SHORT | ナノ



He is different from usual



朝目が覚め、顔を洗って歯を磨き着替えを済ませると、朝飯だぞーという恋人であるこの船のコックの声に引かれてダイニングへ足を向かわせる。

ダイニングの扉を開けて、おはよーとクルーに挨拶するとそれに皆が挨拶し返してくれる。
いい匂いに包まれながら席に着くと、テーブルの上には既に美味しそうな朝食が並べられていた。


「あー、今日も美味しそう。」
「毎朝お褒めの言葉ありがとう、名無しちゃん。」

いやいや思った事を言った迄、とサンジの顔を見た私はギョッとした。いつもは無いはずのそれが、彼の目元に掛けられていた。
他の皆はいつもと違う彼に驚いた様子もなく、いつもと同じように朝食を食べ始めた。

なんで皆反応しないの、と心の中で思いながら周りを見渡していると、隣に座っていたチョッパーにどうしたんだ?と聞かれた。


「え?...ああ、なんでもないよ。いただきまーす。」
「どうぞ召し上がれ〜!」

目をハートにして言うサンジに、やはり目元にある物以外は本物のサンジだと確認できた。怪訝な顔で見返す私に彼はニコッと笑い返した。




朝食を終えて空になった皿をシンクへ持っていきサンジに渡すとありがとう、と返してくれる。いつもだったらごちそうさまでした、とそのままダイニングを出るのだが今日は違った。
いつまでもその場から離れない私にサンジは、どうかした?と声をかけてきた。


「...サンジって目悪いの?」
「んあ?ああ、これの事か?」

そう言って目元にある眼鏡を指さす彼に、私は頷いた。

「まあな。そんなとこだよ。」

ふーん、と言う私にサンジは惚れ直した!?と目をハートにして顔を近づけてきた。そんな彼を、何言ってんのよ、と軽くあしらうとダイニングを後にした。




「(格好良すぎだろおおおおお!)」

ダイニングを出た直後、私の中の感情が心の中で雄叫びを上げた。なんだアレは、殺人級に格好良い。サンジの事は元々格好良いと思っていたが、眼鏡1つであれだけ格好良さと色っぽさが跳ね上がるのかと悶々とした。


この感情をどうにかしなければ、と展望室へ向かいゾロと一緒に筋トレを始めた。


「...お前、どうしたってんだ。朝から様子が変だぞ。」
「なんでもっ、ないよっ!今日はっ、すごくっ、筋トレしたいっ、気分なのっ!」

ダンベルを上げ下げする私に堪らずゾロが声をかけてきた。不思議そうな顔をするゾロを他所目に、この心の中に湧き上がった興奮に似たような感情を押し殺すように無心で筋トレを続けた。

汗だくになった体をサッパリさせるために大浴場でシャワーを浴び、だいぶ落ち着いたな、と気を引き締めた。



だが頭に焼き付いた彼の顔はなかなか消え去ってはくれなくて、女部屋で自分の戦闘用の武器を磨きながらぼんやりとしていた。
こんなにサンジのことが頭でいっぱいになるのは彼の事が好きになり始めた時以来で、自分でも戸惑ってしまった。


「(サンジって、やっぱり格好良いんだな...)」

ナミやロビン、そして有難いことに私にまで目をハートにして紳士に接してくれる。恋人同士になってからは、周りを気にしてあまりそれに対して反応しないようにしていた。

あまり意識しすぎると痛い目に合いそうだな、と自分に言い聞かせていると、昼飯だぞーという彼の声が聞こえてきた。
今日は1日あれを掛けているのかな、と思いながらダイニングへと向かった。




ダイニングへ入ると案の定、サンジはまだ眼鏡をかけていて、ちらりと一瞥した後あまり見ないように目線をずらした。
いただきまーすという他のクルーの声に合わせて私も一緒にいただきます、と言うと食事を始めた。


