Let me be honest 「何で笑ってるの...」 「悪いっ。で、分かりそうか?」 「分からないです...」 「あのカップの模様、覚えてるか?」 「模様?」 正直覚えていない。 パニックになってそれ所じゃ無かった。 言えなかったら蹴られる? 再び考え込む私にサンジはまた笑いそうになっているのが分かった。 「覚えてないや....」 「っ、名無しちゃん!!」 「な、なにっ!?」 「その指!!」 頭を抱えるようにおでこにやった私の手をサンジの大きな手が掴んだ。絆創膏を貼った親指に気づいた様で、目を見開いている。 「切ったのか...!?」 「あ、うん、カップの破片で...でも全然大したこと無いから。」 こんな至近距離でしかも手を握られていることに私は心臓がバクバク言い出したのを全身で感じた。 徐々に眉間のシワが深くなるサンジにドキドキしながらも怒らせてしまったのだろうか、と不安になった。 「あのカップの模様な...正解はチューリップだ。」 「チューリップ?」 「ああ。花言葉は"正直"。」 「え、」 「名無しちゃん、あれは君の為に買ったカップだ。」 紅茶もコーヒーも飲まない私の為に? どうして?と訳が分からなくなった。 「前に1度だけ暖かいレモネード飲んだの覚えてるかい?」 「ああ、...うん。」 「寒い時にでも名無しちゃんに暖かい飲み物を飲んでもらいたくて君にだけ作ったんだ。それを飲んだ時の名無しちゃんの顔が、クソ可愛くてよ。この間着いた島であのカップを見つけた時に名無しちゃんのそのクソ可愛い顔が浮かんだ。」 険しい表情から段々と元の優しい表情に戻っていくサンジの口から私の事が語られている事が何だか変な感じ。 「また寒くなった時あの顔が見れるかも知れねえって思った。だから俺はあのカップを大切にしてたんだよ。」 「サンジ、私、...ごめんなさい。」 「俺が勝手に思ってたことだからな。だから名無しちゃん、君はこれっぽっちも悪くねえ。むしろ正直に話そうとしてくれたんだから、もう謝らないでくれねえかな?」 「でも、」 私の事を思って買ってくれたカップを、私が割ってしまった事には変わりない。 「そうだな...じゃあ名無しちゃん。いくつか質問しても良いか?」 「うん、何?」 「今の俺の話を聞いて、君はどう思った?」 「...嬉しいよ。すごく。」 「それだけか?」 じっ、と私の手を尚も握りながら心無しか顔を近づけてくるサンジに心臓の音が大きくなっていく。 「じゃあ、質問を変えさせてくれ。俺の事どう思ってる?」 「サンジの事...?」 「"正直"に。頼む。」 「サンジ、顔近いっ、」 「顔近いと困るのか?」 「だって...」 怒られはしなかったが、何だか意地悪なサンジに心臓が爆発しそう。 もう、無理...! バンッ──── 「おいサンジ!やっぱり俺達じゃ無かったじゃねーか!!!」 「おいルフィー!!!お前って奴はー!!!今すげえ良い所だっただろうがー!!」 「何言ってんだウソップ、俺らを疑ったこのエロコックの罰だ。」 「もう、あんた達...」 「ふふ、本当に空気が読めない人達ね。」 勢いよく開かれた扉からルフィが叫ぶと、それを止めようとするウソップ。そしてすごく不機嫌そうなゾロの後ろから呆れたナミと楽しそうなロビンと共にクルー全員がダイニングに入ってきた。 「名無しさん、その指ちゃんと手当した方が良いですよ!」 「な...!?お前ら!!」 何故か私が指を切った事を知っているブルックの言葉に、怒りに満ちた表情のサンジの手から慌てて自分の手を抜き去る。 「名無し、医務室行くぞ!」 「う、うん、」 「あ、おい、チョッパー!」 医務室に向かうチョッパーの後に続こうとすると、背後からサンジがチョッパーに叫ぶ。 チョッパーの代わりの様に振り返ると、それ に気づいたサンジは私の耳元で囁いた。 「まだ話は終わってねえからな?」 チョッパーに手当てを受けている間、私は気が気じゃ無かった。 "俺の事どう思ってる?" どう思ってるか...?サンジを...? 