18 名無しちゃんとの会話を思い出し、船への道を一人歩きながら頭の中で葛藤していた。 "お願い、サンジ聞いて。私の好きな人は..." それを聞いた瞬間、頭の中が混乱して名無しちゃんの好きな野郎ってのは...と模索すると同時にそんなの知りたくない気持ちが先走って声を荒らげてしまった。 もしも、名無しちゃんの口から他の野郎の名前が出たら自分がどうなるか分からなかった。そいつを一生恨んでしまうかもしれない。 いつの間に俺の中で彼女の存在がこんなにもデカくなっちまったんだ? 頭と言葉が追いつかず、名無しちゃんが去っていくのを止める事も追う事も出来ず、結局俺は一人で船への道を歩いた。情けなさすぎて自分で自分を蹴り飛ばしてえ。 船に着きダイニングの扉を開けるとそこに居たクルーは俺の姿を目にするとおかえりー、と迎えてくれた。 「サンジ君おかえりなさい。」 「ただいま、ナミさん...」 「...元気無いみたいね。名無しと何かあった?」 まさにその通りです、などと言えるはずも無く俺は何も無えよ?と作り笑顔でナミさんに返した。 「サンジ、名無しはどうしたんだよ?」 「ああ、先に船に戻るって言って...」 「え、嘘でしょ...?」 「...もしかして、帰ってきて無えのか?」 ウソップの質問に答えるとナミさんの顔が青ざめていくのが分かった。 俺はキッチンに荷物を投げるように置くとそのままダイニングを飛び出し船中を探し回った。 「...っ、ロビンちゃん!名無しちゃん見てねえか!?」 「おかえりなさい、見てないわ。...一緒じゃなかったの?」 図書室でチョッパーと本を読んでるロビンちゃんに問いかけ、その返事を聞くと急いで甲板に飛び出し全速力で街へと向かった。 俺は本当に世界一のクソ野郎じゃねえか...! 「せっかくお化粧してもらったのに...」 干からびてしまうのではないか、という程涙は止まらずロビンが施してくれた化粧もボロボロになってしまった。 サンジが買ってきてくれた既に氷が溶けてしまっているレモンティーを口に含んだ。 「やっぱりあのレモンティーじゃないとダメだ...」 サンジが作ってくれる、世界一のレモンティーじゃないと。私は貴方じゃないと、ダメなの。分かっていた、諦めるなんて出来っこないって。 "一度は両思いになったのに、記憶が無くなった位でサンジの名無しに対する気持ちはこれっぽっちも無いと思ってる?" サンジが記憶を無くした時、ロビンが言った言葉。そんな事、思いたくなかったよ。 でもやっぱり記憶と心は結びついていて、サンジの記憶は新しく塗り替えられて私の記憶の遠い遠い所まで行ってしまったんだ。 そろそろ帰らないと、もうサンジも船に帰っているかもしれない。先に帰るなんて言ったのに私が居なかったら心配するだろうな。 いや、しないかな... 「...帰ろう。」 歩き出した足が重い。どんな風に接すればいい?何も無かったように笑っていられる? 誰に問いかけているのか、自分で可笑しくなる。 「姉ちゃん、ちょっと良いか?」 「...何ですか?」 「麦わらの一味だろ?」 船への道を歩いていたら突然掴まれた肩に振り返ると、ニヤついた顔をした男が三人立っていた。私が麦わらの一味かどうか確認するあたり、賞金稼ぎといったところだろうか。 何故こんな時に、今日は散々だ。 「とりあえずこの汚ない手を離して貰ってもよろしいしでしょうか?」 「ああ?...っ!!いでででで!!!」 肩に置かれた手を掴んでなるべく優しくねじ曲げた。少し曲げすぎたか、と思いつつその男が痛がっている隙に私はそこから走り出した。 「おい!捕まえろ!」 「は、はい...!」 私はこんな奴らと追いかけっこする為に街に出てきたんじゃないのに。ただ、サンジに想いを伝えたかっただけなのに。 そろそろ撒いたかな、と後ろを振り返るとまだ追ってくる男達にやはり懲らしめてやらないとダメか、と思った矢先だった。 「ぶふっ!!!」 「うおっ!!!」 路地から出てきた人物とぶつかってしまい、その衝撃にその場で床に崩れ落ちてしまった。 「悪い!大丈夫か?」 「はい、すみません...って、ルフィ!?」 「おー!名無しじゃねえか!こんな所で何してんだ、お前。」 相手はまさかのルフィでその言葉にハッとして後ろを振り返ると、どんどん近付いてくる男達。 「賞金稼ぎと追いかけっこしてた。」 「そうか。...サンジはどうしたんだ?」 「あ、...いや、その。」 そりゃそうだ、ルフィは自らサンジに私と買い出しに行くようお願いしてくれた張本人であって、そのサンジが居ない事に突っ込まれない訳が無かった。 「追いついたぜ、ハア、ハア...手間取らせやがって...!」 「この腕、っどうしてくれるんだ!?ああ!?」 男達は私に追いつくと喚き散らして来て、うるさいなあ、と思い立ち上がろうとした時だった。 「痛っ...!!」 慣れないヒールを履いていたのも重なって、ルフィとぶつかった時に捻ったらしい。 本当に、今日は尽く駄目な日だ。 「お、おい...こいつ、麦わらの、」 「麦わらのルフィだ...!!おい!退散だ!」 男達は私が立ち上がる前にルフィの存在に気づき、顔を一斉に青ざめて冷や汗をかきながら遥か遠くへと逃げていった。私がルフィの仲間だからと言っても、女というだけで舐められたのか...と少しイラついた。 「名無し、サンジは船か?」 「え、あ、どうだろう...そうかも...」 私のそのハッキリしない答えに眉間にシワを寄せると、ルフィは私に背を向けてしゃがんだ。 「乗れよ。足、捻ったんだろ?」 「ごめん...ありがとう、ルフィ。」 私ここの所、ルフィに助けて貰ってばっかりだ。無意識なんだろうけど、いつも無鉄砲なのにこんな頼りになるルフィが船長で良かった、と心の底から思った。 「ルフィ、お肉食べたの?」 「ん?おう!食ったぞ、美味かった!」 「良かったね...」 「なあ名無し、何でサンジと一緒じゃ無えんだ?」 何て返したら良いのか、分からない。 気まずくなって、なんて返したらどうして気まずいんだ?と更に返されそう。 「ちょっと、私が一人になりたい気分になったの。」 「ふーん。お前、朝と表情が全然違うな。」 「え...」 「お前とサンジの間に何があったか俺には分からねえけどよ、お前の中でまだ納得出来てねえ事があるんだろ?」 どうして...どうして全部見透かしてくるの? 気づいてないようで、仲間の事になると何でもお見通しなんだよなこの人は。 「うん。伝えたい事があるの、サンジに。」 ( こんなに痛いのに、諦めきれなくて ) 前へ / 次へ [しおり/もどる] ×
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