15 「名無しあんた、大丈夫なの?」 「え、何で?」 「クマ、ひどいわよ。」 「なかなか寝れなくて...」 あの後目を閉じても結局あまり眠れないまま朝を迎えてしまった。元々クマが出来やすい私はナミに朝一番に指摘される位、いつもより酷い顔をしているらしい。 「お化粧でもしてみたらどうかしら?今日はせっかくのデートでしょう?」 「お化粧...したことない...」 「ふふ、してあげるわ。」 ロビンはそう提案すると、私をドレッサーの椅子に座らせた。 じゃあ私は服選んであげる、と意気込むナミを鏡越しに見ながら何て心強いお姉様方なのだろうかと少し肩の力が抜けた。 服を選ぶナミに私は控えめな感じでお願いします、と声をかけた。 「私たちに感謝しなさい名無し!完璧よ!」 「とても綺麗になったわね。」 2人の言う通り鏡に写った自分の姿は馬子に衣装とでも言ったところだろうか、ロビンによる化粧とナミの貸してくれたワンピースによりいつもより大人びていて綺麗になっていた。 「うわあ、2人とも魔法使いみたい...」 「これで思い切りサンジを襲えるわね。」 「だからサラッと何言ってんのロビンは!?...でも、ナミ、ロビン、本当にありがとう。」 ロビンに突っ込みを入れつつ、ここまでしてくれた二人に心から感謝した。 この二人が居てくれなかったら、私は一人崩れ落ちていただろう。 後はアンタ次第よ、というナミにうん、と返事をすると船長の声が聞こえてきた。 「島が見えたぞーーー!!!」 航海士であるナミはそれを聞くと急いで甲板へと出ていった。 ロビンの私達も行きましょう、という言葉に二人で部屋を出た。 甲板に出ると他のクルーが既に居り、島の方を見ていた。ただ一人を除いて。 朝食の準備をしているのであろうその人物が居なくて少しホッとする自分が居た。 「名無しさん今日は一段とお綺麗ですねえ。パンツ見せてもらってもよろしいでしょうか。」 「よろしくないです。」 皆が島を見ている中いち早く私の変化に気づいてくれたブルックの言葉により、更に自信を持つことが出来た。ブルックに心の中で密かに感謝した。 「飯できたぞーー」 ここに居ない彼の声にビクッとしつつ、高く跳ねた胸に手を当てた。 皆がダイニングへ向かう後を深呼吸しながらついて歩いた。 ダイニングに入りサンジと目が合うと、彼は目を丸くして私を見つめた。 「サンジ、おはよう。」 「え、ああ、おはよう、名無しちゃん。何だか今日は一段と、その...可愛いな。」 「あ、ありがとう。」 サンジは一瞬驚いた表情をしてお褒めの言葉をくれたが、思ったより反応が薄く少し落ち込みながら食事を始めた。 「それにしても嬢ちゃん、今日はえらい粧し込んでるな。」 朝食を食べ終え、島に着いたら何をするか等話し合っている時だった。フランキーが放った言葉にビクッとすると同時に本当にお綺麗ですよねー!!!とブルックが追い打ちをかける。 「え?あ、まあね...」 「まあ久しぶりのデートだろうしなあ。昨日ルフィと肉食いに行く約束した時はどうしたかと...っぶ!」 隣に座るウソップがベラベラと喋り出し、慌ててその口を塞いだ。 ルフィとチョッパー以外は私とサンジが恋仲である事を知っていて、それに加えてサンジがその記憶を失っている事は私たち女3人しか知らない。 「ああ、そう言うことか。」 「いいなあサンジさん。楽しんできてくださいねー!」 フランキーとブルックの言葉に冷や汗が止まらない。サンジはどんな気持ちで聞いているのか。怖くて彼の顔が見れない。 「おいお前ら、名無しちゃんが困ってんだろうが。それよりウソップ、久しぶりってどういう意味だ...」 そこを突っ込まれたか...! フランキーとブルックに気を取られていた私はどうしていいか分からず、頭が混乱してグルグルしてきた。 「何言ってんだよ、名無しと2人出掛けるなんてお前らが付き合ったばっかり以来じゃねえのか?」 シーンと静まり返るダイニングに、え、何この空気?というウソップの声がだけが響いた。 異常なまでに静まり返ったダイニングに居た堪れなくなり何か言わなきゃ、と思った瞬間だった。 「おいウソップ!言って良い嘘と悪い嘘があんだろうが...!名無しちゃんに謝れ。」 サンジの発した言葉によりルフィとチョッパーは目をパチくりさせ、他のクルーは顔を曇らせていく。 事実を知っていたナミとロビンも私の口から聞いてはいたものの、初めてその事を目の当たりにして驚きを隠せないようだった。 「サンジお前、何言って...」 「ホントだよ、いきなり何言ってんのよウソップは!...それよりナミ、もうすぐ島に着くんじゃない?私見てくるよ。」 ウソップのサンジに対する言葉を遮ると、ナミの返事を待たず私は耐えきれなくなりダイニングを後にした。 思わず逃げるように出てきてしまい、ダイニングに残ったクルーに迷惑をかけてしまった。サンジが記憶を失ったことに男性陣が気づくのも時間の問題だろう、と船の前方の甲板からだんだん近づいてくる島を見つめる。 「おー!もうすぐそこだなあ!」 背中から聞こえた声の主の方をみると、満面の笑みで島の方を見ていた。 「ルフィ...」 「サンジと行くんだろ?」 「う、うん。」 「よろしくな!」 にしし、と笑う彼は恋だとか愛だとかいまいち理解してないはずなのに、船長命令だと言わんばかりにまた私の背中を押してくれる。 「おーい!島に着くぞーー!!」 それでも私は皆を呼びに行くルフィの背中を見つめながから、そこから動けずにいた。 ( 心の準備を始めたばかりなのに ) 前へ / 次へ [しおり/もどる] ×
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