More than anyone in the world 「んナミさぁ〜〜ん!ロビンちゅぁ〜〜ん!」 来た、と心の中で呟くと同時に名無しちゅぁ〜〜ん!という声が聞こえた。 「デザートをお持ちしましたっ。」 「ありがとう、サンジ君。」 甲板で日向ぼっこをしながら寛いでいた女衆にいつもの様、この船で女の為に生まれてきたと豪語するコックが特製のデザートをわざわざ持ってきてくる。 ナミ、次いでロビンにも美味しそうなケーキとアイスコーヒーを傍にある机にそっと置く。 「...名無しちゃん居ねえのか、」 「あれ、そこの椅子に座って本読んでたはず...」 先程まで確かにこの美女2人に加わり読書をしていたもう1人の女船員が姿を消していた。 空いたその椅子を見つめるサンジとナミにロビンが告げる。 「暑いから中に戻るって言ってたわよ。」 ニコ、と2人に向かって伝えるとナミはいつの間にー?と大して驚いてないようなトーンで言った。 一方、せっかく特製のデザートを持ってきたサンジはそっか、と笑顔で去っていった。 「サンジも可哀想ね。」 「え?あぁ、まぁしょうがないでしょ。名無しのあの性分は簡単には治らないし。」 「ふふ、そうゆう所が可愛いわね。」 少しあからさま過ぎるのがね、とナミはケーキを口にした。 本当に暑い。顔から湯気出そう。彼の声が聞こえた途端、ロビンに言い訳をして光の速さでトイレに閉じこもった。 両手で顔を覆い何故あんなにも女の扱いが他の男共とは違うのか、と悶える。あんな接し方されたら...。 ナミとロビンは何故あんなに冷静で居られるのか。それは彼女達が今までも男性からそのような扱いをされ慣れているからだろう、というのも分かってはいるが。 「(私は2人とは違うんだよ!!バカヤロー!)」 私だってあの2人の様にありがとうサンジ、と冷静沈着に受け答えしたい。でもそう簡単には出来ない。明らかに顔が熱くなるし、動きもぎこちなくなり素っ気なくなってしまう。それが優しくしてくれるサンジに悪いと思い、こうして逃げ出してしまうのだ。 相手は旅を共にする仲間だというのに、早く治したいと自分でも思っているのだが。 「ふーーーー。」 ドクン、ドクンとうるさかった心臓も落ち着きを取り戻し、パンっと顔を両手で叩き気合いを入れる。 甲板へ戻れば私の分のデザートが置かれていているはず。それを思うままに味わい幸せな気分に浸った後サンジに自分のと、ついでにナミとロビンの分の食器を返す時に素っ気なくごちそうさま、とやっとの思いで彼に言うのが私のいつものやり過ごし方である。 「あ、名無しあんた大丈夫?」 「うん!大丈夫!ちょっと逆上せただけ!」 トイレを出て甲板へ行くとナミが私に問いかける。何も無かったように振る舞う、が...おかしい。今日はいつもと違った。机の上にはナミとロビンの分の空になったお皿だけが乗っていた。 「...お皿、片付けてくるね。」 「いつもありがとう、名無し。」 ロビンに笑顔で言われ、いえいえと返す。もしかして、私のデザートは抜き...。 仕方ない、いつも素っ気ない態度をとってしまうし、そして何よりあの2人のように美人じゃないし。 ダイニングを開けるとそこには、いつも私が食器を持ってくるのを待っていてくれる人の姿が無かった。 なぜか苦しくなった胸を抑え、食器をシンクへ持っていき洗おうと蛇口を捻る。なんでだろう目頭が熱い、視界がぼやける。スポンジを掴もうとした時、 「何してるんだ?」 その声に勢いよく顔を上げると、シンクの向かいのカウンター側にサンジが立っていた。いつもの目をハートにしたデレデレとした態度でも無く、優しい言葉を囁く甘い表情でも無い、真面目な顔をして。 「...え、えと、」 すぐに洗い物、と言葉に出来ず吃ってしまう。サンジはこちらへと歩いてくると蛇口を捻り、水を止めた。私は顔を伏せ目線をシンクに移す。何だか気まずい雰囲気の中、サンジが言葉を発した。 「やらなくていい。」 余計なことをするな、まるでそんな言い方。例えばこの言葉をゾロに言われたとしても何とも思わないだろうが、相手がサンジだというだけでこんなにも胸が苦しい。 「あ...、ごめ、」 この空気をどうにかしたくて何か言おうとするが、堪えていた物が頬を伝うのを感じた。 「え!?