている様子が伺えた。それと同時に握っているサンジの手に少し違和感を覚えた。

「サンジ...手汗すごいよ。」
「っ、」

私の手から逃れようとするサンジの手をギュッと今度は強く握りしめた。

「名無しちゃん...っ、離してくれねえかな...?」
「嫌だ。離さない。」

私のその言葉の後にサンジは思い切り力を入れて私の手の中から自分の手を抜き去った。

呆気に取られながらやっぱりサンジは私に触れたくないんだ、と思った矢先私の身体は煙草の匂いと長い両腕に包まれた。

「俺が名無しちゃんに触れたいと思ってねえだと...?そんな訳、無えに決まってるだろうが。」
「サンジ、」
「俺だって名無しちゃんをこうやって抱き締めてえってずっと思ってた...」

耳元で吐息と共に囁かれるサンジの声が全身に響き、くすぐったくて死にそうな位ドキドキする。恐る恐るサンジの背中に自分の両腕を回すとサンジの私を抱き締める腕の力が強くなった気がした。

「分からなかった。名無しちゃんと初めて会った時も、仲間になってからも俺への警戒心が強すぎてよ。だからどうして俺なんかを好きって言ってくれたのか、それでも俺は名無しちゃんと心だけでも繋がっていればそれで良いと思ってた。」

どうして気づかなかったんだろう、サンジが私に触れてこようとしなかった理由を。
やっぱり私は、自分の事しか考えてなかった。

「ごめんね、サンジ...ごめん。」
「ちょっと待ってくれ名無しちゃん...何で謝るんだ?」
「だって、サンジは私の事を思って、それなのに私、」

ゆっくりと私から身体を離すと、サンジは切ない顔をしていた。そしてゆっくり口を開いた。

「ああ、想ってる。いつでも君の事を。だから大切にしなきゃいけねえって思ったんだ。」

この人を好きになって良かった。この人の恋人になれて、良かった。

「サンジ、」
「ん?」
「キス、したい。」
「.........え?」

ここまで来たら私の中の欲求は膨らんでいく一方だった。こんなシチュエーションでそんな台詞言われたら、我慢なんて出来ない。

「だめ?...って、あれ?サンジ?」
「はあ...名無しちゃん。そりゃ、どうなるか分かって言ってんのか?」

再び目を見開いて動かないサンジに呼びかけるとはっ、としたサンジは額に手を当てため息をついて言った。

「分かってるよ...分かって言ってる。」
「そうか。じゃあ、目瞑ってくれ。」
「...はい。」

サンジに言われるまま目を瞑り待っていると顎を持ち上げられ、身体に力が入ってしまう。ギュッと目を瞑る力を強める。

しかし、それからサンジが動く気配が感じられない。ゆっくりと目を開けると困ったように顔を赤くしたサンジが硬直していた。


「あ、えっと、サンジさーん...?」

名前を呼びながら顔の前で手を振ってみてもサンジは尚も硬直したままだった。
このままでは他のクルーが来てしまう、と思った私はこちらから動く事を決めた。


───チュ...


硬直したサンジのサラサラとした金髪の感触を額に感じながら、私は彼の頬に軽いキスをした。

「!!?...っ、名無しちゃ、ん...!」
「今日はこれで我慢する。あと、実はねブルックとロビンに私達が付き合ってる事バレちゃったんだ、ごめんなさい。」
「そ、そりゃ、別に構わねえがよ...」
「それで、サンジがなかなか手出してきてくれないから相談したの。色気出すとか、色々作戦練って...」

ああ!?と驚くサンジにびっくりすると流石にこれは言わない方が良かったかな、と思った矢先、サンジは立ち上がった。

「名無しちゃん、さっきの君は色気の塊だった。これ以上その色気を出すのはやめてくれねえか!?他の野郎共が発情しちまう!」
「いや、それは無いよ...」
「あるから言ってんだ!名無しちゃんは...」
「ん...?」

サンジの言葉の続きを待っていると、扉の外でルフィの喉乾いたなー、という声が聞こえてきた。そろそろサンジと距離を取らないと、と思い立ち上がりテーブルの反対側に回ろうと歩き出した瞬間だった。
左腕を掴まれそのままサンジの身体の方へと引き寄せられると彼は私の耳元へと顔を近づけて囁いた。


「君は俺のものだ。誰にも渡さねえ。」

その突然の言葉に私は心臓を高鳴らせながらこう思った。

サンジさん、もう襲っても良いですか?





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