My fragrant smell この間からある事が頭から離れない。 その事について考え、何かいい案は...と腕を組みながらアクアリウムバーをグルグルと歩く。そうだ、と私はウソップの元へと急いだ。 「ウソップー!」 「あ?何だー?」 ウソップ工場へ行くと何やら作業をしていたウソップが私の大きな声に何事か、といった表情で手を止めてこちらへ視線を送る。 「香水って作れる?」 「香水?まあ作れるが...何だ、いきなり色気づいて。」 違う違う、と手を振ると何言ってるんだとでも言いたそうな顔で見つめてくる。 「別に私が付けたいんじゃなくて、嗅ぎたいの。」 「...はーーー?」 「いいじゃん、そこは。作って!お願いします!」 まあ良いけどよ、と言うと彼は私の方へ歩いてきて質問してきた。 「何の匂いがいいんだよ。花とかだと今手元に無えから島に着くまでは無理だぞ。」 ロビンの花壇に手出したら間違いなく殺されるしな、と続ける彼に私は大丈夫!と返した。 先日久しぶりの宴で盛り上がりナミとゾロは酒を飲み比べし、ブルックは音楽を奏でてそれに合わせるようにルフィ、ウソップ、チョッパー、フランキーは踊り出す始末。 ほろ酔いのロビンは楽しそうに手拍子をしていた。 一方私は全くお酒が飲めないのでその光景眺めながらサンジが作った美味しい料理を1人黙々と食べていた。 「...そんなに無心になるほど美味いか?」 「わっ、びっくりした。美味しいよ、すごく。」 いきなりサンジに声をかけられびっくりして振り返ると、サンジはいつものように煙草を加えながら立っていた。 それは良かった、と私の隣に座るとふー、と煙を吐いた。 「...煙草って美味しい?」 「ん?あー、まあな。」 「吸わせて?」 興味本位からいつも煙草を咥えてるサンジを見て、そんなに美味しいものなら一度吸ってみたいと思った。 「ダメだ。」 「何で。」 「何でも。」 むー、と膨れる私を見てそんな顔してもダメだ、と笑いながら言った。 ふと、その煙草の匂いが何故か安心すると感じた。いつでもその香りを嗅いでいたいと。 何か中毒性のあるその匂いを嗅ぎたいが為にその翌日から私はサンジが煙草を吸っている傍を何度も往復したりしたが、このままでは周りからおかしな目で見られると思い諦めた。 「ということで、サンジの煙草の匂いの香水。お願いします!」 「...そりゃお前、煙草だったら布か何かに匂い染み込ませれば良いんじゃねえのか?」 「...その手があったか!」 いや遅せえよ!と突っ込んでくる腕を掴み、行くよウソップ!と走り出す私に、え?なんで俺まで?とうるさいウソップを連れてダイニングへと向かった。 ダイニングの中を窓の外から覗くと、サンジが夕飯の準備がひと段落してちょうど一服している所だった。幸い他のクルーは居ない。 「よし、今がチャンス。ウソップ、頼んだよ!」 「なーんで俺なんだよ!!」 「私にはくれないんだもん。」 なんでこんな奴の為に俺が...とダイニングの中に入っていくウソップは優しいなぁと思いながら窓から様子を伺った。 ウソップがサンジに話しかけるとサンジは険しい顔になり何かを言うと、ウソップは顔を真っ青にして一目散に戻ってきた。 「名無し...諦めろ。」 「なんでよ!貰えなかったの?」 「今すぐ俺の視界から消え失せろクソ長っ鼻って言われた...あの人コワイ。」 ウソップに情けない、と言うとだから最初からお前が行けって言ってんだろ!と怒鳴られた。 何かいい作戦は無いか...と考えていると、ウソップの後ろにあったダイニングの扉が開いた。その扉の開く音にウソップの顔はみるみる青くなり汗がダラダラ出てくる。 「名無し...健闘を祈るぞおおおお!」 光の速さで走っていったウソップをこの裏切り者…!!と目で追うと中から出てきた男に声をかけられた。 「名無しちゃん、コソコソ何してるのかな?」 