1 いくら我らのサウザンド・サニー号が頑丈だからと言って、こんな大嵐が来たってビクともしないなんて事はない。 大きく揺れる船の上をなんとか立っている状況だった。ナミとフランキーの指示に従い、クルーがこの嵐から抜け出そうと努力していた。 「名無しちゃん!」 「サンジ...」 少しよろけた私の元へ帆を畳んでいた私の恋人が駆け寄ってくる。 その刹那上から彼を目掛けて何かが飛んでくるのが目に入った。 「サンジ!危ない!」 「え、?」 ゴンっ!!!!という大きな音を立てながら彼の頭を直撃した。甲板の床に落ちたそれを見ると、船のどこかの部品らしき物。 その横に倒れたサンジ。訳が分からずそれを見つめる事しか出来なかった。 「サンジー!大丈夫かー!!」 ルフィの声にはっ、として彼に駆け寄るといつの間にか船は嵐の中を抜け出していた。 「ちゃんとメンテナンスしたはずなのによ...」 「あの嵐の中じゃ仕方ねえよ。」 ダイニングでフランキーとウソップの話を聞きながら、彼が心配で胸が張り裂けそうだった。 ナミが私の背中に手を置きながら大丈夫よサンジ君丈夫だから、と言ってくれる。 そうだね、と精一杯笑いながら返す。 「チョッパー!サンジ大丈夫か!?」 ダイニングに居た他のクルー達全員が開いた扉へと目を向ける。 1番に声を上げたのは船長であるルフィだった。 「うん、大丈夫だよ。一時的に意識を失ってるだけだ、しかも傷はかすり傷程度。あんな音したんだ、普通なら生きてないよ。やっぱりサンジはすごいな、今は寝てる。」 良かった、と胸をなで下ろす。 本当に一瞬、彼を失うかと思った。 安堵により出てきた涙を他のクルーに見られないようにそっと拭った。 「名無し、行ってきたら?」 「え、でも...」 「寝てるから、顔見てくるだけなら大丈夫だぞ。」 ナミの言葉に良いのかな、と戸惑っているとチョッパーの言葉が更に背中を押してくれた。 「じゃあ、ちょっとだけ...」 ゆっくり椅子から腰を上げると再びダイニングの扉が開く音がした。 「サンジィィィーーー!!!!」 「サンジ君!」 よう、と扉から顔を見せる彼の頭には包帯が巻かれていた。 今にも彼の胸に飛び込んで抱きついてしまいたい衝動をぐっと堪えて良かった...と零した。 「すまねえな、心配かけちまって。すぐ夕飯の支度するからよ。」 「大丈夫なのか!?無理すんなよ!?」 「大丈夫だ、チョッパー。手当ありがとうな。」 お礼なんて言われても嬉しくねぇよっ、と可愛らしく言う彼に向かって私も心の中でお礼を言った。 「まあこいつが死ぬなんて世界から女が滅亡した時位だろ。」 「なんだとクソマリモ!飯抜きにすんぞ!!」 いつも通りゾロと言い合うサンジを、本当に良かったと微笑んで見つめる。 私の視線に気づいた彼は名無しちゃん、そんなに見つめられたら照れちまう〜!と目をハートにして言った。 夕飯の時間まで各々がダイニングを後にして自由にしている中、私はずっとダイニングのテーブルに座って彼の傍にいた。 私の中で彼が料理している時は恋人らしい事はしないと決めていた為ただただ傍で本を読むフリをして見つめていた。 「はい、名無しちゃん。」 コトリ、とテーブルの上に置かれたのは私の大好きなアイスレモンティーだった。 ありがとう、と返すとどういたしまして、と微笑んでキッチンに戻る彼が愛おしくて仕方がなかった。 サンジと付き合い始めたのは2ヶ月前、私から告白したのがきっかけ。 誰にも相談せず1人で悶々とする日々に終止符を打ちたくて2人きりになれた機会を利用して想いを打ち明けた。世界中の女の人が恋人だと言わんばかりの彼だから振られて当然だと思っていた。 予想外の返事にフリーズした私を名無しちゃん?と覗きこむ彼の顔がとても印象的だった。 ナミとロビンにサンジと恋人関係になったことを告げると、やっとくっついたの?とナミに呆れられ、良かったわね、とロビンに微笑まれたのは今でもはっきりと覚えている。 チョッパーとルフィ以外のクルーにもナミと同じような反応をされたのも良い思い出だ。 かっこよくて、優しくて、愛おしい、自慢の彼氏。誰がなんと言おうと、世界一の恋人。 彼が居なくなってしまったら、私は生きていけないかもしれない。 甲板に出て飯だぞー!と叫ぶサンジの声に恋人になった瞬間の事を思い出して顔が熱くなっているのが恥ずかしくなり、勢い良くレモンティーを吸い込んだ。 ( 今はただ、貴方が愛おしい ) 前へ / 次へ [しおり/もどる] ×
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