SHORT | ナノ



What is love?



私は多分恋をしている。その相手というのがこの船の船長。彼と居ると楽しくて、心の底から笑えて、だから大好きなのだ。

ナミにルフィの話をすると、その話聞き飽きた、とあしらわれた。


「ねえねえナミ、これって恋かな!?恋だよね!?」
「あー、そうねぇ。」
「よし!私の初恋、応援して!」
「はいはい、頑張りなさい。」

よっしゃー!と張り切る私にナミはやれやれ...と呟いた。

私は生まれてから一度も恋をしたことが無かった。好きだの、愛してるだの、そんな感情を男の人に抱いたことなんて無かった。
この船の仲間になり、気がつけば一緒に居る事の多いルフィのことが大好きになった事実と、そして何よりも大人への階段を登る感覚を喜んだ。


「(ふふふ、これが恋か...)」

よし、といつものようにサンジの作ってくれた美味しい美味しい朝食を済ませるとルフィを誘い、チョッパーとウソップと縄跳びをした。
楽しくていつまでも遊んでいたかったが、今日はとても天気が良く喉が乾いた私はダイニングへ向かった。


「サンジ、お水くださいな。」
「かしこまりました、レディ。」

ダイニングへ入るとサンジが昼食の準備をしており、私の要求に紳士に応えてくれた。
私は少し大人になったかのように、ありがとう、と答えながらカウンターに座った。


「名無しちゃん、お水でいいのかい?ジュースもあるんだぜ?」
「良くってよ。」

私の変な言葉使いに、その口調は何かな、と水を差し出してくれた。


「貴族ごっこかい?」
「違うよ!...サンジ、私は大人への階段を登り始めたの。」
「へえ?どんな大人への階段なんだ?」
「私ね、恋してるの。」

へへ、と笑う私をポカンと見つめるサンジ。
いつも子供扱いする彼に驚いたか、と見返す。


「...あー、そうか。で、プリンセスは誰に恋してるんだい?」
「それはね、秘密。」

ふーん、と呟く彼に堪らず私は知りたい?と聞いた。

「教えてくれんのか?」
「皆に言わないって約束してくれるなら!」
「もちろん、約束する。」

ナミには話したんだけどね、と言うと私はこの船の船長だと彼に伝えた。

「...へぇ、名無しちゃんはルフィが好きなのか。」
「そうだよ!秘密にしてね!」
「ルフィのどこが好きなんだ?」
「えっと、遊んでくれる所と面白い所と、体中が伸びる所と...」

止まらない私の言葉を遮るように、サンジはちょっと待った、と口にした。


「じゃあ、ルフィと居るとドキドキしたりするのか?」
「ドキドキ...?」

ドキドキ...って、何。腕を組みながら考える私の様子にくくっ、と笑うサンジ。
少し馬鹿にされてる気がして、何がおかしいのよっ、と吠える。


「いや、名無しちゃんの言うそれ、本当に恋なのかなってよ。」
「...じゃあ、恋って何なの、好きって思うのは恋でしょ。」
「まあな。でも好きって一言で言っても色んな意味があるからな。」

どうゆうこと、と聞き返すとサンジは私の大好きなジュースをコップに注いでくれた。


「じゃあ、チョッパーの事は?嫌いか?」
「好きだよ!可愛いし、遊んでくれるし、怪我したら手当してくれるし。」
「ウソップは?」
「好き!面白いし、おもちゃ作ってくれるし。」

プリンセスはそんなに好きな人が居るのか、とサンジはまた笑った。確かに、考えてみれば私はこの船のクルー全員が好きだった。


「...皆に恋してる!?」
「恋というより、家族みたいなもんじゃねえか?」

そうか、そうだったのか。私はまだまだ子供なのか...ちくしょう、と大好きなジュースをぐっと飲んだ。


「サンジさん。」
「何でしょうかプリンセス。」
「恋とやらを、教えてくださいませんか。」

この年中ナミやロビンに恋してる男なら詳しく教えてくれるだろうと、私はサンジに問いかけた。


「そうだな...恋ってのは、いつの間にかしてるもんだ。」
「...いつの間にか?」
「気付いたらその人の事ばかり考えてて、会いてえとか、声を聞きてえとか、触れてえとか、そんな事ばっかり頭を埋めつくしちまう。」

