2 頭をあんな強打してもいつもと変わらず頬が落ちそうになる料理を作るサンジは、本当にすごいと感心すると共に、頭に巻かれた包帯がなんだかセクシーだな、なんて不謹慎な事を思ってしまった。 食事を終えると私がこの船で1番大好きなアクアリウムバーで座って待ち、彼が来るのを待つのが日課になっていた。 この日もいつも通りアクアリウムバーに向かおうとダイニングを後にした。 しかし1時間待ってもサンジは来なかった。もしかして体調を崩してしまっているのかな、とダイニングへ戻ろうとした時だった。 「ここに居たのか。」 立ちあがった瞬間、愛しの彼の声が聞こえた。声の方へ目をやるとサンジが立っていた。 「サンジ...大丈夫?」 「ん?何が?」 「体調...」 「心配してくれてるのか!?名無しちゃん〜!!」 クネクネと目をハートにするサンジに、少しだけ違和感を感じる。 「食後のデザートでもどうかなって思ってよ。来てくれないかな?」 「あ、うん。ありがとう...」 「じゃ、行こうか。」 踵を返しアクアリウムバーを出ていこうとするサンジの背中を目にすると我慢していたものが弾けた。 思わずサンジの広い背中に抱きつく。昨日、目一杯抱きしめて貰ったはずなのに彼に触れたい衝動が抑えられなかった。 その背中に顔を押し付け、腕の力を込める。 しかし次の瞬間、私はサンジの手によって彼の身体から引き離されていた。 「...え、サン、」 「どどどどどうしたんだ名無しちゃん!!」 「え?」 「いいいきなり抱きついてきたりして...!なななんて積極的なんだ...!!!」 これはジョークか何か?と目を丸くして私の両肩に手を置き距離を空けるサンジを見上げる。 「どうしたのサンジ...」 「こっちのセリフなんだが...!名無しちゃん、一体どうしたんだ?」 訳が分からなくなり彼の顔を見つめる事しか出来なかった。 顔を真っ赤にして私から手を離す彼を見て冗談では無いということが伝わる。 「サンジ、」 「ど、どうした?」 「私はサンジの...」 彼女だよね?と言う言葉が出てこなかった。 何故か言ってしまったら、ダメだと感じた。 ごめん、と言いかけた言葉を飲み込み彼から目線を外す。 いや、嬉しいけどよ...!と未だに顔を赤く染めるサンジは私の恋人であるサンジでは無かった。 いつもなら何も言わずに長い腕を私の背中に回し、抱きしめ返してくれる。1日に1回だけ、2人きりになれるこの時間は片時も離れなかった。 おやすみ、と唇を重ね私の頭をサンジが撫でてくれ、離れるのを惜しむようにお互い男部屋と女部屋へと帰る。 その時間が堪らなく大好きで、世界一幸せと感じていた。 だが今目の前に居るサンジはただただ戸惑った様子で立ち尽くしていた。 「...名無しちゃん?」 「あ...ごめん、今日はもう寝るね…!」 アクアリウムバーを出るまでサンジの顔を見れなかった。早足で女部屋へ向かい部屋に入るとベッドへ倒れ込んだ。 何で?どうして?どうなってるの? 分からない。遠回しに別れたいとでも言っているの? やっぱり、私にはサンジの彼女なんて無理だったの? 私を自分から引き離した時のサンジの頭に浮かぶ。 目を見開いて、心の底から驚いた顔で私を見ていた。 鼻の奥がツン、となり次第に視界がぼやける。溢れた涙はしばらく止まりそうになかった。 本当に振られた...?しかし、サンジがあんな方法で別れたい意識を示すとは思えなかった。やはり彼に直接問いただす? 頭の中がサンジでいっぱいになる。 結局眠れないまま朝を迎えると朝飯だぞーというサンジの声が聞こえてきて、それが今は私の心を締め付けた。 重い身体を起こしたがダイニングへ行きたくなかった。いや、彼に会いたくなかった。 こんな気持ちで彼の前で笑顔でなんて居られそうに無い。 きっとひどい顔をしているだろうな、と取り敢えず洗面所へ向かった。 「ちょっ、あんたその顔どうしたの...!?」 たまたま洗面所でナミと鉢合わせになり、私の顔を見た途端彼女は驚いていた。 そんなに酷いのか...と鏡を見ると目の周りが赤くなっていた。 「...何でもないよ、よく眠れなかっただけ。」 「......サンジ君と何かあった?」 「え!?な、なんで!?何も無いよ!?」 「あんたね...わかり易すぎ。」 白状しなさい、と顔を洗う私の肩を掴むナミから逃げるように急いでタオルで顔を拭きながら、ご飯食べに行こ!とナミの手を引きダイニングへと向かった。 ( 悲しみと戸惑いと愛しさと涙 ) 前へ / 次へ [しおり/もどる] ×
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