SHORT | ナノ



May I fall in love?



※名前変更にて友達の名前を設定してからお読みください。



男しか居ない兄弟の中、1人女として生まれた。洋服は兄達のお下がりから、男っぽい服装と髪型になっていた。そのせいで女として見られることは限りなく少なかった。
そして17歳になった今もそれは変わらない。平均より高い身長も加わり高校ではバレンタインに貰うチョコレートの数は男に負けない程。

好きな人が出来ても、諦めるしかなかった。



「え...まじで?ごめん、お前のことそうゆう相手としては見れない。」

中学の時、仲良くなって気づいたら好きになった人に周りの勧めから告白したら返ってきた返事。

もう恋はしないって決めた瞬間だった。




「名無しー!今日カラオケ行こうって話してたんだけど、行くでしょ?」
「ごめん、今日バイトなんだわ。また誘って。」
「そっかあ、分かった!じゃあまた明日ねー!」
「うん、また明日ー。」

カラオケは楽しいけど、私は意識的に女の歌手の歌は歌わない。恋愛の歌なんて歌ったら場が盛り下がるから。男の歌手を歌えば皆が喜ぶのを知っている。

それでも何処かで可愛い洋服だって着たいと思っている自分が居る。でもスカートなんて制服でしか着たことないし、名無しはスタイル良いんだからスキニーめっちゃ似合うよね!なんて言われるが私には喜ぶ要素にならない。
普通に女の子として、お洒落して、恋愛したい。




「おはようございまーす。」
「お、名無し。おはよう。」
「店長、おはようございます。」
「ちょうどいいや、紹介するわ。おーい、ちょっとこっち来てくれるかー?」

この流れは新人さんかな、と思った瞬間現れたのは、私よりも10cm以上は高い身長と、そして長い足にサラサラの金髪をした男の人。

金髪なのは気にしないでね、と私の心境を読み取ったように言う店長。そして片目しか出てない瞳で私をじっ、と見つめるその人にしばらく目が離せなかった。


「新しく入ったサンジ君。今日は4日目だから何となくは覚えたと思うけど、分からない事あったら教えてあげてね。」
「よろしくお願いします。」

私のバイトしているこの店は少し品があって制服も黒を基調としたもので蝶ネクタイを着用。女の人はタイトスカートだか、私は店長に無理を言って男性スタッフと同じズボンを着させてもらっている。

サンジさんの日本人離れしたその体型に制服が驚くほどフィットしていて女性スタッフや女性客が見惚れてしまいそうだな、と思った。


「わかりました。名無しです、よろしくお願いします。」



挨拶終えると着替えてきます、と言ってその場を後にした。女性更衣室に入ると同い年のバイトのお友達が着替えていた。


「おはよう。」
「あっ、名無し。おはよー。」
「新人さん、入ったんだね。」
「ああサンジさんね。あのスタイルすごいよね。」

金髪の髪もすごいけど、と言うお友達は同い年で可愛いルックスをしているのにクールな子で、そんなに興味無さそうだった。


「女の子は口説かれてるっていうか、少し女ったらしらしいよ。私あんまり喋ってないから知らんけど。」
「...へー。」

じゃあ先に行ってるね、と言うとお友達は更衣室を出ていった。
女たらし...じゃあ私は心配無いな。絶対に間違っても口説かれる事なんて有り得ない。男性スタッフと同じ格好に着替えた私は全身鏡を見て、そう確信した。


「...ふー。行こ。」

更衣室出て店内への道を歩くとちょうど先程店長から紹介され今さっき話題になっていたその人とばったり鉢合わせしてしまった。


「あ、」
「休憩頂きます。」
「はい...行ってらっしゃい。」

結構礼儀正しいな、とお友達の言っていたことは本当なのかな、と少し疑問に思った。
まあ、私が女の子らしかったら口説かれてたのかもしれないけど。




「いらっしゃいませ。」

今日は結構客入りが良く、そして回転が早い為いつもより慌ただしかった。
大きいプレートは女の子が運ぶのには結構大変で、私は片手でも余裕な為進んで片付けと配膳に回った。