ご飯を食べ終わると、朝と同じように空いたお皿をシンクへ持っていく。サンジがありがとう、と受け取るとごちそうさまー、とダイニングを出ようと踵をかえした。


「あ、名無しちゃん。」
「......なに?」
「名無しちゃんが好きそうな紅茶を昨日の島で手に入れてよ、どうかなって。」

昨日まで停泊していた島で私の為に買ってくれたのかと頬が緩みそうになったが、今の彼と居ると自分を自制出来ない気がして返事を渋った。


「あ、そうなんだ...わざわざありがとう。...えっと、」
「座って待っててくれねえかな?」

笑顔でそう言ってくれるサンジにつられ、分かった、と返してしまう。
誰も居なくなったテーブルに座り、手持ち無沙汰から髪を弄るフリをして手際よく食器を洗うサンジをチラ見する。
やっぱり格好良すぎ、と顔が熱くなるのを感じ目線を逸らした。



「お待たせしました。」

コトリ、と私の前に静かに紅茶を置く彼にありがとう、と返すと何故かサンジは私の隣に座ってきた。


「...ナミとロビンには持っていかないの?」
「ん?ああ、これは名無しちゃん専用だから。」

"専用"そう言われドキ、と胸が高鳴るのを感じ、慌てて紅茶に目線を伏せいい香りのそれを頂いた。


「すごい美味しい...」
「良かった。」

買ってきた甲斐があった、と新しい煙草を取り出し火をつけるサンジを横目で見ると、ドキドキと心臓がうるさくなってきた。


「名無しちゃん、今日俺の事ずっと見てただろ?」

いきなり言われたその言葉に、口に含んだ紅茶を吹き出しそうになった。


「えっ!?」
「いや、というより盗み見てたって感じか?」

バレてた...!と思い、違うの!、と否定するが、私は間違いなくサンジをチラチラと見ていた。


「愛しのハニーからの眼差しに、気づかねえ訳無えだろ?」

な?、と私の顔を覗き込むサンジに、顔がどんどん熱くなる。

「いや、その...」
「ん?」
「眼鏡...」

これか?と眼鏡を指さすサンジに私の心臓はバクバクしていて、それを誤魔化したくて口を開けた。


「サンジって、いつもはコンタクトなんだね...!何かいつもと違うからびっくりしちゃって...」

何かごめんね、と私が言うとサンジはいや俺こそすまねえな、と眼鏡を外した。思わず顔を上げて彼を見るといつもと同じ顔がそこにはあった。眼鏡は外したはずなのに、何故か私の心臓は未だにバクバクと鳴っていた。


「え、取っちゃうの...?」
「掛けてた方が好み?」
「そ、そういう訳じゃ...!」

私の気持ちを見透かしたかのように、そしてからかうように言うサンジにここから逃げしたくなってしまう。


「外しちまうと名無しちゃんの顔よく見えねえな。」

今はその方が好都合だ、と思いながら、それは残念だね、とサンジに言うと彼は私との距離を縮めてきた。


「...よく見せてくんねえか、そのクソ可愛い顔。」
「!っ...」

これはいつもの口説き文句だ、冷静にいつものように対応しなきゃ、と深呼吸して彼に向き合う。


「っ何言ってんのよ...本当にそんな目悪い訳?」
「この距離でも見えねえな。」
「...本当に?」

これくらいでも?と顔を一気に彼に近づけるとそのまま後頭部に大きな手で包まれ、そのままキスをされた。

やられた、と思った時にはもうサンジの手からは逃げ出すことは出来ず、そのまま暫く唇を重ねた。


「...っ、サンジ、本当に目悪いの?」
「あー、まあ、な。」
「嘘だ。」
「...名無しちゃん、顔赤くなってるぜ?」

誤魔化すな!と近い顔を押し退けると彼は、だってよ、と続けた。


「こうでもしねえと名無しちゃんとキス出来ねえと思って。気分転換にコレを掛けてみたらまさかの反応で嬉しかったんだぜ?」

眼鏡を持ち上げるとそのまま目元に掛ける彼に思わず、ニヤけそうになる口元を引きしめて自分の気持ちを伝えた。


「...サンジは眼鏡を掛けてても掛けてなくても、格好良いよ。」
「...はー、名無しちゃんは世界で1番クソ可愛い。」

結構バカップルだな、と2人で笑い合いながら眼鏡を掛けて格好良さが増した彼にもう一度口付けをされた。




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