SHORT | ナノ



The beginning of love starts with a misunderstanding



本当に、こんなことって起きるんだ。

「ったく、なにしてんだお前は...」
「ごめん、...ゾロ。」

今の状況を簡潔に説明すると、今ゾロは私の下敷きになっている。何故こんな状況になってしまったのかというと...


雨が降っている為甲板にも出られないし久しぶりに筋トレでもしようかなと、展望室で高い鉄棒にぶら下がって懸垂を試みた結果。手を滑らせてしまい床に落ちる...と思った矢先、傍でダンベルを使って筋トレしていたゾロが私のことを受け止めてくれた。
これって何か恋愛小説のワンシーンみたいだな、と思わずに居られなかった。

「ほんとごめんね...」
「そんな謝んな。」

ゾロの上から退こうと両手を彼の頭の両脇についた時だった。
可愛らしい声が部屋に響いた。



「な、何してんだー!!!」
「チョ、チョッパー...!」
「名無しお前!ゾロに何しようとしてたんだー!!?」
「ち、違うよ!何言ってんの!」

どうやら彼には私がゾロに襲いかかっている様に見えたらしい。
ばっ、と勢いよくゾロから離れると慌ててチョッパーに説明しようとした時だった。

飯だぞー、と言う私の意中の彼の声が聞こえてきた。その声と共にゾロはチョッパーに本当に何でも無えからそんなに騒ぐな、と伝えて部屋を後にした。


「なんだ...。びっくりさせんなよ名無し!」
「だから、チョッパー...」
「ほら、飯食いに行くぞ!」

トテトテと歩く可愛いトナカイの後をついて歩き、一緒にダイニングへ向かった。

私がゾロを襲おうとしていた、という彼の中での誤解を解きたかったが、とりあえずご飯を食べてからで良いかと思った自分を恨む事になるとは、この時の私は知る由も無かった。




それはダイニングに着き、テーブルに腰掛け食事をし始めた直後だった。チョッパーがゾロに向かって、本当に何もされてないのか?と声をかけた。

「何も無えっつってんだろ...あとな、お前何か誤解して...」
「何だ?ゾロどうかしたのか?」

ゾロがチョッパーに弁解をしてくれようとするのを遮るようにルフィが問いかける。

「名無しがゾロに襲いかかってたんだ!」
「「「ブーーーーー!!!」」」
「あら、大胆ね。」
「だからチョッパー!違うっての!!」

チョッパーの言葉にクルー達は食べていた食事を吹き出し、ロビンに至っては恐らくチョッパーの言う「襲う」とは違う意味に対してのことを言う始末。

「何だ!?ケンカか!?」
「だから違えっつってんだろ!話を聞け!」

ルフィとチョッパーの純粋さに何故かこちらが恥ずかしくなってしまう。ゾロには助けてもらった上にとんだ迷惑をかけてしまった。


それと、別にサンジと私は恋人同士ではないが私がゾロを襲ったという事(誤解だが)を耳にされてしまった事にちゃんとあの時にチョッパーに説明しておけば良かったと心から後悔した。

「ゾロ!名無し!仲直りしたなら良いけどよ!ケンカは良くねえぞ!」
「良くねえぞ!」
「お前ら話聞く気無えだろ...」

ルフィとチョッパーは最後まで私とゾロがケンカしてたと勘違いしたまま、ゾロも説明をする気を無くし、それよりこの魚俺とウソップが釣ったんだぞ!うめえだろ!と言うルフィの言葉によって話題が変えられてしまった。

だんだんと食欲が無くなってくるのが自分でも分かったが、好きな彼が作ってくれたご飯を残すまいと少しずつ食べ続けた。



いつもなら皆と一緒に自分の食器をシンクまで持っていく所だが、今はサンジと接するのが怖かった。
それでも重たい腰を上げシンクへ食器を運び、洗い物をしている彼の元へと歩く。

「...サンジ、ごちそうさま。」
「ああ、ありがとうな名無しちゃん。」

いつも通りの彼に自分が気にし過ぎだったんだとほっとすると同時に、何故か胸が締め付けられるような感覚が襲ってきた。

そのままダイニングに居るのが苦しくて、展望室へ足を運ぶ。


私の好きな人はゾロだと勘違いされたかもしれない、それだけ。例え本当に私がゾロに襲いかかろうと、サンジには関係ない事だ。
彼にとって私はクルーの1人に過ぎないのだから。



