SHORT | ナノ



Sweet sounding words



サンジに愛の言葉(?)を囁かれた私は頭に血が上りすぎてパニクってしまった。
フラり、とよろめく私をサンジが肩ごと抱き寄せるといよいよ失神しそうだった。

タイミング良く入ってきたウソップとチョッパーが私の顔を見て何があったんだ!?と騒ぐ。


「サンジ!お前そんな大胆なセクハラを...!」
「違えよ!何言ってんだこの長っ鼻!」

近い、近い、私今サンジの胸の中に居る。一見細そうな腕は意外と筋肉がついており、そして煙草の匂いと彼自身の匂いにも頭がクラクラしてしまう。


「...っサンジ、大丈夫、だか、ら...」
「大丈夫じゃねえだろ、倒れそうじゃねえか名無しちゃん。」

誰のせいだと思っているのかこの男は。わざとやってるのか。
なんで私だけこんな事になってしまっているのか。あんな事を囁いてもなお、平静としているサンジについには怒りさえも芽生えそうだった。
私を好きだとは、よく言ったもんだ。


「ほんと...離して、」
「名無し、とりあえず横になろう。」

サンジの体を両手で押し返すと、チョッパーが駆け寄って言った。
それを聞いたサンジは私をお姫様抱っこする態勢を取った。


「...っやめて!!」

私の足を掬おうとしゃがんだサンジの動きが止まり、私を見上げた。
一人で歩けるから、と今度こそ彼の腕の中から脱出すると、チョッパーに医療室のベッドで寝ていいからと言われ、付き添われながらダイニングを後にした。




大したこと無さそうだけど、取り敢えず休むんだぞとチョッパーに言われベッドに横になった。医療室を後にする可愛い足音を聞きながら深いため息をついた。


「...あーもう...」

あんな拒絶すること無かったのに、と深々と反省する。でも彼の近くにいると、私が私で無くなってしまうような感覚に陥り、頭で行動出来なくなってしまう。

あのサンジの言葉は本当なのだろうか。
確かに先程彼は私の事を好きと言い、仕舞いには愛おしいと口にした。
そう簡単に口に出来るものだろうか。いや、彼なら出来るだろう。
全世界の女性に、言ってくれと言われればどんな甘い言葉も口にするだろう。

だんだん冷静になってきて、それと同時に何故か心が押しつぶされそうな程苦しくなった。

気づいてしまったのだ、自分の気持ちに。

いつも美味しい食事やデザートを作ってくれる、いつも優しい言葉をかけてくれる、いつもどんな時でも気遣ってくれる彼が。
こんなにも私の心を占領している。


「好きだなんて、簡単に言わないでよ...」
「好きな子に好きって言っちゃ、ダメなのかい?」

ばっ、と声のする方へ体を起こし目をやると今ずっと頭の中に浮かんでいた彼が部屋の入り口に立っていた。
コツコツ、と歩き大人しく寝てろ、と言いながら近づいてくる。言われた通り寝てやる、と思いながら頭まで布団に包まる。


「...何しに来たの。」
「お見舞い。」
「結構です。」

布団越しにやり取りし、可愛さの欠片も無いなと自分でもウンザリする。しかしどうゆう了見で来たのか、ついぶっきらぼうになってしまう。


「...私、サンジの言葉信じない事にしたから。」
「...ほう。」
「本当だから、さっき言ったことも信じない。」

そんな事言いたいんじゃないのに。
天邪鬼な自分が顔を出すのが分かる。


「さっきのって、俺が名無しちゃんを世界一可愛いって言ったこと?それとも、」

好きって言ったこと?と続けた。
どっちもです!と言ってやろうと布団から再び起き上がると、こちらを見つめる瞳と目が合う。


「...、分からないよサンジが。なんであんな...反応を楽しんでるの?ナミやロビンみたいに冷静じゃないから?私の気持ち知ってて言ってるの?」

言い終えて、しまったと思ったと同時にサンジがベッドの端に座った。

「名無しちゃんの気持ちって?」
「...っ」

ニヤけた顔で長い足を組みながらこちらを見るその姿にムカつく、と同時に不覚にもカッコいいと思ってしまった。


「素直になれない名無しちゃんも可愛いなぁ。で、聞かせてくれねえかな、名無しちゃんの気持ちとやらを。」

もう分かってるくせに。でも、なんて言葉にしたら良いか分からない。爆発しそうな心臓に手をやるとドクドクと五月蝿い。


「そのまま、思ってることを聞きたい。」

名無しちゃんの口から、と私の唇に人差し指を優しく乗せながら言う。つい、触れられた指に反応してしまい勢い良く顔を横に逸らして言った。


「...すき、」
「ん?」
「サンジが、...好きなの。」

クシャ、と布団を握りしめ絞り出すように声に出した瞬間サンジの手に首の後ろを包まれ顔を向き直される。
そのまま彼の唇と私の唇が重なった。何が起こっているのか分からないままそれは離され、そのままサンジは自分の胸に私を抱き寄せた。

ドクドク、と自分の物なのか、それとも彼の体から発せられている音なのか分からないが、その音を聞きながら本当に死んでしまいそう、と思った。
ゆっくり体を引き離し、彼の顔を覗くと少し照れたように


「俺の心臓クソうるせえだろ。」

と笑った。




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