3 「「「「いただきまーす!」」」」 美味しそうな料理を目の前にしても食欲が湧かなかった。未だに胸が締め付けられる感覚に、まだまだ溢れてきそうな涙を堪える。 いただきます、と小さく言うとサラダを口に含んだ。どうしてこんなに美味しいんだろう、とだんだん食欲が湧いてきた。 サンジの料理は魔法みたいだな、と彼の顔を盗み見る。昨日巻かれていた包帯は外されサラサラとした金色の髪からチラチラと見える瞳にドキドキする。 目が合う前に視線を外し食事を再開した。 「ナミ様お願いします、食器持って行ってくれませんか。」 「ダメよ、自分で持っていきなさい。...すぐに部屋に来て。詳しく聞かせてもらおうじゃないの。」 「ひっ...」 黒い笑を浮かべたナミに怯えると面白そうね、とロビンがニコニコしていた。 この2人怖い...と思いながら食器をシンクで洗い物をしているサンジの元へ重い足を引きずりながら持っていく。 「サンジ!ごちそうさま!」 「あ...名無しちゃ、」 食器をサンジに渡すと彼の言葉を最後まで聞かず私は逃げるように足早にダイニングを後にした。 「それで、何があったのよ。」 女部屋へ仲良く3人で戻ると、すぐさまナミに問いただされた。 「...私、振られたっぽい。」 「何故そう思うの?」 ロビンがにこやかに聞いてくる。 昨晩の事を2人に説明した。 「だからあんたいつも夕飯の後すぐ何処か行ってたのね。」 「すみません、お恥ずかしいです...」 「何で謝るのよ。でもそれって、何か...」 「明らかに振られたとは言えないわね。」 ロビンの言葉に良かった、とほっとする。 でも、だとしたらサンジは何故あんな反応を示したのか。 「記憶が無くなってるわね。」 「.........は?」 尚もニコ、と言うロビンを口をあんぐり開けて見つめ返す。 本当に鈍感なんだから...とナミが呆れている。 「だって、え?私の事忘れてないよ?」 「だから...あんたと恋人同士って事がサンジ君の頭から抜けてるってこと!」 何それ、そんな残酷な事があるのだろうか。 未だに開いた口が塞がらない私の腕をナミが掴むと行くわよ、と女部屋を出た。 ナミとロビンと医務室にやってきた私達にチョッパーは少し怯えながら何だよお前たち!と声を上げた。 ちょっと聞きたい事があるのよ、とナミが真剣な表情を見せるとチョッパーは何だ?と耳を傾けてくれた。 「記憶喪失?まぁ、打ちどころが悪ければなる可能性は無くはないけどさ...サンジにはそんな兆候無かったぞ?」 「仮に記憶喪失になったとして、その記憶って戻ることは無いの?」 「戻る可能性はあるけど、かなり時間がかかると思うよ。ずっと記憶が戻らない場合もある。それより名無し、朝から目が腫れてるぞ。大丈夫か?」 ナミの質問に答えてくれる可愛らしい小動物の口からは希望と絶望が同時に発せられる。 チョッパーの最後の問いかけを聞こえなかったかのように装い、そう、と言うとナミは私の方を振り返った。 「名無し、作戦練るわよ。」 「さ、作戦?」 「サンジ君の記憶を戻すか、新しく記憶を植えるか。」 あんたが決めなさい、と言うナミの迫力に圧倒されながらはい...と返事をするしか無かった。 ( 迫られた選択と頭に浮かぶ貴方の顔 ) 前へ / 次へ [しおり/もどる] ×
|