LONG "Your memory, my memory." | ナノ



12



「名無しちゃんは、その...好きな野郎に何かアプローチでもしてんのか?」
「え、あ...あまり上手く出来なくて...」

サンジのいきなりの質問に驚きながら返事をする。それと同時にアプローチも何も、もう既に気持ちは伝えてあるのにそれが一瞬で忘れ去られてしまった事実がまた私に突きつけられる。


「...恋って難しいね。言いたい事も上手く言えなくて、その人のことで頭が一杯になって、苦しくなるの。」

全て貴方に向けた言葉。

ストローでコップの中を掻き回すとカラン、と氷の音だけが響く。



「サンジは...どうしたら良いと思う?」
「え?あ...そうだな。やっぱり気持ちを伝えるってのが1番なんじゃねえか?俺は...」

沈黙に耐えられなくなり何か言おうと出た言葉が自分の首を絞める。こんなこと聞きたい訳じゃないのに。
続きの言葉を待つが、サンジの口からはそれが出てくる気配が無かった。


「サンジ、?」
「あー悪い、...やっぱり俺が口出す事じゃねえよ、これは。」

羨ましいなあ!その野郎は!と立ち上がるとサンジはそろそろ飯にするか、と言いながらキッチンへと向かった。

俺だったら...何?
なんて言おうとしたの?


結局私に好きな人が居るっていう事だけをサンジが認識したというだけの結果になった。

名無しちゃん、あいつら呼んできてくれるか?というサンジの声にモヤモヤとしたものが私の胸から少しずつ溢れる。
分かった、と今にも泣き出してしまうそうな顔を見せないようにダイニングを後にした。




「みんなー、ご飯だよー。」
「「「飯だー!!!」」」
「ダメだ...もう、疲れた...」

甲板へ出ると何故かヘトヘトになったウソップとルフィの一騎打ちになっており、どんな流れでそうなったのか相変わらず面白いなあと笑えてくる。


「名無し、どうなったのよ。」
「ありがとうねナミ...進展はしてない。むしろ悪い方に転がったかも。」
「は!?どうしてよ!?」

私に駆け寄り問いかけるナミにどうしてだろ、と誤魔化しながら返事をすると同時に自分の弱さにもイライラしてくる。

私が好きなのは貴方だよ。
その一言がどうしても言えない。





「明日次の島に着くわよ。」
「おー!どんな島だ!?」
「けっこう栄えてる島みたい。買い物出来そうね。」

ご飯を食べ終えた頃、ナミが口を開いた。
いえーい!と騒ぐルフィやチョッパーを見ながら楽しそうだなぁ、とぼーっと見つめる。

この間までの私ならサンジとデート出来る!と喜んでいただろうに。
今はサンジからも誘われず、私からも誘えそうに無い。


「(誘ってみる...?あんな話しておいて?...無理。)」


顔はルフィ達の方に向けながら、目線だけをカウンターの椅子に軽く腰掛けているサンジへとゆっくり移す。
煙草に火を着けている最中で顔を少し下げている為、髪の毛で目が隠れていて表情がよく分からない。

目が合うと気まずいと思い再びルフィへと視線を戻す。


「久しぶりに島の飯食うぞーー!!!肉ーー!!!」

本当肉好きだなぁ、とルフィを見つめていると見事に目が合ってしまった。


「お!名無しも肉食いてえのか!?」
「はっ!?ち、違うよ...」
「よし!一緒に行くか!!お前も肉好きだもんな!」

そんな事言ったこと無いよ...と思うと同時に、もしかして元気付けてくれてる...?と自意識過剰な事を思ってしまった。

ルフィにまで気を使わせてどうする...と改めて船の雰囲気を暗くしてしまっている事に気付かされた。


「...じゃあ行こうかな。」
「おう!行こう!」

ありがとう、と心の中でルフィにお礼を言うと、ルフィが食べ過ぎないように監視してよ!とナミに言われた。



(行き場を失ってしまった想い)





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