MEDIUM | ナノ



I was always by my side



「あ、え...」

まさか本当に告白だったとは。
人生で初めてされたそれは、一瞬時が止まる感覚に陥る。

「返事はすぐじゃなくて良い。でも、俺の事を少しでも良いと思ってたら前向きに考えてくれねえかな。」

しかし、こんな時でも私の頭にはアイツの顔が浮かんでしまう。今すぐに飛んでいきたい。こんな気持ちのまま、先輩の告白は受けられなかった。



「先輩、ごめんなさい。私...好きな人が居るんです。」

ドキドキと鳴る心臓に手を当てながら先輩の顔を見上げると優しい笑顔で分かった、と答えてくれた。

「羨ましい奴だ。こんな可愛い子に思われてるなんて。」

じゃあまたな、と手を振りながら去っていく先輩の背中を見つめながら私はアイツからのメールの返事を待った。



いつまでもここにいる訳にはいかないと思い、立ち上がろうとした時携帯のメールを知らせる音が鳴った。

"大丈夫だ。今日貰う。"

他の女の子に対しての言葉遣いとは違う、淡々としたメール。
やっぱり、私は貴方にとってただの幼なじみなんだね。




───ピーンポーン

サンジの家の扉に着いた今でも私の心はフワフワとしていて、変な感覚のままで。
エース先輩のあの時の顔がフラッシュバックする。

───ガチャ

「悪いな。」
「...いや大丈夫だよ。それより、具合どう?」
「だいぶ良くなったから大丈夫だ。入ってくれ。」

扉から出た顔は思ったより元気そうで安心した。
部屋に入るとリビングに通される。
何年ぶりだろうか、この家に入るのは。

「これ、スポーツドリンクとか買ってきた。」
「わざわざすまねえな。渡したい物ってなんだ?」
「そうだ、これ。」

朝、あの女の子から預かったラブレターを差し出すとサンジは無言で受け取った。
体調が優れないからだろうか、いつもなら飛んで喜ぶのに。


「名無し、...」
「うん?」
「あの野郎と付き合ってんのか?」

サンジが言うあの野郎、とは間違いなくエース先輩の事だろう。突然の問いかけに驚き、告白を受けた事実にまた私の頭は支配されそうになり動揺を隠せなかった。

「つ、付き合ってないよ!何言ってんの、もう。」
「...嘘つく時、前髪触る癖あるの自覚してねえだろ。」
「え、!」

確かに今無意識に前髪を触っていたが、それが嘘つく時の癖だったとは。でも嘘ではない、本当に付き合ってないのだから。

「嘘じゃ、ないよ。」
「......」

私の言葉に対してサンジは何も言わず近づいて来て私の目をジッと見つめてきた。何かを見透かされそうで怖いと思いながらも私の心臓はうるさくなっていく。

「名無し、何で俺を避けるんだ?」

いつの間にか私の背中は壁とくっ付いていて、サンジは長い腕を伸ばすと私の頭上の壁に手をついた。

「避け、てない。」
「また前髪触ってるぞ。」

しまった、と思うと同時にサンジは空いた片方の手で私の顎をすくい上げ視線を自分に向けさせた。

「サンジ...どうし、たの。」
「俺は、油断しきっちまってたんだな。」
「何の事...?」
「あの野郎に何された?」

片方しか見えないサンジの瞳が私を捉えて離さない。
こんなに見つめ合うこと、今まで無かった。
サンジの瞳ってこんなに色っぽかったっけ?

「な、何もされてない...!今日のサンジ、おかしいよ...?」
「...昨日、俺が何で彼女作らねえのか聞いたよな?」
「う、うん。」

私の耳元まで顔を近づけてくるサンジの吐息がくすぐったい。

「俺のものにしたいレディが居るからだ。」
「え...」
「俺以外の野郎を見るな、名無し...」

その言葉に私はサンジの身体を突き放した。
しかし私の力ではよろめく事も無く、サンジはただ私を見つめていた。


「な、何言ってんのよ...そんな、」
「気付いてないかもしれねえが、俺は」
「やめてよ...!嘘ついてるのはサンジの方じゃん!今更...私が今までどんな気持ちで...」

混乱する私は何をどう伝えれば良いのか分からずにいると、サンジに強く抱き締められた。

「離して...」
「離さねえ。」
「やめてよ...!私は...」

その言葉を遮るように、私の唇はサンジの唇に塞がれた。

「クソうるせえ口だな...」
「な、何して...!」
「お前の気持ちなんざとっくに知ってんだよ。俺が告白された話する時も、ラブレターを代わりに持ってくる時も前髪触ってんだぞ。」
「だから、何なの...!私、初めてのキスだったのに...!」
「当たり前だろ。俺以外の奴としやがったら、許さねえ。」

知らないよ、そんなの。




「名無し。」
「......」

初めてのキスを奪われると同時に、身体の力が抜けサンジにもたれかかり呼んでも返事をしないで居ると彼は私をお姫様抱っこしだした。

「ちょっと...!」
「また口塞いで欲しいのか?」

その言葉にうっ、と黙る私をサンジはソファに私を優しく降ろすと隣に座った。

「で、」
「何...?」
「あの野郎とはどうなったんだ?」
「...付き合って欲しいっ」
「あーそうだ、その前に、」

お前の本当の気持ちを聞いてなかった、とまた私の目の前に顔を近づけてくるサンジに顔の向きを逸らす。
そんな私の頬を手で包むと自分の方へと顔を向けさせた。

「私、は...」
「ん?」
「サンジ、もういいでしょ。あと顔近いよ...」
「名無しの口から聞かねえと納得出来ねえ。俺の事、どう思ってるか。」

そんなの、言わなくたって分かってるくせに。サンジの意地悪な顔が憎たらしいのに、私の心臓はこんなにもうるさい。

「名無し...」

唇と唇が触れそうな距離。
お互いの呼吸が、はっきりと分かる。

「好き、だよ...」

その言葉を合図にするように、二人の唇は再び重なった。




「ラブレターの返事、しなくていいの?」
「あ?ああ、もちろんするに決まってるだろ。」
「...なんて?」
「気になるのか?」

また意地悪な顔で聞いてくるサンジに別に、と返すと後ろから長い腕が伸びてきてそのまま抱きしめられた。
サンジの顔が耳元にあり、その吐息に胸が高鳴る。

「気にしろよ...」
「何でよ...というか、離れてよ...」
「...何で離れたがるんだ?俺はずっと我慢してたのによ。」
「恥ずかしい...から。」

腕から抜け出そうとする私の肩を抱き直すと、またも私の頬を包み自分の方へ顔を向けさせるとサンジは何度も唇を重ねてきた。

「...さ、サンジ...」
「俺は名無しにどうしようもないくらい惚れちまってんだ...覚えとけよ。」

そのままソファに優しく押し倒されながら、私は明日お友達に報告しなければならない事が出来すぎてしまったな、と思った。





前へ / 次へ

[しおり/もどる]



×