展望室の電気をつけずいつの間にか止んだ雨の後の、雲一つ無い満月の光が輝く夜空を見上げる。

例えばゾロに襲いかかったのがナミやロビンだと聞かされたら彼は黙っていないだろうな、と考えて涙が溢れてくる。



「名無しちゃん?」
「っ...!!」

優しく私の名前を呼ぶその声に勢い良く振り返ると、そこには大好きな彼が心配そうにこちらを見ていた。

「元気無さそうだったから様子を見に来たんだが...電気もつけねえで、どうしたんだ?」
「サンジ...、」
「っ!!名無しちゃん、泣いてるのか!?もしかして...あのクソマリモか!?」

あの野郎...!!と青筋を立てるサンジに、違うの、と返す。

「じゃあどうして...」
「何でも無いの、本当に。ごめんね。ありがとう、サンジ。」
「何も無いんだったら...何で泣いてるんだ?」

涙の訳なんて、言えるはず無い。
貴方の事を想って流した涙なんて、言えないよ。

黙り込む私に、あのよ、と顔を覗き込むサンジ。顔が近くて、思わず顔を伏せながら濡れた頬を袖で拭う。

「...あのクソ野郎の事になんざ1ミリも関わりたく無えけどよ。名無しちゃんの気持ちを少しでも軽く出来るなら、話ぐらい聞くぜ?」

本当に嫌だけどな、と完全に勘違いしている彼に何て言えば良いのか分からなくなる。
ふー、と煙草の煙を吐くサンジを見上げる。


「名無しちゃんの泣いてる顔を見るくらいなら、例えクソマリモの事だろうと笑ってる名無しちゃんを見てえからよ。」

その優しい言葉と瞳に吸い込まれそうになる。
今すぐに私の本当の気持ちを伝えなければと、思った。

「あの、ね、」
「うん。」
「......好きなの。」
「......そうか。」
「...サンジの事。」
「............ん??」

目を丸くするサンジにもう一度、サンジが好きなの、とはっきりと言葉にする。
サンジの口に咥えられた煙草が床にポタ、と落ちる。
やべ、と慌てて煙草を拾い上げ携帯灰皿にそれを突っ込むとサンジは再度私を見下ろした。

「悪い...えっと、訳分かんなくなってきちまった。名無しちゃんが好きなのって、あのクソマリモじゃ、」
「違う...私が好きなのは、サンジなの。」

これってドッキリ?と言う彼に、何それ、と思わず笑ってしまった。

「じゃあ、名無しちゃんがあの野郎を襲ってたってのは...?」
「だからあれはチョッパーが誤解して騒いでただけで...本当はあの鉄棒から落ちそうになったのを、ゾロが受け止めてくれたの。」

鉄棒を指さしながら説明すると、そうだったのか...と未だに少し間抜けな顔をするサンジだったが、だんだんその顔は怒りの表情に変わっていった。


「アイツが名無しちゃんに触れた事には変わりねえってことじゃねえかーー!!!!」
「え、何でそうなるの...」
「名無しちゃん...抱きしめて良いか?」
「はっ!?何でそうなるの!?」

ちょっと意味わかんないんだけど...!と顔を赤くする私をサンジは覆い被さるように抱きしめる。意外と筋肉質なその腕の感触に、心臓がうるささを増していく。


「...俺以外に触れて欲しくねえんだよ、本当は。名無しちゃんがあの野郎に襲いかかったって聞いた時、内心かなり動揺しちまって何も言えずに居た。名無しちゃんの気持ちはあのクソ剣士に向けられちまってるんだってな…情けねえだろ。」

その言葉に応えるようにサンジの背中に腕を回すと彼の腕の力がぐっ、と強くなる。

「サンジ...私、...」
「...名無しちゃん、悪いが今度は俺が名無しちゃんの事襲っちまいそうだ。」
「え...?」

顔だけを上に向けるとサンジは、そんな顔されたら...とそのまま顔を近づけてくる。
お互いの唇が触れそうになった時、パチっと部屋が明るくなった。



「.........おーい、チョッパー。名無しがエロコックに襲われてるぞー。」
「っおい!クソマリモッ...!お前本当にぶっ殺すぞ!!」

チョッパーを呼ぶゾロの後を追いかけるサンジの後ろ姿を見つめながら、私は熱くなった両頬に手を当てた。





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