Uncontrollable feeling いつの間に寝てたのか、お昼ご飯を食べた後私はそのままダイニングのソファに寝てしまったらしい。 まだ重たい瞼を開けようと思った瞬間1つの足音が耳に入る。キッチンの方から聞こえるそれはこの船のコックに違いない。 そして自分に毛布が掛けられている事に気が付く。恐らくこれは彼が掛けてくれた物だろう。 この部屋にサンジと2人きりという状況に少し緊張する。どのタイミングで目を開けようか。でも、もう少しこの空気を感じていたい。 するとキッチンから聞こえる足音がこちらへ近づいてくるのが分かった。 「(起きてるのバレた...?)」 狸寝入りをしたまま目を閉じていると彼の足音は自分の寝ているソファのすぐ側で止まり、掛けてある毛布を肩まで掛け直してくれた。 わざわざ掛け直しに来てくれるなんて、となんだかその優しさにくすぐったくなる。 ニヤけそうになる口を噛み締めていると額に何かを感じる。 ちゅ、と音と共に去っていった柔らかいものが何か、すぐに理解できた。が、何故サンジがそんな事を私にしたのかは全く理解できなかった。 「(え、えー......?)」 訳が分からなすぎて益々起きるに起きれない状況になってしまった。 サンジは私の元から離れ再びキッチンへと戻るとダイニングの扉へ向かい部屋を後にした。 ぱちっ、と勢いよく瞼を開けると夢だったのかもしれない額に感じた物の部分に手をあてる。夢にしてはリアルすぎる感触に胸が高鳴る。 扉の向こう側では彼がナミとロビンにデザートを持ってきた事を知らせる声が聞こえる。私にあんな事をしておきながら...と思うと同時にやはり夢だったのかなと混乱する。 「本当に意味分からん...」 そう呟くと、ダイニングの扉がバーン!と開かれた。その音と共に聞こえたのは船長の声だった。 「おいサンジー!!どこにあるんだー!?」 「...おい、うるせえぞ。今出すから静かにしろ。」 ルフィの後にチョッパーの足音が入ってくるのが聞こえる。今更になって気づいた。ああ、おやつの時間か、と。 わざとらしくならないように、んん...と目を擦りながら瞼を開ける。起き上がり伸びをするとチョッパーが駆け寄ってきた。 「名無しここで寝てたのか!おやつだぞ!」 「...チョッパー、おはよ...」 私にそう言うチョッパーに今起きました、とでもいうように返した。 「名無しちゃんがお目覚めだ。おめえら、それ持って他所で食え。」 「じゃあこれ貰ってく!チョッパー、行くぞ!」 サンジがルフィに促すとチョッパーと共に大量に皿に盛られたプリンを持ってダイニングを後にした。 「おはよう、プリセンス。お目覚めのコーヒーでもいかがですか?」 「...おはよう、サンジ。これ、サンジが掛けてくれたの?」 「名無しちゃんが風邪でも引いちまったら大変だからな。」 この何も無かったような感じからしてもしかして本当に本当に夢だったのかもしれない。 「...ありがとう。コーヒー、貰おうかな。」 「かしこましました。」 仮に夢だとしても彼の事を意識せずには居られなかった。ついサンジの唇に目がいってしまう。 テーブルに座りキッチンに立つ彼は私の視線に気づき目が合ってしまった。 思わず目線を逸らし、わざとあくびをする。 「...寝すぎたかな…」 「寝顔も可愛いかったよ。はい、どうぞ。」 テーブルにコーヒーと先程ルフィの手にあったプリンが1つ、可愛らしくデコレーションしてあった。 「...ありがとう。」 美味しいデザートを頂きながら、寝顔というワードに少し動揺した。毛布をかけてくれたのだから、見られて当然なのだが。 何故かあの瞬間の事が頭をよぎる。私はモヤモヤして仕方なかった。 夢で見た相手を意識してしまう事は今までも経験した事があるが今回は少し違う。 私がサンジを密かに想っている点だ。 好きな人が夢に出てくるなんて、とても幸せな事なのだが今回は色々と問題がある。 「...ちゃん。名無しちゃん。」 「え?なに?」 「大丈夫か?具合悪い?」 サンジに呼ばれている事に気づかないくらい考え込んでいたのか、と考えていた人物が目の前に居ることにドキッとした。 「あ...全然大丈夫!寝起きだからかな、少しぼーっとしちゃった。ちょっと風に当たってくるね。」 ごちそうさまでした、と彼にお礼を言うと扉へ一直線に向かいダイニングを後にした。 甲板で船の縁に寄りかかりながら沈んでいく夕陽を眺める。