何て答えれば良いのか分からなかった。 「よし、これで大丈夫だ!」 「ありがとう、チョッパー。」 「でも名無しが犯人だったとは、びっくりしたぞ。」 犯人と言われ少しヘコみながらごめんなさい...と謝るとチョッパーは慌てて誰にだって失敗はあるさ!と励ましてくれた。 ───コンコン 「チョッパー、終わったか?」 ノックの後に扉の向こうから聞こえる声にビクッと肩を揺らす。 「終わったぞ!」 すぐに返答するチョッパーに待って、と言おうとしたのも束の間、その声の主は煙草の匂いを纏って入ってきた。 「ちょっと名無しちゃんと2人で話があるからよ、此処少し借りても良いか?」 「おういいぞ!」 いいぞ!じゃないよチョッパー...! 私の心の叫びも虚しく、チョッパーは可愛い足音を立てて医務室を出ていってしまった。 「じゃあ、話の続きをしようか。」 「サンジ、あのさ...その話保留って事に」 「出来ねえな。」 まずい、サンジのペースに乗せられている。 今日のサンジは何か強引だ。 この気持ちを、何て伝えたら良いのかまだ分からないのに。 椅子に座る私の対面に立つサンジを見上げる。 「名無しちゃん、俺の質問に答えてくれ。」 「う...えっと、...サンジは、強くて、美味しい料理やお菓子を作ってくれる...優しい人...」 「最後にもう一度だけ質問変えさせてくれ...俺とこうして2人で居ると、どう感じる?」 質問しすぎじゃない?という疑問を飲み込み改めてサンジの顔を見ると彼も私の方をじっ、と見つめていた。 「...ドキドキする。すごく。」 「それから?」 「それから!?えっと、」 「名無しちゃん、"正直"にだ。」 そんな事言われたって。 今日1日サンジの事で頭はいっぱいになったけれど、それはあのカップを割ってしまった事もあって。それで、サンジにどう思われたかって... 「今日、カップを割っちゃったあと、」 「ん?」 「サンジに、もしかしたら蹴られるかもって思った。」 「俺は女は死んでも蹴らねえよ。」 「だよね、やっぱり。でも、それよりも、サンジに嫌われたらどうしようってずっと考えてた。」 「.........」 「だから、言うのが怖くて...」 黙って聞いていたサンジは私が話終えると、いきなり額に手をやり俯いてしまった。 その事に驚いて大丈夫?と声をかけると、微かに何かを言ってるのが分かった。 「...すぎだ。」 「え、な、何?」 「可愛いすぎだ、名無しちゃん。」 「か、可愛くないよ...!」 「いや、クソ可愛い。間違いなく世界一。」 サンジはサラッと私の事をいつも可愛い、と言うが...今のはなんて言うか、さすがに。 「やめて、サンジ...」 「あー、その照れた顔もクソ可愛いな。」 「ほ、褒め殺す気?」 「顔が真っ赤だ、名無しちゃん。」 そう言われると隠したくなってしまう。 咄嗟に両手で顔を覆うとサンジの手がまた私の手を掴み、それを許してくれない。 「離して...」 「可愛い。」 「やめてよ、分かったから。今日のサンジ、何か変、だよ。」 「何でか知りてえか?」 「うん...?」 次の瞬間サンジは私の腕を優しく引き、もう片方の腕を背中に回すと自分の胸の中へと私を収めた。 「さ、サンジ...」 「今日の俺は"正直"だからだ。思ったこと全て言うことにした。だから、名無しちゃん、」 「...?」 「俺は、君が好きだ。」 口元から煙草を取り私の耳元で囁くサンジに、私もゆっくりとその広い背中に腕を回すとサンジの腕の力が強さを増した。 胸いっぱいにサンジの匂いを吸い込むと、私の心臓が壊れそうになる。 「私も...サンジが好き、です。」 正直に生きるって、やっぱり素敵だ。 「......今日このまま離れないでいるか。」 「え!そんなの、無理!」 「正直じゃないなあ、名無しちゃん。」 「本当に無理...!」 「.........」 前へ / 次へ [しおり/もどる] ×
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