9 ダイニングを出ると私の足はは自然とアクアリウムバーへ向かっていた。これはもう癖になってしまっているのだろうか。 貴方が来ることは無いのに。 「はぁ、」 ソファに腰掛けると出てくるため息。 私がサンジを好きになったのって何がきっかけだっけ? サンジが私を好きだった理由って何だっけ? 頭の中がサンジでいっぱいになる。 いっそ私も、記憶を失いたい。 こんな苦しいの、いつまで続くのか。 名無しちゃんの指って綺麗だな。 名無しちゃんの声聞くと安心する。 名無しちゃんの髪いい匂いするな。 全部覚えてるよ貴方が言ってくれた事全部。 忘れたくても、忘れられない。 2人きりになるといつもより声が低くなる事も、私から触れない限り触って来ない事も、長い腕で私を包んでくれる事も、触れた唇は煙草の味がするって事も、全部全部。 「全部好き...」 今日はもう寝よう、と大浴場へ行きシャワーを浴び女部屋へ戻ると真っ暗なのをそのままにベットに倒れ込んだ。 「眠い...」 サンジは今何をしてるのかな。 朝食の仕込みかな、ナミやロビンとお話してるのかな。 私の事なんて頭の中に少しも浮かばないんだろうな。 目が覚めるとナミとロビンの寝息が微かに聞こえてきた。忍び足で扉へ向かい、音を立てないように開け外に出た。 甲板に出ると朝日が地平線から顔を出していた。 「気持ちいい...」 吹いている風が心地良い。 深呼吸するといい匂いが鼻を掠め、彼が朝ご飯を作っている事を知らせる。 「おはよう...」 聞こえるはずのない声量でキッチンに立っているであろう彼への挨拶を口にする。 「早起きなんて珍しいな。」 声のする方を振り向くと短い緑の髪を靡かせるゾロが立っていた。 「あ、不寝番ゾロか...」 「コックじゃなくて悪いな。」 嫌味を言われムス、としたが昨日の事をまだ謝ったていない事を思い出す。 「昨日はごめんね。」 「...ドッジボールの事なら許さねえぞ。」 「違うわっ!...泣いてた事。」 「謝る必要あんのか?それ。」 だって、と口篭る私にゾロは謝られるような事されてねえ、と言ってくれた。 「ありがとう。」 「礼言われるような事もしてねえ。」 「はは。今日のドッジボール楽しみだね。」 どこがだよ、と突っ込まれ更に笑いが込み上げる。 「今日は泣かずに済みそうか。」 「分かんない...」 「...あいつの事考えなきゃ済む話じゃねえのか?」 それが出来たらこんなに悩んでないんだよ、とジト目で見返すと何で睨むんだよ、とゾロは私の頭を小突きそのまま船の中へ戻って行った。 何かお兄ちゃんみたいな存在で安心する。 ぶっきらぼうな癖に優しいんだから。 考えなきゃ済む、その通りだよ。 でもこれは私の意志に反してくるんだよ。 ( 今は貴方の事を考えるだけで精一杯 ) 前へ / 次へ [しおり/もどる] ×
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