19 どこにいるんだ...! 街に着いても俺は名無しちゃんらしき人物の姿を見つけずにいた。気持ちが焦って、冷静になれない。冷や汗なのか、走っているせいなのか汗が止まらない。 「...クソっ...!」 もう一度周りを見回してみると、向かいの方から見慣れた麦わら帽子。 「ルフィ!」 俺の存在に気づいたルフィは手を上げながらおー、と手を振ってきた。 よく見ると誰かを背負っており、それが俺が今探していた女性であると確認できた。 「名無しちゃん...!」 「サンジ、何してんだ?そんな慌ててよ。」 「先に船に戻るって言ってた名無しちゃんの姿が見当たらねえから探しに来たんだが...お前と一緒だったなら良かった。」 ルフィの背中で眠る名無しちゃん。 その目元は赤くなっており、彼女が自らの手で擦ったと分かり何故か胸が締め付けられた。 「とりあえず船戻るぞ。こいつ足捻っちまったんだよ、チョッパーに手当てしてもらう。それから名無しと話せよ。」 「話す...って、」 「名無しが言ったんだよ。お前に伝えたい事があるって。」 いつの間に寝てしまったんだろう。 ルフィに背負われてそのまま...少し目を開けてみるが暗くて周りが良く見えない。薬の匂いがするから、ここは医務室かな。 上半身を起こすと足首に違和感を感じ、触ってみると手当てをされていると分かった。 チョッパーだろうか後でお礼を言わなきゃ、と思った瞬間私の鼻をある匂いが掠めた。 私の、好きな人の煙草の匂いが。 暗い部屋をもう一度目を凝らして見ると、椅子に座り上半身を私に触れないようにベッドに突っ伏している人物が居るのに気が付いた。 「...サンジ?」 すぐそこに居る彼は寝ている様で、微かな寝息が聞こえてくる。 この状況はどうしたら良いだろう、と少し焦ると同時にどうしてサンジがここに居るのか分からなかった。 "名無しちゃん、それ以上は、言わないでくれ...!" あの時のサンジの言葉と顔が頭をよぎると同時に胸が苦しくなる。 サンジがこんなに近くに居るなんて、何日ぶりだろう。その手に、その髪に、全てに触れたい。ダメだと自分に言い聞かせながらも私は我慢が出来ずに、放り出されたその大きくて綺麗な手に触れ、尚も寝息を立てているサンジを確認すると、そのまま軽く握った。 「...サンジ。」 返事のない事に安堵しつつ久しぶりのサンジの感触に、初めてサンジと手を繋いだ時のように胸が高鳴る。 だんだん私の中のもっと触れたいという理性が効かなくなるのが分かって、自分でも止められなくなってくる。 サラサラな髪をもう一つの空いた手で撫ぜてみると愛しくて堪らなくなった。 「...っ、」 ピクっとサンジの手が動くと咄嗟に両手を引っ込めた。驚いて心臓が飛び跳ねた。 それでもまだ起きてないサンジに安心すると、深呼吸をする。 「サンジ...私やっぱり、諦めなきゃダメかな...?」 その言葉に返事は無く、ただ虚しく部屋に響く。 諦める覚悟はしていたつもりだった。でもそれはサンジに想いを伝えて、それでもサンジが拒否をした時であって、私はまだ気持ちを伝える事が出来ていないんだ。 ああ、またいつもの夢だ。 だがいつもと状況が違う。いつもの女性が泣いてるみてえだ。いつもの野郎に泣かされたのか?お願いだ、泣かないでくれ。俺は何故だか分からねえが君の涙が見たくねえんだ。 その瞬間、女性の顔がはっきりと分かった。 そこで目が覚めた。 瞼を開けても周りは暗く一瞬戸惑ったが、ルフィの背中で眠る名無しちゃんを医務室のベッドに寝かせて彼女の足をチョッパーに手当てして貰ってる間ナミさんにこっぴどく叱られ、医務室で名無しちゃんの寝顔を見てて... 「寝ちまったのか...」 「おはよう、サンジ。」 驚いて声のする方へ目を向けると、暗がりの中で名無しちゃんの姿が見えた。 しかし、その表情まではよく分からなかった。 「名無し、ちゃん...」 「サンジ...私に付き添ってくれてたの?ごめんね。」 「いや、名無しちゃんが悪いんじゃねえよ。俺が名無しちゃんを一人にさせちまったからだ。ルフィから聞いた、本当にすまねえ。」 「...謝らないで。楽しかったよ今日、本当に。」 表情は分からないが、声色からいつもの名無しちゃんだと分かる。それでも彼女の顔が見たいと立ち上がり部屋の電気をつけようと立ち上がる。 「サンジ...?どこ行くの?」 「電気つけようと思ってよ。明るい方が良いだろ?」 「...っ、つけないで!」 名無しちゃんは焦ったように大きな声で言うと、驚く俺にごめん...と今度は小さな声で呟いた。 「サンジ、一つ聞いてもいい?」 「...あ、ああ。何だ?」 「前にも聞いたと思うんだけど...好きな人に気持ちを伝えたい時、サンジならどうする?」 ( たった二文字の言葉を伝える方法を ) 前へ / 次へ [しおり/もどる] ×
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