5 「名無しちゃん、...今なんて言った?」 目を丸くして言うサンジにしまった、と思った。結果は分かりきっているのに、もう一度言うなんて滑稽すぎる。 今になって自分のしたことに後悔する。 「あ...なんでもない。」 はは、と笑いながら誤魔化すと頭が更に熱を持ち始めクラクラしてくる。 夢だったら早く覚めてくれ、と手の中にあるグラスを握り締めた。 「本当に、何でもないことにしていいのか?」 その言葉にばっ、と勢い良く顔を上げると真剣な眼差しでこちらを見るサンジと目が合う。そこで初めてサンジが煙草を吸って無いことに気づいた。 そういえば最初にこの部屋に来た時から彼の口元にはいつも咥えられている物が無かった。 「サンジ、煙草は...?」 別にサンジの言葉を無視した訳では無く素直に疑問に思った事が口から出てしまった。 「ん?ああ...好きな子が体調崩してるってのに煙草なんて吸えねえだろ。」 サンジの言いたい事を上手く理解出来ず、思考停止した私の目の前で手をヒラヒラさせ名無しちゃん?と顔を覗き込むサンジの顔は心無しか少し赤らんでいる気がした。 「...え、何言ってんの?」 「そりゃ無えよ、名無しちゃん。」 そう言いながら笑うサンジを見ながら今度は夢だったら醒めないで、と願った。 ────── あの時は熱があったせいもあるのか3日間ぐらい足が地に着いてないような感覚だった。 初めてサンジに触れた日、初めて手を握った日、初めて抱きしめられた日、初めてキスした日。 それが一瞬にしてサンジの頭から消え去った。私の頭にはこんなにもはっきりと残っているのに。 昨晩寝れなかったせいか急な眠気に襲われ目を瞑ると流れる涙をそのままに、ソファの上で寝てしまった。 「...!名無し起きなさい!」 「んー、ナミ...どうしたの...」 「どうしたの、じゃないっての。お昼ご飯食べてないのあんただけよ。食べないならサンジ君に言ってきなさい、あんたのこと待ってるから。」 なんで起こしてくれなかったの!?と詰め寄ると、だってサンジ君が、というナミの言葉にビクッとする。 「サンジが、なに...?」 「寝てるのに起こしたくないって。今朝あんたの目腫れてたからかもね。」 そんな優しさ、今の私には酷だよ。 どんよりとした雰囲気を醸し出す私を、ナミはもう一度振り向かせるんじゃなかったの?と部屋から追い出した。 ダイニングの扉の前で私は動けないでいた。 窓を覗くと中に居たのはただ1人だけだったからだ。 他に誰かしら居てくれたら、ナミにも付いて来てもらうんだったと、色々考えてしまう。 深呼吸をし、意を決して重い扉を開いた。 ( 戻りたい過去と突きつけられた現実 ) 前へ / 次へ [しおり/もどる] ×
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