名無しちゃん、どうして泣いて...」 「なんでも、ない。」 いつもの様に素っ気なく言うが、上手く喋れない。ここから消えてなくなりたい。 サンジは内ポケットからハンカチを取り出だすと私に差し出しながらあー、と口を開いた。 「レディが泣いてる所本当にすまねぇんだが、一つ聞いてもいいかい?」 「...なに。」 「俺の事嫌い?」 差し出されたハンカチを受け取ろうとしたのだが、嫌い...?私がサンジのこと?その質問に思わず涙はピタリと止まり、頭の中に?マークが浮かぶ。 「私が...?なんで、」 「俺名無しちゃんに避けられてる気がして。」 気のせいだったら嬉しいんだが、と続けた。 私がサンジを避けてる...そんなこと、いつした? 「っ、サンジが私の事嫌いなんでしょ。」 そう返すとサンジは目をこれでもかと開いて、おまけに口も塞がらないようで咥えていたタバコが床に落ちた。 「俺が?名無しちゃんを?そんなこと死んでもねえよ。」 床に落ちたタバコを拾い上げるサンジを見下ろし今の隙にと横を通り過ぎようとしたが、それよりサンジが立ち上がる方が早かった。 「ほらな、避けてるだろ?」 さっきも何処に隠れてたんだ?と腕を掴まれて振り向かされる。真剣な眼差しのサンジの顔が目の前にあり、心臓がうるさくなる。 「...恥ずかしいの。」 「恥ずかしいって...何がだ?」 顔が熱くなるのが分かる。思わず顔と目線をそらしてしまう。ああ、またこうなるのか。私の嫌な部分が出てきてしまう。 「サンジは、意識してないだろうけど、私は...」 「......」 「あまり優しくしないで...私は美人でもないし、ナミやロビンみたいに特別扱いされるとなんていうか、恥ずかしいし...普通に話したい。」 黙って聞いていたサンジがくくっ、と笑う。 何がおかしいのか、ムッとしてサンジを見ると優しい笑顔でこちらを見ていた。 「名無しちゃん、可愛すぎだろ。」 「か、可愛いっ...?」 「クソ可愛い。...そんな顔、俺以外の野郎に見せないでくれな?」 そんな顔ってどんな顔なのか。だが、言いたいことを言えた私の心は少しスッキリしていた。掴んでいた手を私の腕から離し、サンジは続けた。 「ナミさんとロビンちゃんは確かに美人だ。だけど、俺が話しかけると顔を赤くする名無しちゃんは、」 私の頭に大きな掌をぽんと置いて、世界一可愛い、と耳元で囁いた。 ぼんっ、と顔から火を吹くとはこのことか。 さすがに耐えきれず急いでサンジと距離をとると、余裕そうに新しいタバコを取り出した。 「...からかわないで。女の人皆にそんな事言ってんでしょ。」 「さすがにここまでの事言ったこと無えな。」 信じ難い、しかし、いつもクネクネしてるサンジを思い浮かべて今の姿と比べてみると、本当なのかもと考えてしまう。 「...さっき怒ってたでしょ?」 「ん?怒ってねえよ?」 「嘘、顔怖かったもん。」 あー思い出した、と言うとサンジは再び私と距離を縮めると名無しちゃんに作ったデザートルフィに食われちまってよ、と不機嫌だった理由を明確にした。 「ごめんな、急いで新しいの用意しようと此処に戻ったきたんだけどよ...名無しちゃんが洗い物してたから、なんか焦っちまって。」 「別に私は、デザートなんてたまにで良いし、洗い物ぐらいするし...」 本当は毎日食べたいけど、と心の中で呟く。 「俺は、毎日俺の作ったデザートを食べて幸せそうな顔をする顔が見てえんだよ、好きな子の。」 「好きな、子...」 ナミとロビン、どっち。考え込む私を見てサンジが口を開いた。 「名無しちゃん、恥ずかしがり屋な上にクソ鈍感だな。」 「え、なんでよ、」 「俺の好きな子、目の前にいるんだが。」 いや何言ってんのこの人。と呆けていると、さすがに気づいてくれ、と言いながらじっと私の目を見ながら言った。 「恥ずかしがり屋な名無しちゃんも、いつもデザートの食器を届けに来てくれたり、食後の片付けを手伝ってくれる優しい名無しちゃんも、」 愛おしすぎる。私の耳元に唇を寄せながらいつもより低い声で囁かれたそれは、殺しにかかって来てると思えた。 前へ / 次へ [しおり/もどる] ×
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