「今日めっちゃ混むね。近所で何かイベントでもあんのかな。」
「そうかもね。もう花見シーズンだし。」

お友達と話していると戻りました、とサンジさんが休憩から帰ってきた。
おかえりなさい、と返すと厨房から出てきた2つのプレートに乗った料理を両手で持とうとした時持ちます、とサンジさんが1つ持ってくれた。
大丈夫です、と返そうとした時にはもう席に向かっていた。男性にそんな事されたのは初めてで少し調子が狂う。

私も持っていたプレートをお客様の元へ運び、また戻るとお友達がサンジさんに話しかけられていた。


「お友達ちゃんって可愛いなあ。」
「ありがとうございます。でもそんな事ないですよ。」

いや可愛いよ、と続ける彼を見て初めてお友達の言っていた事が真実だと分かった。
確かに彼女は可愛いくて客からナンパされている姿も目にする。

私はそれを横目に食事を終えたお客様がレジへ向かうと同時に会計作業へと移った。


「ありがとうございました、またお越しくださいませ。」
「ご馳走様。」

会計を終えたお客様を見送ると何故か2人の元へ戻りたくなくて淡々と仕事をする。やはり私は眼中に無いんだな、とそれでも慣れた事だと気にはしない。



「お兄さんモデルさんですか?カッコイイですねぇ!」
「いやあ、とんでもない。そう言うお客様はお綺麗だなぁ。」
「またまたー!」

耳に入ってきたのは女性のお客様と話すサンジさん。女の人だったら見境ないのか。軽い言葉を口にする彼を少し軽蔑の目で見てしまう。

忙しかったせいか今日はいつもより早く感じるな、と思いながら最後のお客様が帰った後席の片付けをしているとサンジさんがやって来て2つあるプレートを軽々と2つとも持っていってしまった。

さすが男の人だなと思いながらありがとうございます、と言うとどういたしまして、と笑顔で返してくれた。テーブルを拭きながらやっぱり調子狂うな、と思わざるを得なかった。



店の閉店作業を済ませると上がる時間になり、お友達と一緒に更衣室へと向かう。


「口説かれてたじゃん。」
「え?あー、サンジさん?でも何か義務的な所あるよね。女性は褒めとかないと、みたいな。」
「......」

一応女性の私は褒められてないんですが、と心の中で呟く。
いつもは2人で賄いを作ってもらい夜ご飯を食べるのだが今日は見たいドラマがあるから、とお友達は帰ってしまった。

私も帰ろうかな、ととりあえず休憩室のテーブルに座って休んでいるといつも賄いを作ってくれるひとつ年上の男性先輩スタッフが話しかけてきた。


「あれ?お友達ちゃん帰っちゃったの?名無しお前飯食って帰るだろ?」
「え、あー、はい。」
「よし、待ってろ。」

じゃあせっかくだし食べて帰ろう。何か今日は疲れた。ふー、とスマホを弄っているとお疲れ様、とエプロンを脱いだサンジさんがやってきた。
やはりスタイルが抜群に良いな、と思いながらお疲れ様です、と返すとそのまま私の向かいに座った。


