MEDIUM | ナノ



Exist to want to touch




好きだった人と恋人同士になれて早1ヶ月。普通だったら手を握りあったり、キスをしたり、もう少し先まで進む人達も居るだろう。
だが、私の彼氏はかなり奥手な人だ。


「やっぱり私、女としての魅力が無いのかなぁ。」

船首甲板に繋がる階段に座り、遊んでいるルフィ達を眺めながら私は隣に座るブルックに問いかけた。

「とんでもない!名無しさんはとても魅力的な女性ですよ。ですのでパンツ見せてもらっても」
「見せません。」

お決まりの台詞を最後まで言わせず拒否すると、表情は骸骨の為変わらないまま落ち込むブルックに溜め息をつく。

「私に少しでも触れたいとか思わないのかな...」
「思うでしょうねえ。好きな方だったら尚更、そしてあの方の性格からしても尚更。不思議ですねえ。」

だよね、と呟くと同時にあの人にとって私はどう思われてるのだろうかと、自分はいつからこんなに弱気になってしまったのだろうかと感じた。




サンジと恋人同士になったのは1ヶ月前。
正直麦わらの一味に加わった時から、彼は女好きだし旅を共にする仲間だし恋愛対象とかには絶対にならないと思っていた。
女性だったら誰構わず目をハートにして息を荒くする姿はいつ見ても呆れた。

ナミとロビンは見えない所で体のどこかを触られているのでは、と私はいつも心配していた。
仲間になり時間を共にするようになるに連れ彼と2人きりになる事も多くなり私自身も卑猥な事をされるのでは...そしたら思い切り殴ってやろうと思っていた。

しかしちょっとした拍子に私の肩とサンジの腕がぶつかってしまい少しだけ初めて触れた事があったのだが、その時彼はすぐにこちらと距離を取りそして謝ってきた。

「あっ、名無しちゃんすまねえ...!大丈夫か?」

意外だった。いつものハートの形の目はどこへやら、彼からは優しさしか感じられなかった。
自意識過剰になっていた自分が恥ずかしくなり、そしてその時私は不覚にもそのサンジの言動に胸が高鳴ってしまった。



それからというもの私はサンジをよく見るようになってしまい、仕舞いには不寝番の時に温かいコーヒーを持ってきてくれた彼に思っている事を口にしてしまったのだ。

「あの、サンジ...私ね、いつもサンジの事、目で追いかけちゃうんだ。これってなんだろうね、私サンジの事好きなのかな。ははは...なんてね、ごめん。」

滑稽すぎて泣きそうになった。海賊の仲間になって、恋愛なんてすると思わなかった。
誰かをこんなにも想うなんて、無いと思ってた。しかも相手は女好きだというのに。

「え...名無しちゃん、もしかしてそれって愛の告白...!?」
「あ...いや!やっぱり忘れて!うん!ごめん!」

明らかに動揺しているが、それで居ていつもの様に目をハートにしかけるサンジにやはりこの人はこういう人なのだ、と目を覚ました。
咄嗟に先程の言葉を取り消す事を伝え、コーヒーを頂こうとしたときだった。


「名無しちゃん、俺は今の言葉を忘れる気なんてこれっぽっちも無えんだが?」

今さっきと打って変わって真剣な表情の彼に、私の心は完全に奪われた。



何だかんだ晴れて恋人同士になれた私達だったがクルーには内緒で、という事を決めた。
しかしある1人のクルーはそれを早くも見破ってきた。

「サンジさんと名無しさんはいつからお付き合いされてるんですか?」

サンジと付き合って2日程経ったある日、釣りをしよう!とルフィ達に誘われ甲板の左右に分かれて一緒になったのがブルックだった。
いきなりの言葉に釣竿を落としそうになり、え?何言ってんの?と平静を装ったが彼には通用しなかった。

「ヨホホホホ!私にはお見通しですよ、お2人のこと。」

陽気に笑いながら言うブルックにどうして、と問いかけると彼はそのまま言葉を続けた。

「お2人の目を見れば分かるんですよねえ。サンジさんが名無しさんを見る目と名無しさんがサンジさんを見る目で、特別な感情をお互いに抱いているという事が。」

他の皆さんには内緒なんですよね?と声を小さくして聞いてくるブルックを見上げながら、私は口を開いて唖然とするしか無かった。

そんな私を他所にブルックはそれ以降その話題には触れて来なかった。彼が他のクルーに言いふらすとは思えなかったし、何も問題無いと日々を過ごしていた。
しかし、問題は私自身に起きた。


サンジと付き合って1週間経ち、ダイニングで夕食の後片付けを手伝っていた時だった。
こんな風に1つの部屋に2人きりになる事なんて付き合ってから初めてだと意識してしまった私は無性にサンジに触れたいと思ってしまった。
私のすぐ隣でお皿を洗うサンジの袖を捲られた腕に、私は食器を拭く手を止めそっと触れた瞬間だった。

サンジは咄嗟に腕を引っ込め、目を見開いて私を凝視してきた。

「!あ、...名無しちゃん、濡れちまうよ?」
「...え、ああ。そうだね、ごめん...」

一瞬驚いた表情をしてから、にこやかに微笑みながら言うサンジに私はそう返すしか無かった。片付けが終わった後サンジは名無しちゃんにだけ特別、と言うと可愛らしいケーキを食べさせてくれた。
頬が落ちそうな位美味しいそのケーキを食べながら、私の心の中にはモヤモヤしたものが広がっていた。

それからというものサンジと2人きりになる機会は幾つかあったものの、やはり彼は一切私に触れて来ようとする素振りさえ見せなかった。

2人だけで同じ空間を共にして笑い合える、それだけで十分幸せな事は分かっている。
でもこんなにも好きな人に触れたいと思う私は可笑しいのだろうか?
サンジは、私に触れたいと少しでも思っていないのだろうか?


そしてサンジと付き合って1ヶ月、私は思わずブルックに相談を持ちかけたのだった。

「私って変態なのかな?」
「変態な名無しさん...素晴らしいですっ!」
「ブルック...私真面目に言ってんだけど。」
「すみません。」

今までこんな純粋に誰かを好きになった事なんて無かった。男なんて付き合ったらすぐ手を出してくると思っていた。

「私は心が汚れている...」
「何を言いますか!それじゃあ四六時中女性のパンツを見たいと思う私の心はどれだけ汚れていると...って私、心臓無かったんでしたー!」
「......」

突っ込む気も起きない私にブルックは深刻ですねえ...と呟いた。

「よし!名無しさん!」
「え、な、何?」

いきなり呼びかけるブルックに驚き彼を見ると拳を握りしめていた。どうしたのだろう、と思っている私にブルックは立ち上がりこう叫んだ。

「ここは1つ作戦を練りましょう!」





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