LONG "Your memory, my memory." | ナノ



14



カラーン、と落ちたフォークと皿がぶつかる音にはっ、とする。


「名無しちゃん、大丈夫か?」
「あ、だ、大丈夫。ごめんね。」

まさかの人の名前がサンジの口から出てきて驚いてしまった。こう見えてこの人は結構鈍感なんだな、と改めて思った。


「...当たりってことか?」
「え?あ、ルフィ?違う違う!それに、あの約束無しになったから…!」

え、そうなのか...と少し驚いた顔をしたサンジの目をジッと見つめると、私は勇気を振り絞って言った。


「サンジは、明日島に着いたら何するの?」
「俺か?俺はまあ、食料買いに行かねえとな。」
「...あのさ、私も行っていい?」
「...ん?」
「ダメだったら良いんだ!邪魔になっちゃうかもだし!」

またも驚きの表情をしたサンジは少し動揺したようにえーと、と言いながら煙草を口から離し煙を吐くとそのまま灰皿に押し込んだ。


「...俺とで良いのか?」
「え?」
「その...名無しちゃんのデートのお相手。」

デートというワードに今度は私が驚いてしまう。なんて返したら、と迷っているとダイニングの扉がバンっ!と開いた。



「サンジー!水くれー!」
「水くれー!」
「...ったく、いつもいつも本当にうるせえな、てめえらは。」

勢いよく入ってきたルフィとチョッパーにびっくりしたせいなのか、サンジの先程の言葉のせいなのか、私の心臓の鼓動は速くなっていた。


「そうだサンジ、明日名無しと食料買いに行くんだろ?よろしく頼んだぞ!」

おいおいおい、と何の罪も無いルフィの言葉に青ざめる。とは言えそれはまだ決まってない事であって。サンジからしたら何故その事をルフィが知ってるのか、みたいな感じになってしまう訳で。

サンジは立ち上がり2つのグラスに水を注ぐとルフィとチョッパーにそれを渡しながら返事した。


「お前に言われなくても分かってるから安心しろ。」
「にしし、そうだよなー!よし、チョッパー戻るぞ!」



嵐のように来て去っていく2人の後ろ姿を目で追い、パタンと閉められた扉から視線が外せない。
どんな顔をしてサンジを見れば良いのか分からなかった。


「名無しちゃん。」
「えっ!?な、なに?」
「明日、よろしくな。」
「あ、は...はい。」

サンジの声に思い切り振り向くと、新しい煙草を取り出しながら微笑んで私に言った。
思わぬ展開に手が震えが止まらなかった。




ケーキを食べ終え、夕食の準備を始めるサンジに空になったお皿とコップを持っていく。

「サンジ、」
「ん?ああ、そこに置いておいてくれれば良いよ。」
「あの、本当にいいの?」
「何がだ?」

明日...と言葉を濁す私にサンジは作業している手を止めこちらへ歩いてくる。
袖をまくられた腕が意外に筋張ってるんだよな、といつ見てもドキッとする。

「だからそれは俺のセリフなんだが?それに、船長にああ言われちゃあな。」
「そ、そっか。じゃあよろしくお願いします...」
「こちらこそ。」

目を合わせて言われたその言葉を聞くと私はダイニングを後にし、そこから勢いよく走り出した。





「ナミ!ロビン!」

甲板で寛ぐ2人の元へと急ぐと早速私は明日、サンジと2人で買い出しに行くことを伝えた。


「良かったじゃない!さっきの調子だと無理かと思ったけど、やるわね。」
「楽しみね。」

喜んでくれる2人に私は未だにうるさい心臓を抑えながらありがとう、と言った。


「で、どうするの?」
「え?何が?」
「何がって...まさか、ただ2人で買い出しに行くってだけじゃないでしょうね?」

ナミの言葉にギクッとする。
サンジと2人で出掛けられる事に浮かれすぎて何も考えていなかった。
私の表情から察したナミはまったく、とため息をついた。


「で、でもそんな、いきなり告白とかは...」
「告白に漕ぎ着けろとは言わないわ。でも何かしらアクションを起こしなさい!」
「あ、アクション...?」
「躓くフリして抱きつくとかはどう?」

いたっていつものトーンでにこやかに言うロビンに無理です...と返す。
サンジが記憶を失ったあの日、私が抱きついた瞬間の彼の顔が未だに忘れられなかった。


「また拒否されたら、私...」
「名無し、それはあんたが乗り越えないといけない壁なんじゃない?」

ナミの言葉が胸に突き刺さる。
その通りだ、待っていたってサンジとの距離は縮まらない。


「私がその壁を乗り越えて、それでもダメだっら、...慰めてくれる?」

考えとく、と言うナミとええ、と優しく言うロビンにありがとう、と返した。





その日は当然のように寝れなくて、おまけに心臓の鼓動は早いままでこのまま死んでしまうのでは無いだろうかと思った。

何度寝返りを打って目を閉じてみてもサンジの顔が浮かんできて返って目が冴えてしまう。

髪型とか変えた方がいいかな。
服装はどうしよう。
ただの買い出しに付き合うというだけなのにサンジがデートだなんて言うから。
余計に意識してしまう。

でもこのチャンスを逃してしまったら私はもう諦めるしかないかもしれない。
そしたらサンジは他の誰かと付き合って、結婚して...

自分で考えておいて落ち込んでしまう私は本当に馬鹿だな、再び目を閉じた。



( この関係の曖昧さはあまりにも )





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