13 「で、どうなったって?」 「...なにが?」 「とぼけるんじゃないわよ!本当にイライラするわね!サンジ君との事よ!」 お昼ご飯の後、甲板へ出るとナミに腕を掴まれそのまま詰め寄られた。 その顔は怒りに満ちているようだった。 怖い...という言葉を飲み込み、質問に答える。 「好きな人が居るって事だけ伝えたの。...だから、サンジには私に好きな人が居るって事だけ知られた。」 「はあ...そうゆうこと。驚くほど本当に不器用ね、あんた。」 「おっしゃる通りです...」 不器用なんて言葉で片付けられる事じゃないけれど、状況的には確実に悪い方へ転がっている。 「明日、ルフィとの約束は断ってサンジ君の買い出しに付き添ったら?」 「でも、せっかくルフィが声掛けてくれたのに。それに何て言って付き添えばいいの...!?」 「ルフィよりサンジ君でしょ!?何て言うかは自分で考えなさい。」 肩を掴まれギロりと睨まれながらそう言うとナミはじゃあね、と去っていった。 今度は殴られそうだな、と彼女の背中を見ながらまずはルフィになんて断ろうかと考えた。 回りくどいのは好きじゃないだろう、そのまま伝えようとさっきからガヤガヤとドッジボールをする輩の方へ歩き出した。 「ルフィ、」 「なんだ?お前も入りたいのか?」 「いや違います。...明日せっかく誘ってくれたのに申し訳無いんだけど、サンジの買い出しに付き添いしようかなって思って。」 「おう分かった!よろしくな!」 え、そんなあっさり...?と驚く私にそんな事より名無しも入れよ!と言うルフィに断りの返事をすると私は深呼吸して次の目的の人物の元へと向かった。 私のことを思って誘ってくれたのかは謎のままだが、ルフィのよろしくと言う言葉が私の背中を押してくれた気がした。 心臓がバクバクして上手く呼吸が出来ない。 ダイニングの入口に立ちドアノブを握ると、ゆっくりと扉を開けた。 そこには誰一人居らず、ドッジボールをしているクルーを除いた3人が居ない。 部屋に甘い匂いが充満している事からナミとロビンにサンジがデザートを持っていったのだろう。 はーー、と尚もバクバク言っている心臓に手をあてながら呼吸を整える。 ──ガチャ 「...っ」 「あれ、名無しちゃん。ここに居たのか。」 不意打ちで扉が開き振り向くとケーキとレモンティーを載せたお盆を持つサンジが顔を覗かせた。 「あ、」 「今探してた所だったんだ。これ、食べてくれねえかな?」 「う、うん。食べる。」 こうしてサンジが私の事を探してくれたのは記憶を無くしたあの日以来。 それが嬉しくてまた心臓の音が早くなる。 じゃあ座って、とテーブルにお盆に乗っていた物を静かに置いてくれるサンジにありがとう、とお礼をする。 どういたしまして、と返してくれるサンジの顔が見たいのに見れない。 そのまま夕飯の仕込みでもすると思っていた矢先、サンジは私の向かいの椅子に座った。 短くなった煙草を灰皿へ押し込むと新しい煙草を取り出し火を着けた。 先程も見たその一連の仕草がまたこんな近くで見れるなんて思わなくて胸が締め付けられる。 「...いただきます。」 「召し上がれ。」 なんだか午前中のデジャヴみたいだな、と2人きりの空間に緊張してケーキを上手く飲み込めない。 「...美味くねえか?」 「え!?美味しいよ!美味しいに決まってるじゃん!」 サンジから発せられた言葉に全力で否定すると良かった、とサンジは煙草の煙を吐き出した。 「サンジ、あのさ。」 「ん?」 「明日...」 買い出し行くでしょ?と言おうとした瞬間、サンジが言葉を発した。 「ルフィと出掛けるんだろ?」 「え、?」 「名無しちゃんの好きな奴ってよ、」 ルフィだろ?と言うサンジの言葉に持っていたフォークを皿の上に落としてしまった。 ( 伝えたい気持ちと伝わらない想い ) 前へ / 次へ [しおり/もどる] ×
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