こんな風に黄昏れるなんて恋愛物語の主人公か、と自分に突っ込みつつ、やはり先程の事で頭が一杯になってしまう。 「うーーー。」 この感情を抑える術は無いのだろうか。元々、恋人同士になりたいとか、そうゆう願望は無かった。彼は恐らく特定の女性とは付き合わないだろうし、自分が傷つくのは分かり切っていたから。 だがあの夢と現実の狭間で起こったことにより、この短時間で彼への気持ちは膨らんでいく一方だった。こんなことでは他のクルーに迷惑を掛けてしまう。 とにかくなるべく早く忘れられるようにしよう。きっと時間が解決してくれる、と自分に言い聞かせていると飯だぞー、という彼の声が聞こえる。その声すら愛おしくなってしまっていた。 ダイニングへ行くとナミにあんたさっきまでどこに居たの?と聞かれここで寝てた、と返す。 本当のプリンセスみたいな寝顔だったぜ〜!と言うサンジの声が聞こえたが反応しなかった。いや、できなかった。 固まる私に周りはシン、とした空気になったがそれをぶち破るようにルフィが食っていいか?いただきまーす!と声をあげた。その後に他のクルーもいただきまーす、と一斉にご飯を食べ始める。今回ばかりはルフィに助けられた、と思い心の中で感謝した。 サンジの料理はいつもと変わらずとても美味しいのだが、これを彼が作ったものだと意識してしまい食事中はずっと心臓がドクドク音を立ててうるさかった。 彼が斜め向かいに座っていると思う度に、彼の声が聞こえる度に、彼が何かをする度に、心臓が高鳴って上手く食事を飲み込めない。 誰かに心臓を握られているような感覚に陥る。 それと同時に私は彼のことをもう後戻り出来ない程好きになっている事に気付かされる。 「ごちそうさまー!いやー今日も美味かったー!!」 「ルフィ!お前俺の分も食ったろ!」 ルフィとウソップの声にはっ、として残りの食事をゆっくり胃へ流し込んだ。 「名無し、大丈夫?」 「え?あ、うん、大丈夫だよ。」 「あんたさっきから元気無いわね。どうしたの?」 ロビンとナミに心配をかけてしまった、と罪悪感に襲われると早くここを去りたい気持ちで一杯になった。 「なんだろう、疲れてるのかな。さっき沢山寝たんだけどな。今日は早めに寝ようかな。」 何かあったら言えよ、とチョッパーに声をかけられ、ありがとう、と返すと空いた食器を重ねて運ぼうと立ち上がる。 「体調が優れないレディにそんな事させられねえ。名無しちゃん、今日は俺が運ぶからそのままにしといてくれ。」 いつもの様にシンクへ運ぼうとするとサンジに制止される。その声にまたドクン、と心が鳴る。平静を保ち、本当?ありがとうサンジ、と言い皆におやすみなさい、と言うとおやすみーゆっくり休めよーというクルーの言葉を耳にするとダイニングを後にした。 女部屋のベッドに倒れ込むように横になり、明日からサンジとどう接するか考える。 いつもだったらキッチンに立つ姿や強く戦う姿を見ればキュンと出来る、話が出来ればラッキー、それで十分だったはずなのに。 この気持ちが明日には消えるかもしれない、と眠りにつくのが毎日の決まりだったのに。 自然と溢れてくる涙を拭きながら私はまたいつの間にか眠りに落ちてしまった。 目を覚ますと部屋には寝息が響き、それがナミとロビンのものだとすぐに分かった。 どれくらい寝てたのだろうか。とりあえず歯磨きとお風呂に入ろうと静かに部屋を出た。 歯を磨き早めにお風呂を済ませ、外に出ると空には満月が明るく海を照らしていた。 辺りの黒さと月の金色のコントラストが自然と彼の姿を思い浮かび上がらせる。 「頭から、消えないなぁ...」 私の体は完全に彼に支配されてしまった。 好きで、仕方なくなった。それも全部あの夢のせいだ。 はぁ、とため息をつくとコツコツ、という革靴の音が聞こえてきた。振り返ったその先には、想っている彼の姿があった。 「体調悪いのに、風邪ひいちまうよ。」 「...サンジ、どうしたの。」 「今日の不寝番は俺だ。あと、それはこっちの台詞。」 今まで見られてたのか、と恥ずかしくなった。そっか今日はサンジが不寝番なんだ。 「お風呂で火照ったから涼もうかと思って。」 「湯冷めするだろ。」 お茶でも淹れるから、とダイニングへ促すサンジの歩く背中を見つめながら小さく声をかけた。 「もう少しここに居たいから。私の事気にしないで、サンジ。」 本当はわざわざ私の姿を目にして来てくれた事がとても嬉しいのに、いつもだったらダイニングでお喋りしたいと思うのに今は彼と接する事が怖い。 