LONG "Your memory, my memory." | ナノ



21



「それが私の一番伝えたかったことだよ。」


やっと言えた。言えたけれど、サンジの反応が怖い。
目を見開き微動だにしなくなったサンジを不安に感じながら見つめていると私はある事に気がついた。


「サンジ...煙草は?」
「............へ?」
「煙草。吸わないの、何で?」

彼の口元にいつもある煙が放っている物。
それが無いことに今更気づくなんて。
あれ、こんな事、前にもあった?


「え、ああ...名無しちゃんが怪我して寝てるってのに、煙草どころじゃねえだろ。」


"好きな子が体調崩してるってのに煙草なんて吸えねえだろ。"


ああ、あの時だ。私が初めてサンジに想いを告げた時の事が頭の中で鮮明に蘇ってくる。
あの時もこうやって私が話をすり替えたっけ。
サンジ自身も私自身も、本当に変わってないんだ。その事が何だかとても嬉しくて笑ってしまった。


「ふふ、」
「名無しちゃん?」
「サンジは、本当に優しいね。今日は本当にごめんね。なんか、色々と...皆の所行こうか。」

サンジと私の手が離れ、私がベッドを降りようと両足を床に降ろし置かれた靴を履こうとした時。サンジの大きな手がまた、私の腕を掴んだ。


「サン...」
「本当に、勝手なレディだ。」
「え、?」
「正直、俺はまだ今の状況を納得出来てねえ。俺が名無しちゃんの何を忘れて、名無しちゃんの何を感じてねえのかは自分では分からねえ。だが四六時中、夢の中でも君のことが頭から離れなくて、それでも俺は名無しちゃんの事を何とも思ってないって言いてえのか?」

顔を俯いて淡々と、でも明らかに感情的に話すサンジに戸惑いを隠せない。
でもサンジの言葉からして自惚れてしまう自分が居て胸の鼓動がどんどん早くなる。
どうしたらいいのか分からず固まっていると突然サンジは顔を上げた。


「えっ、と、サンジ...」
「何が言いてえかと言うとだな...名無しちゃんに先に言われちまってからじゃ、アレだが...俺は名無しちゃんが好きだ!こんなに心奪われちまったのは名無しちゃん、君だけだ!だから名無しちゃんこれからずっと、死ぬまで君には俺の傍に居て欲しいんだよ!」

そう言って顔を真っ赤にさせるサンジに、次は私が目を見開き呆然としてしまった。
サンジはいつもスマートで紳士で、時には女性にデレデレする時もあるけれど、こんなサンジは初めて見た。


「サンジ、なんか、プロポーズの台詞みたいだよ...」
「えっ、!?」

私の腕を掴むサンジの手をそっと振りほどくと、私はサンジの胸に飛び込んだ。


「そんな事言われたら逆に嬉しすぎて泣いちゃうよ。」
「名無し、ちゃん...」

サンジは自身の腕のやり場に戸惑いつつも、最後は私の背中にそれを回して抱きしめたくれた。懐かしい、この大好きな腕の中で私はサンジにバレないように涙をそっと流した。








「やーっと戻ってきた。」

ダイニングにはルフィとチョッパー、ゾロ以外のクルーがテーブルに座り、私達が現れた瞬間ナミが一番に声を発した。


「サンジ〜、お前の声丸聞こえだったぞ?」

次に茶化すようにウソップがサンジに言うと、サンジは少し顔を赤らめてうるせえな!この長っ鼻!と飛びついた。


「まあ二人とも座って。どうなったか聞かせてもらおうじゃないの。」

ニヤニヤするクルーの視線が恥ずかしすぎて私は少しサンジの斜め後ろへ下がった。
早く座りなさい、と隣の空いている二つの椅子を叩きながらナミが私達を促すとそれに従い二人並んで座った。


「名無し。」
「は、はい。」
「聞かせて?サンジ君とこれからどうするのか。」

ナミはいつもと変わらぬ口調で、でもどこか優しく私に言った。
あのね、と言いかけた瞬間私の言葉を遮るようにサンジが口を開いた。


「ナミさんすまねえ。船内で恋愛沙汰なんてよ、他のクルーの迷惑になるって事は分かってる。だが俺には、大切な人が出来ちまった事に変わりはねえんだ。迷惑かけないように努めるつもりだが、もし...」

「「「だははははは!!!」」」


そこで私以外のクルーの笑い声が部屋に響いた。サンジは目を丸くして何が起こったのか、自分はそんなおかしな事を言ったのかとでも言いたそうにクルーの顔を見回し最後に私の顔を見下ろした。


「おめえはあの時とほとんど同じこと言いやがるなあ。本当に記憶無くしちまったのかあ?」
「懐かしいですねえ、あの時に戻ったみたいです!ヨホホホホ!」

フランキーとブルックの言葉を聞いても尚、戸惑いを隠せないサンジに私まで笑ってしまった。
あの時、サンジと恋人同士になった日にクルーに伝えた時。その時サンジは今とほぼ同じことを口にしていた。


「あーおっかしい。名無し、記憶のこと本人に話したの?」
「いや、ちゃんとは...話してなくて。」
「ふふ、もうこの際だから話してしまったら?」

ナミの問いかけに答えると、ロビンが笑いながら提案してきた途端サンジがまた口を開いた。


「ちょ、ちょっと待ってくれ。名無しちゃん、その、俺が名無しちゃんを忘れちまったとかって話か...?」
「あ...うん。そう、それの事。」
「ダメだ、頭が混乱する。何で俺がこんな笑われてるのかも分からねえしよ...」

言ってしまったらますます混乱してしまうのでは、と少し考えたがクルーの目が優しく見守ってくれているようで私はとりあえず言ってみた。



「サンジ、私と貴方は、既に恋人同士なんだよ。」



( 口にしてしまった本当の貴方と私の関係 )





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