「名無しちゃん。」
「え、あ、はい?」
「名無しちゃんって呼んでも良いかな?」
「......ああ、はい。」

男の人にちゃん付けで呼ばれるの初めてじゃないか?と思っていると、名無しちゃん、とまた名前を呼ばれた。


「はい。」
「名無しちゃんって可愛いな。」
「......は?」

つい意味が分からなくて変な声が出てしまった。可愛い?この人の目には誰が写っているのか、本気で眼科行った方が良いんじゃないか、と頭の中が混乱した。


「可愛いって...え?」
「言われないか?」
「......全く。」

ああ、お友達が言っていた義務的というのはこの事か。なるほどな、と思いつつ真に受けないようにどうも、と素っ気なく返した。


「お待たせー、あれ?サンジさんも賄い食っていきます?」
「いや、帰る。それじゃ、またね名無しちゃん。」
「......お疲れ様でした。」

サンジさんが休憩室を出ていくと、先輩はパスタの乗った皿を2つ手にしていた。


「今日俺も一緒にいいか?」
「あ、はい。すみません、いつもありがとうございます。」
「おう...お前さ、あの人に口説かれたのか?」

は?この人まで何言ってんだ、と思いそんな訳ないじゃないですか、と笑って返すと、先輩は予想外の事を口にした。


「お前、......顔赤いぞ。」
「...はっ!?」
「お前もそんな顔すんだなー。初めて見たわ。」

ケラケラ笑う先輩にそんな訳ないじゃん!と思いながら誤魔化したくてパスタを食べた。よく考えてみたら、心無しか鼓動が早い気がする。
この場から逃げたくて早めに食べ終えると、ご馳走様でした、と先輩に告げると厨房へ向かい皿を洗った。


「...はぁ、」

今日はダメだ。あの人のせいでおかしい。
あれはただの社交辞令なんだから。

休憩室に戻り、未だにご飯を食べながらスマホを弄る先輩にお疲れ様でしたお先に失礼します、と言うとおうお疲れ、の言葉を聞き従業員出入口へ向かった。




外への扉を開けると私は動きを停止した。
そこには煙草を吹かす金髪の彼が立っていた。


「お、」
「...あ、お疲れ様です。」
「お疲れ様、名無しちゃん。」

では、と帰ろうと足を踏み出した途端1つ聞いてもいいかな?と話しかけられた。


「...何でしょうか。」
「どうして女性用の制服着ないんだ?」
「...なんとなくです。店長にも許可取ってますよ。」

あーそうゆう事じゃなくてさ、と続ける彼に少し苛立ちを感じた。じゃあ何ですか、と見返すと彼は何故か笑顔で言った。


「あっちの方が似合うと思うと思ってよ。」
「......はぁ。あの、私にそうゆう社交辞令は通用しないですよ。あんなスカート、私に似合う訳ないじゃないですか。」

何でこんなこと、口に出して言わなきゃならないの。思わず下唇を噛み締めてしまう。


「君は自分の魅力に気づいて無えんだな。勿体ねえ。」
「...自分の事は十分分かってますよ。」
「いや、分かってねえ。」

何が分かるんだ、今日会ったばかりのこの人に。もう埒が明かないと思い失礼します、と今度こそ帰ろうとした時。


「俺は女性に嘘つかねえ。君は魅力的な女性だ。」
「そんな事言われたって、信じられないですよ。」

私の事を女として見てくれる男なんてこの世に居る訳ない。ありがとうございます、なんてお友達みたいに素直に言えない。


「そうだな、例えば...」

この髪、と私の目の前に立ち私の髪に触れると伸ばしたら綺麗だろうな、と口にする彼。


「あとこの綺麗な顔。化粧でもし出したら最高に美人になりそうだな。スタイルも良いし、あのタイトスカートを履いたら野郎共は君に釘付けになる。」

やめて、そんなこと。簡単に言わないでよ。
本当にもうやめてください、と耳を塞ぐ私の手を大きな手が掴む。
顔を上げサンジさんを見つめると優しい顔で私を見下ろしていた。その瞳にどくん、と心臓が鳴るのが分かった。


「私、は...女として見られることは、無いんですよ。」

そう言うとサンジさんは、はぁ、とため息をついた。


「...君の魅力が分からねえ男は、大馬鹿野郎だな。」

どこまで本気なのか分からない。今日初めて会って、何故私の気持ちを読み取ることが出来るのか。
その瞳に吸い込まれそうになる。

私の手を離し、引き止めたお詫びに家まで送らせてくれ、と言う彼のワイシャツを無意識に掴んでしまった。


「...ごめん、なさい...私、」
「ん?」
「女の子で居て、良いんでしょうか...?」

サンジさんはワイシャツを掴む私の手を優しく包むと当たり前だろ、と頭を撫でてくれた。


「こんなに可愛いレディなんだから。」




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