自分の気持ちに気づかれそうで。 ダイニングへ足を向かわせていたサンジは両ポケットに手を入れながら振り返った。 「じゃあ俺も付き合う。」 「え、いいよ…ごめん、ちょっと1人になりたいの。」 「...名無しちゃん、」 名前を呼ばれサンジの言葉の続きを待ちながら彼の顔を見つめる。やめて、何も言わないで。 「今にも泣きだしそうな顔してる。」 その言葉に目を見開く。まさかそんな顔をしていたなんて。見られたくなくて顔を伏せる。少し離れた距離を埋める為にサンジが近づいてくる。 「そんな顔した名無しちゃんを、1人に出来ると思うか?」 「...好き」 「え...?」 もう、終わった。でも抑えることができなかった。私の中の感情が溢れて口から出てしまった。 「好きなの、」 「あ、え、.........俺の事?」 流れてくる涙を手で拭いながらこくり、と頷く。 明らかに戸惑っているサンジに益々涙が止まらなくなる。 「ごめん、迷惑なのは分かってるから...だから今は1人にして...」 お願いだから、と口にした途端、彼の温もりと煙草の匂いに包まれる。背の高いサンジは、私の頭を包み込むように抱きしめていた。 「...っ、サンジ、」 「...なわけねえだろ。」 「え?」 「迷惑なわけ、ねえだろ。」 ああ、こんな時でも彼はこんなにも優しい。 でもそれが私の気持ちの歯止めを効かなくさせる。 「ありがとう...優しいね、サンジは。でも大丈夫だよ。明日からはちゃんと自分の気持ち抑える、から、」 そんな事出来る保証は無いのに口から出てしまう。彼に煙たがられたくなくて。 未だに私を抱きしめるサンジに心臓がドクドクと早くなる。そろそろ離してもらわないと、やばい。 そう思った瞬間私の肩に顔を埋めていたサンジが顔を上げる。 「名無しちゃん、...」 「...ん?」 「俺も君が好きだ...」 なんでそんなこと言うの?これも夢なの? え?と彼の顔を覗き込むと顔を真っ赤にし、今まで見た事のない表情をしていた。 「えと、あの、え?」 「カッコ悪りいな...俺。」 「そ、そんな事ないよ、あの...一旦離してもらってもいい?」 このままでは冷静に考えられない。サンジの言葉に嘘偽りは無いことは分かっているが、どうしても疑ってしまう自分が居る。 「嫌だ、離さねえ。」 「え、え、」 予想外の返事に頭が混乱する。抱きしめる力が少し強くなった気がした。 「名無しちゃん、俺の事好きって本当か...?」 「え、...うん...」 その言葉を聞くとサンジはゆっくりと私から離れた。彼を見上げると、まだ少し顔が赤いサンジが私を見下ろしていた。 「...いつから?」 「え?いつから?いつからだろう、分かんない、気がついたら…」 「......」 「あと、ね。夢を見たから...今日は余計に、」 「夢?」 聞き返す彼に夢の内容を言っても良いのだろうか、と考える。というより、恥ずかしくて言えないと思った。 「...どんな夢?」 「え、言わなきゃだめ?」 「聞きてえ。」 まじか...と心の中で零しもう告白してしまったのだから言ってしまえと夢の内容を口にした。 「夢、なのかな。多分夢なんだと思うんだけど、おでこに、キスされたの...サンジに。」 「......え、」 「ご、ごめんね。変な夢見て...」 そう言って彼の顔を再び見ると、また顔が真っ赤になっていた。 「名無しちゃん、そりゃ夢じゃねえ。」 「.........は?」 「しちまったんだ、俺が。」 「...............え!?」 驚きすぎて大きな声を出してしまい慌てて口を手で覆う。え、え、夢じゃない? 今この状況が夢なのかも、と訳が分からなくなってきた。 「すまねえ、名無しちゃん。...抑えられなかった。」 抑えられなかった、さっきの私と同じ。 「...サンジ、私、サンジが好きすぎておかしくなってる。」 「え、」 「サンジの彼女になりたい。」 私も本当の気持ちを抑えられなかった。 これだけは、言ってはダメだと決めていた言葉だったけど。 「...本当に俺でいいのか?」 「サンジがいい。サンジのことしか、考えられない。」 「名無しちゃん、キスしていいか?もう寝込み襲ったりしねえから、」 「ふふ、何それ...うん、して欲しい。」 今度は夢か現実か分からなくならないように。顔が近づくギリギリまで目をうっすらと開け、これが夢じゃない事を確認し目を閉じると、サンジの唇が今度は私の唇に重なった。 前へ / 次へ [しおり/もどる] ×
|