サンジの顔は笑っているはずなのにとても怖かった。私もウソップと逃げれば良かったと後悔した。 「ほら、ジュースいれてやるから。」 「はい...」 彼は固まっている私に中に入るよう促した。 ダイニングに入るとカウンターに座らされ、向かい側のキッチンに立ったサンジが特製のミックスジュースをコップに注ぎどうぞ、と出してくれた。いただきます、とジュースを飲んでいるとサンジがじっ、と私の顔を見つめてきた。 「......なんでしょうか。」 「さっきの質問。あの長鼻嘘つき野郎と何してたのかな?」 「......ウソップが煙草吸いたいっていうから、サンジから貰えばって言ったんだよ。」 サンジと目を合わさないようにサラッと嘘をつくと、はぁ、とため息をついてサンジはカウンターの方に歩いてきた。 「名無しちゃん、嘘はダメだ。」 ぎくり、と私が肩を動かしたのをサンジは見逃さなかった。 「本当は?」 「......笑わない?」 「笑わねえよ。」 サンジが長い足を上げカウンターの椅子に跨ると、私はそれ、と言いながら彼の口元を指さした。これ?と煙草を手に取ると私は頷いた。 「...名無しちゃん、これ欲しいのか?」 「そう。」 「...俺と間接キスしてえのか?」 まさかの答えに私はポカン、とした。間抜けな顔になってるに違いない。...じゃなくて。 「っ、違う!何言ってんの!?」 「そんなに否定しなくても良いのによ。」 俺は大歓迎だぜ?と悪戯に笑う彼に私は顔が熱くなるのが分かった。 「そうじゃなくて、煙草!」 「煙草がどうした?」 「煙草が欲しいの!」 なんでまた、と言うと彼は短くなった煙草を携帯灰皿に押し込んだ。その仕草を見ながら、匂い...と呟いた。サンジは何だって?と私の顔を覗き込みながら聞き返す。 「匂いが嗅ぎたいの...その煙草の。何か、安心するの...変でしょ?」 「あー、いや、予想外っつーか。...そんなに煙草の匂いが良いのか?」 「...うん。お願い!1本だけ!」 懇願する私にサンジは新しい煙草を取り出し火をつけてはい、と渡してくれた。 あっさりくれた煙草を受け取り、ありがとう!とお礼すると火傷に気をつけてな、と言った。火のついた先端から出てくる煙に鼻を近づけて匂いを嗅ぐ。 「......何か違う。似てるけど、違う。」 「どう違うんだ?」 サンジは私の手から煙草を奪うとそのまま口へ持っていった。ん?と思いつつサンジに近づきもう一度匂いを嗅ぐと、私の求めていたそれと一致した。 「...この匂いだ。」 私の犬のようにすんすんと匂いを嗅ぐ私を見下ろすサンジに気がつき私がやべ、と思った瞬間彼は言った。 「名無しちゃん、そりゃ俺の匂いだ。」 「......は?」 いやいや、違うって。煙草の匂いだって。この匂いは煙草だって。心の中で葛藤していると、サンジはご丁寧に手を広げ、嗅いでみ?と言ってくださった。 恐る恐るもう一度サンジに近づき匂いを嗅ぐとやっぱりそれは私がいつまでも嗅いでいたい匂いだった。思わずなんで...と口にしてしまうとサンジは手を広げたままニヤニヤしていた。 「...っ変態!」 「俺が?変態なのは名無しちゃんだろ?」 サンジから離れる為立ち上がろうとした時、腰に手をまわされそのまま抱きしめられる。離して、と暴れる私の後頭部を優しく少し強引にサンジは自分の胸へ押し付けた。 安心するその匂いに力が抜けてそのまま彼にもたれかかった。 ゆっくり顔だけ上に向けると、可愛いな、と呟くサンジの顔が降ってきてお互いの唇が重なる。 少し驚いて目を見開いたがサンジの唇のはやっぱり煙草の苦い味がするんだ、と思いながらゆっくり瞳を閉じた。 お互いの唇が離れるとサンジは、名無しちゃんは甘えな、と私の頭を撫でながら笑った。 前へ / 次へ [しおり/もどる] ×
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