LONG "Your memory, my memory." | ナノ



6



「サンジ...」

顔だけ扉から覗かせ名前を呼ぶと、キッチンで仕込みをしていた彼がこちらを振り返る。


「あ、名無しちゃん。」
「ごめんね、お昼ご飯...」
「いや謝る事じゃねえよ。食べれそうか?」

食べたいけどこの空間で食べるのはかなりキツい、と悩んでいると取り敢えず入らねえ?と中へ入るよう促された。

テーブルに座ると出てきたのは大好きなレモンティー。


「ありがとう。」
「何か悩みでもあるのか?」
「...何で?」
「あんまり突っ込むのは好きじゃねえけど名無しちゃんが元気無えのは、見過ごせねえよ。」

ああ、貴方はまたそうやって私の心を掻っ攫っていく。女性皆にそうやって接してるのは分かっているけれど。


「本当に大丈夫だよ。ありがとう。」
「...そうか、なら良かった。今飯出すから待っててくれ。」
「うん。」

ごめん、ナミ、ロビン。
私、やっぱり頑張れそうにないよ。
今目の前に居る人は、恋人であって恋人じゃないもん。

また溢れてきそうな涙を目を擦るフリをして食い止める。


「お待たせ。」

テーブルの上に置かれたのは何故か見覚えのあるメニュー。
野菜が沢山入った卵雑炊、その横には葡萄のゼリーが置かれていた。

それは、あの時熱が下がってもなかなか食欲が出なかった私の為に作ってくれた物と全く一緒だった。


「これ...」
「これくらいなら少し食欲が無くても食えるかと思ってさ。」

ゆっくり食べて、とカップが2つ乗ったお盆を持ってダイニングを後にした彼の背中を見送る。ナミとロビンにお茶を持っていったのだろう。
取り敢えずサンジと2人きりという状況から抜け出せた事に少し安堵する。
もしかして、私の事を気遣って...いやそれは自信過剰すぎる。

雑炊を一口含むと懐かしい味に視界がぼやける。
今日は涙が無限に出てくるな。

…あの時のこと、貴方は本当に忘れてしまった?



次の瞬間、扉が開く音がして勢い良く振り向くと少し驚いた表情の汗だくになったゾロが立っていた。


「あ、」
「...クソコックか。」
「え...」
「お前が泣くなんて、あの野郎の事ぐらいだろ。」

ゾロはキッチンの方へ向かうと適当なグラスを取り水を注ぐとそれを飲み干した。

この人はサンジとは違った意味で人の心を見通してくるんだな、と今は執拗に何があったか等を聞かないでくれる事が有難かった。


「お前趣味が悪いんだよ。」
「なっ、」
「あんな野郎のどこが良いんだか全く理解出来ねえな。」
「うるさいな...」

現にお前泣かされてんだろ、と言うゾロに何も言い返せなかった。

別に泣かされてる訳じゃない、私が勝手に泣いてるだけ。サンジは何も悪くない。
そう言い返したいのに上手く言葉に出来なかった。


「お前がそれで良いなら俺が口出す事じゃねえがな。」

じゃあな、と扉に向かうゾロと鉢合わせるように怪訝な顔をしながらサンジが戻ってきた。



( 優しさと優しさの狭間 )





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