LONG "Your memory, my memory." | ナノ



16



ルフィの声に甲板へ出てきた男性クルーの顔は平常と変わらず、ナミの指示に従い船を停めると帆をたたみ錨を降ろす等の作業に取り掛かった。


「名無し...」
「ナミ...ごめんね。」
「何であんたが謝るのよ。ウソップ達はまだ状況が理解出来ないみたいだから誤魔化しておいたわ。私から説明しておいても構わない?」
「うんありがとう、お願いします。あと、やっぱり私今日で本当に終わらせる...どうゆう結果になっても、もう覚悟する。」

ダイニングを飛び出した私を責めるでもなくむしろ心配して声を掛けてきてくれたナミに感謝しつつ、私は今日今までうやむやにして来たサンジに自分の気持ちをハッキリ言う事を伝えた。


「そう、分かったわ。ログ溜まるのに数日掛かりそうなのよ。今日はルフィとサンジ君とあんた以外は島に出ない事にしたから、船で待ってる。」
「...ありがとう、ナミ。」



サンジと私だけの問題じゃない、仲間達を巻き込んでる事実に終止符を打たなきゃ。

胸が締め付けられそうな感覚になりながらも甲板を見回し、先程まで停船作業をしていたサンジが居ない事を確認した私はダイニングへ足を向かわせた。





扉を開くとそこには、キッチンで仕込み作業をしている愛しい彼の姿があった。


「サンジ、」
「あ...名無しちゃん。」
「買い出し、行けそう?」
「ああ、もうすぐだから座ってちょっと待っててくれ。」

朝食後の事もあり、もしかしたら付いてきて欲しくないと言われるかもしれないという不安があったがサンジの優しい声を聞くと一緒に行っても良いんだ、と安堵した。

テーブルに腰掛け、こちらに背を向けるサンジに視線を向けるとワイシャツを捲った袖から見える腕に見惚れる。
その腕に何の戸惑いも無く触れられたなら、その背中に後ろから思い切り抱き締める事が出来たならどんなに幸せだろうか。

この数日で私とサンジの間に出来た壁は高さを増していく一方だった。

今日その壁を打ち壊さなきゃ。
その結果、2人の関係がどうなろうとそれを乗り越えなきゃ。



「お待たせ、名無しちゃん。」

サンジの声にはっ、とし彼を見るとネクタイを首元まで締め、ジャケットを羽織る姿にまた心が高鳴る。

ドキドキとうるさ過ぎる心臓を耳にテーブルから立ち上がると私は彼の元へと歩き出した。


「じゃあ行こっか。」








最近毎晩のようにある夢を見る。
ある女性とある野郎が楽しそうに話している夢。2人の顔は分からねえが、その風景に何故か懐かしさを感じ、そして目が覚めると虚無感で心が一杯になる。

その夢を見だしたのは大きな嵐が船を襲ったあの時の夜からだったのは覚えている。
でも何故その夢を毎晩見るようになったのかが全く分からない。

それと同時にあの時を境にこの船のある女性、とい俺がずっと片想いしてる女性の俺への態度が変わった。

いつかこの想いを伝えたいと思っていた矢先だった。
嵐の日の夜彼女に突然背後から俺を抱き締められた。何かの冗談なのか彼女と俺はそうゆう関係ではない訳で。
クソうるせえ心臓を抑えながら咄嗟に身体を離した時の彼女の顔が今でも頭に焼き付いて離れない。

それからというもの、彼女の俺に対する態度はよそよそしくなっていた。
彼女との距離を縮めたくて、ある事がきっかけで2人きりで話す機会が設けられた時彼女の口から発せられた言葉。


"私ね、好きな人が居るんだ。"


それを聞いた瞬間、夢から覚めた時のあの虚無感が俺を襲ってきた。






「サンジ。」
「あ...ん?どうした?」
「大丈夫?すごいボーッとしてたよ。」

心ここに在らず、という表情のサンジに呼びかけるとやはりハッとした顔になった。
何を考えているのだろう。サンジの表情、仕草一つ一つが私を不安にさせる。

買う物はほとんど買うことが出来、しかしその荷物は全てサンジが持っていて。私はなんの為についてきたのだろうか、と項垂れる。


「やっぱりちょっとだけで良いから持たせてくれない?」
「レディに荷物を持たせるなんて出来ねえって言ったろ?名無しちゃんが居てくれるだけで俺は嬉しいんだからよ。」

それじゃあ私以外の女性でも良いのでは、と思ってしまう私は何て天邪鬼なのだろう。


「...じゃあせめて少し休憩しない?あそこのベンチでも良いし。」

ちょうど視線に入ったベンチを指さし、少し座るようにサンジを促した。少しだけで良い、サンジと話すチャンスは今しかない。


「ああ...そうだな座ろうか。名無しちゃん、何か飲み物でも買ってくるよ。」
「えっ、そんな、いいよ。」
「せっかくのデートだろ?すぐ戻るから待っててくれ。」

荷物をベンチに置くとサンジは少し駆け足ですぐ側のカフェに入っていった。
またサンジの口からデートの言葉が出てきてなんだかんだ恋人同士みたいで嬉しくなる。...というか、恋人同士なんだけどね。


私の気持ちを打ち明けたらサンジはどんな顔をするだろう。もし受け入れてもらえなかったら、この先私はどう彼と接すればいいのだろうか。

いや、ちゃんと今日伝えるって覚悟きめたじゃない。遠くなるサンジを見ながら余計な事を考えてしまう。



( その後姿に胸が高鳴る )





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