そんな感じ、と続ける彼にやっぱりこの人は大人びているな、と思った。私は自分の未熟さに項垂れた。


「...恋、できるかな。」
「そんなにしてえのか?」
「だって、ドキドキしてみたいじゃん。」

空になったコップを握りしめてそう呟く私の左手を不意にサンジの右手がそっと取り、そこへ彼は唇を落とした。

その一連を目で追っていた私はいきなりの事に開いた口が塞がらなくなり、顔が熱くなるのが分かった。


「な、な、な、何して...!」
「......どうだ?ドキドキしたかな?プリンセス。」
「な、な、何言ってんのー!」

握られた左手を引っ込め、急いでカウンターの椅子から降りてダイニングから走り去った。

急いで女部屋へ戻り自分のベットに腰掛けると、走ったせいなのか分からない胸の高鳴りに戸惑いながら、サンジの顔が頭から離れないことに動揺する。


「......死ぬっ。」

その言葉と共にバフッ、と布団の上に倒れ込んだ。





いつの間にか寝ていたのか、部屋の扉をコンコン、とノックする音で目を覚ました。


「名無しちゃん、もう少しでお昼ご飯だよ。」

ドア越しに聞こえたその声に、私は勢いよく起き上がった。
わ、分かった今行くから、と上ずった声で返したがその男は断りも無しに部屋に入ってきた。


「ちょ、今行くって言ったじゃん!」
「強制的に引きずり出さねえと部屋から出てこない気がして。」
「大丈夫だよ!行くって!ナミに怒られても知らないよ!」

目を合わさず答えるがそのまま彼は、怒られるだけじゃ済まねえかもな、とこちらへ近づいてきて私のベッドに腰掛けた。
早くなる心臓の音に苦しくなってきて、胸を手で抑え込む。


「...どうした?まだドキドキしてんのか?」
「...っ!な、誰のせいだと...!」
「ルフィじゃねえのか?」

挑発的な言葉に顔を上げると、サンジの片方しか出ていない目がこちらを覗き込んでいた。


「...苦しいよサンジ。私なんか変。」
「なんでだろうなあ。」
「知ってるくせに...」

すっとぼけるサンジが憎くて睨みつけるが、当の本人はふー、と煙草をふかしていた。


「誘ってるのか?名無しちゃん。」
「はあ!?そんな訳ないじゃん!怒ってんの!」
「そんな顔されても可愛いだけだ。」

何言ってんだこの男。ムカつく、こっちはこんなに切羽詰まってるのに、何でこんなに余裕なんだ。


「じゃあ俺の秘密教えるから許して貰えねえかな。」
「...何、秘密って。」
「俺の好きな人。」
「サンジの好きな人って世界中の女の人でしょ。」

まあ間違っちゃいねえがよ、と吸っていた煙草を携帯灰皿へ押し込むとサンジは私に向き合いこちらを指さした。


「名無しちゃん。」
「はい。」
「くくっ、呼んだんじゃねえよ、俺の好きな人。」

本当に何言ってんだ、と思った瞬間長い腕が伸びてきて思い切り抱きしめられた。
不意の出来事に驚き、何すんの、と身じろいだ時。


「好きだ、名無しちゃん。」

耳元で囁かれたそれに、心臓が止まるかと思った。


「嘘だ...」
「嘘じゃねえよ、本当だ。」
「じゃあ、サンジもドキドキしてる?」
「ああ、さっきから心臓がクソうるせえ。」

体が離され、私の顔を大きな手で優しく包むと顔を上げられサンジと目が合う。


「サンジは、恋してるの?その、私に。」
「してるよ。名無しちゃんに会いてえなとか、名無しちゃんの声を聞きてえなとか、名無しちゃんに触れてえなとか、そんなことばっか考えちまってる。」

あと名無しちゃんにキスしてえなとか、と続けるサンジの言葉に、自分が自分じゃなくなるみたいに自然に口が開いた。


「私も、サンジとキスしたい...かも...」

思わぬ反応だったのか目を少し見開いたあと、後悔しねえか?と聞いてくると、しないよ、という返事を聞くと同時に私の唇に自分の唇を重ねた。
これがキスなんだ、とサンジの唇の感触と雰囲気に酔いしれてるとそのままベッドの上に押し倒された。


「っ、ちょ、サンジ...何してんの...!」
「名無しちゃん、もう少し大人の階段登ってみたくねえ?」

アホかー!!とサンジの顔を殴るとそのままベッドから抜け出し走って女部屋を出た。


「あーちくしょう、クソ可愛い...」

殴られた頬を抑えながら、サンジは昼食を待っているであろうクルー達の居るダイニングへと向かった。





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