MEDIUM | ナノ



I was always by my side



教室から少し離れた人通りの少ない廊下で立ち止まるとエース先輩は私の方へ振り返った。

「あの...!さっきぶつかった事でしたら本当にすみませんでした...」
「え?ああ、違う違う!これ落としただろ?」

咄嗟に頭を下げ先程の事を謝ると先輩は一瞬目を丸くした後、笑顔で私にある物を差し出した。

「学生手帳...あれ、無い...」
「だから君のはここに有るんじゃねえか?」

ポケットを確認してみても学生手帳は見当たらず、更に先輩は名前が記載されているページを開いて見せてくれた。

「ほ、本当ですね...あの、ありがとうございます。」
「どういたしまして。」

先輩の手から手帳を取ろうとした瞬間、ヒョイ、とそれは私の頭の上へと移動した。

「お礼って俺が言うのは可笑しいんだけどよ、連絡先教えてくれねえか?」
「.........はい?」

何が起こったのか理解出来ず間抜けな声が出てしまった。
連絡先...?カツアゲされる...?

「えっと、何ででしょうか?」
「いやー、一目惚れってやつなのか分からねえんだが...」

君のこともっと知りたいって思って、と続ける先輩にドキッとする。

「ダメか?」
「あ、いえ、ダメって訳では。」
「本当か!?」

これってどうすればいいんだ?
断ったら怖いし、断らなくても怖い。
でも連絡先教えるだけなら、と私は小さく頷いた。

よっしゃ!と喜ぶ先輩に呆気に取られていると、私の向いている方向から金髪の見慣れた顔が見えてきた。
その人物は先輩を一瞥した後、私の存在に気づくと目を見開き一瞬足を止めたがすぐに歩き出し私の横を通り過ぎた。



「...名無しちゃん?大丈夫か?」
「あ、はい。すみません。」
「じゃあメアド教えてもらって良いか?」
「はい、分かりました。」

先輩は手帳を返してくれるとありがとな、と私の頭に優しくポン、と手を乗せるとそのまま去っていった。

触れた頭に手をやりその背中を見ながら、私の頭の中は何故か先輩では無い人物で一杯だった。
理由は分かり切っている。





「無事帰還したのね、名無しよ!」
「ただいま...」
「先輩なんだって!?」
「...さっき購買で生徒手帳落としちゃって届けに来てくれたんだよ。」

紛うことなき事実を伝えたが、お友達は私へ疑いの視線を送ってきた。

「...それだけ?だったら何でわざわざ教室を離れたのかしらー?」

鋭いな...と思いつつこの子には隠し通せない事は分かり切っていたので、連絡先を教えて欲しいと言われそして交換した事を伝えた。

「嘘!すごいじゃん!初彼氏!?」
「な、何言ってんの!?付き合ってないから!」
「良いんじゃない〜?儚い恋を忘れさせてくれるかもよ?」
「だから...」

私の言葉を遮るように午後の授業の始まりを知らせるチャイムが鳴った。
お友達は進展あったらすぐ報告ね、と席へ戻って行った。

私はエース先輩の事よりも、あの時すれ違ったサンジの顔が頭から離れなかった。
あんな顔のサンジ、初めて見たから。

放課後になり部活に向かうお友達にまた明日ー、と手を振るとニヤけた顔で先輩の事調査してみるわ、と耳打ちされた。

「はいはい、ありがとう。」
「じゃあねー。」

はあ、と溜め息をつくと帰宅部の私は図書室へと向かった。





「ロビン先輩こんにちは。」
「名無し、こんにちは。」
「返却お願いします。」

私は本が好きで入学して間もないのに図書室の本を結構借りている常連になっており、図書委員長のロビン先輩と少し交流があった。

借りていた本を先輩の座っているカウンターに置くと返却作業をしてもらう。

「ありがとうございます。」
「どういたしまして。」

返却が完了すると、私は図書室を巡り借りる本を選ぶ。ここは静かでとても好きな空間なのだが、そろそろアイツが来る頃では無いだろうか。
私が図書室に来る時に限って決まってサンジは学校のトップクラスの美人であるロビン先輩に絡みに来る為だけにここへやって来る。

本を選びながらソワソワしている自分に嫌気が差す。昼休みにあんな風に出くわしてしまったのでどんな顔をすれば良いのか分からなかった。

しかし、30分経ってもアイツは現れないまま私は借りる本をロビン先輩の元まで持って行った。

「これお願いします。」
「今日、サンジ来なかったわね。」
「あ...そ、そうですね。ロビン先輩に迷惑かけてるって自覚したんじゃないですかね?」
「ふふ、私は迷惑じゃないわ。だって彼がここに来るのは...」

そこで言葉を途切れさせた先輩はこれ以上は言ってしまったらダメね、とニコリと笑った。先輩の言っている意味が良く分からなく、キョトンとするしか無かった。




家までの帰り道、携帯にメールが届いているのに気がついた。

"今日は連絡先教えてくれてありがとうな。"

差出人はエース先輩だった。
あの見た目なのに何と礼儀正しいこと。
いやでも初対面の女子に連絡先を聞くって、他の女の子にも同じ事してるのでは...?

取り敢えずメールの返事をすることにした。

"こちらこそわざわざ学生手帳届けて頂き、ありがとうございました。"

返事を返して携帯をポケットにしまい、家へとまた歩き出した。





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